表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

道は私が切り開く

 直径三メートル強はあるヒヒイロガメの甲羅は、その巨大な外観に反して思ったよりは軽かった。

 妖しく艶光する深紅の輝き。

 じっと見つめていると、吸い込まれて気でも狂ってしまいそうだ。


 ヒヒイロカネは、オリハルコンやアダマンタイトと共に、伝説の金属と呼ばれている。


 神の金属と呼ばれているオリハルコン。

 古い文献に記されているだけで、その存在を確認した者は現在ではいないらしい。


 自然界一の硬度を誇るアダマンタイト。

 超激レア鉱物であり、お母さんが所属していた昇りゆく太陽(ライジングサン)の勇者、ユリアンの愛刀はアダマンタイト製だったと言われている。

 まあ、うちの実家にあるんだけどね。

 お母さんが怒るから触らせてもらったことはないけど。


 そして、ヒヒロイロカネ。

 ヒヒイロガメ自体、何十年と目撃情報すらなくとっくに絶滅したと言われていたのだ。当然、ヒヒイロカネも、少なくとも南部大陸には現存していないと、学院の講義では習った。

 硬度はアダマンタイトにいくらか劣るけど、その分軽くて、何より魔力の伝導率が異様に高いのが特徴らしい。


 その伝説の金属が、今は私の所有物。

 ふふっ。

 想像が膨らむよ。

 ヒヒイロカネをああしてこうして……。考えただけでもにやけちゃう。

 これこそ、清く正しい推し活ってなもんだ。


「――まりりん様……。これはなかなか大変な、作業ですね。重いです」


 ヒヒイロガメの甲羅に括り付けたロープを引っ張って、水晶のダンジョンの出口まで運ぶのはマシロとレイジィの役目だ。

 意外と軽いとはいっても、絶対的な体積が大きい。普通に重たい。私なんかの力じゃ、ビクともしない。


「頑張れ頑張れマシロッ! 頑張れ頑張れレイジィ! はい、電光石火(ライトニングファイヤ)ッ!」


 私には、頑張って運んでいる二人を応援して、筋力バフの魔法をかけ続けることぐらいしかやる事はない。

 だってしょうがないじゃん。

 可愛らしいお嬢さんの私には、泥臭い力仕事なんてできないんだから。


「ありがとうございます。力が湧いてきましたよッ! もう少しで出口です。頑張りますッ!」


 マシロは健気に、ロープを引いている。

 レイジィは少し前から、ずっと無言だ。


「おーい、レイジィ。元気ぃ?」


 レイジィの顔をのぞきこむ。


「あっ。これはダメなやつだ」


 顔面が蒼白ってゆうか、目の焦点があってない。

 次の瞬間。

 バタン、と音を立ててレイジィがぶっ倒れた。


「レ、レイジィさんッ!? 大丈夫ですかッ!?」


 体力が尽きたようだ。


「レイジィ……。あんたの事は忘れないよ」

「ま、まりりん様ッ! 冗談言ってないで、どうしましょ!?」

「そうだねぇ……。あっ、甲羅の上にレイジィ乗せて運べばいいんじゃない?」

「名案ですねッ! さっそく乗せましょうッ!」


 甲羅の上に、レイジィをうつ伏せで寝かせてマシロが引っ張っていく。

 先の戦闘では、相手が魔族化したココロだったから霞んじゃったけど、やっぱ獣魔族の膂力は、半端ない。

 レイジィを乗せた甲羅を軽々と引っ張ってる。

 レイジィの奴、途中でぶっ倒れてマシロに運んでもらったなんて知ったら、へこむだろうな。レイジィの名誉のために、黙っておいてやるか。

 私は気づかいのできる女なのだ。


 しばらくして、ようやく水晶のダンジョンの出口にたどり着いた。


「お疲れマシロ。休んでていいよ。今日はこの辺で野営して明日帰るから」

「お役に立てたようで、嬉しいです」


 出口付近で野営して、翌日。

 回復したレイジィが手綱を握り、私達はノスウッドの村へと戻っていった。

 

 ※ ※ ※


 ヒヒイロガメの甲羅をとってくる行程には結局、四日かかった。


 馬二頭に、荷台に乗せた巨大な甲羅を引かせているのでは、どうしても目立ってしまう。こじんまりした村だ。白夜の団(ホワイトナイト)に見つかってしまう可能性が高い。

 レイジィには村を迂回してもらって、村の東門付近で待っているように言ってある。


 私は認識阻害ローブを纏い、犬型に戻ったマシロと共に白夜の団(ホワイトナイト)が泊っている宿へと向かった。


「――まんま、しろ、しろ、かえってきたぁ」

「――マシロッ!? あんた一体どこ行ってたのよッ!? 探してたのよ? 心配かけんじゃないわよ、まったくもう」

「――ワンワンッ!」


 セツナとトワが、マシロに向かって駆けてくる。

 私は少し離れた場所に潜み、その様子を見ていた。

 トワはすっかり元気になったみたいだ。


「――ああっ!? シロちゃんだッ!」


 ココロが駆け寄り、マシロを抱きしめる。


「――ハッハッハッ、ワンワンワンッ!」


 じゃれあい、息を切らすマシロ。

 尻尾を尋常じゃなくらい振り振りさせている。 


「――マシロ。君に言いたいことがある」


 ユータス様が静かな足取りでやってきた。

 気づいたマシロが、ビクッと身体を揺らす。

 あ、あれ? ちょっと怒ってる? 平坦な口調でマシロに語りかけるユータス様。

 なんか、いつもと雰囲気が違うような……。


「……ワン」


 ふいにマシロの頭に、手を伸ばすユータス様。

 えっ、もしかして鉄拳制裁!? そんなッ!? 

 わっ、ごめんマシロ。私のせいでッ!


「―――無事に帰ってきてくれて本当に良かった。でもな。次からは、一言、声かけてくれよ? 約束だ」

「くうぅーん」


 マシロの頭を優しく、慈しむようになでなでするユータス様。

 しゅんとした表情で撫でられるがままのマシロ。

 さすがはユータス様ッ! そうきたかッ!


 ってか。う、羨ましすぎるよマシロッ! や、ちょっと、もうやめてッ! これ以上撫でないでッ! マシロに風魔法打って、吹っ飛ばしちゃいそうだよッ!


 くっ……。じ、自制心……自制心。


 落ち着け私。マシロはサポメン。私の仲間。

 今はただの犬っころ……。


「――さて。マシロも帰ってきた事だし、みんな、そろそろ冒険の続きをしようかッ!」


 マシロをひとしきり撫でまわした後、ユータス様が高々と声を上げた。


「――そうね。トワもすっかり元気になった事だしね」

「――ぼーけん、いくッ!」


 セツナに抱かれたトワが、元気な声でこぶしを挙げる。


「――うんッ! 楽しみだな、カドケスの町ってどんな所だろ」


 ココロが弾む声で続く。


「――ワンワーンッ!」


 マシロの鳴き声が、青空に響き渡たる。


 どうやらぐずぐずしてる暇はなさそうだ。

 後は任せたぞ、マシロッ!


 私も行こう。

 

 ユータス様達は安心して、来てください。

 道は私が、切り開く。


 私は、村の東門で待っているレイジィと合流して、一足先にカドケスの町へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ