もう大丈夫
「ねえマシロ、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫ですッ! ユータス様とココロもじきに目覚めるでしょう。クリアクリスタルも採取できました。後はお任せくださいッ!」
「ほんとにほんとに、大丈夫?」
「本当に大丈夫ですッ! まりりん様とレイジィさんは先にお戻りくださいッ!」
「……わかったよ」
「ありがとうございます」
ココロにはたっぷりと回復魔法をかけておいた。
傷もあらかた癒えて、今はぐっすりと眠っている。
ココロとユータス様が眠っている間に、そこかしこに埋まっていたクリアクリスタルの採取も済ませてある。
この場で私にできることは全てやりきった。
本音を言えば、ユータス様とココロが目を覚ますのを見届けて、ノスウッドの村まで帰る道程をこっそりつけて行きたいけど、私はぐっと我慢した。
ユータス様は、強くなっていた。
一人でCランクの魔獣に勝てる程に強くなっていたんだ。
過保護に守っているだけが、愛情表現じゃない。時にはただ見守ることが、長い目で見ればユータス様のためになるんだろ思い知ったのだ。
けっこう辛いけどね。身を引きさかれるほどに辛いけどね。
「マシロもああ言ってんだしよ、ずらかるとしようぜ。さすがにユータスの奴、そろそろ目、覚ますだろ」
地面に胡坐をかいて休んでいたレイジィが、立ち上がって言った。
「そうだね。とりあえずダンジョンの魔獣はきれいに掃除しとくから、あまり間をおかずに来てくれるといいな」
「はいッ! ――まりりん様には、感謝してもしきれません。本当に、ありがとうございました」
白銀のロングヘアーをふわっとなびかせ、マシロが礼を述べる。
「いいってことよ。今に始まった事じゃないし、私がやりたくてやってることだからさ」
私の方が、お礼を言いたいぐらいだ。
マシロの機転のおかげで、ユータス様を救う事ができたんだから。
「行くぞ」
「うん。そんじゃマシロ、後はよろしく」
「はいッ! レイジィさんも、ありがとうごさいましたッ!」
「お、おう、気にすんな。じゃあな」
軽く腕をあげて、背中で返事するレイジィ。照れ隠しか。
でも、まあ。
ほんのちょっとだけ、かっこいいぞ。
※ ※ ※
一昼夜かけて、私達がノスウッドの村へと帰ってきた数時間後。
犬の姿に戻ったマシロを先頭に、馬にまたがったユータス様とココロが無事に帰ってきた。
「はあぁー。良かった。もう、心配しすぎて生きた心地がしなかったよ……」
私は村の西門近くの物陰に潜み、ずっと待っていたのだ。
ちなみに、レイジィには宿を取ってくるように言いつけ、先に休んでもらっている。今ごろは爆睡でもしていることだろう。
ユータス様とココロは、疲労困憊のはずなのに村に着くとすぐに、セツナとトワが滞在している宿へと向かっていった。
私も例の如く、こっそり後をつけていく。
「――セツナッ! クリアクリスタルを採ってきたぞッ!」
「――無事だよね、トワッ!?」
古びた宿の二階。ユータス様とココロが、勢いよく部屋へと入っていく。
「――あ、あんた達ッ……!?」
血に濡れて、ボロボロの服を纏ったユータス様とココロを見たセツナが一瞬、絶句する。
が、すぐに。
「――早く、クリアクリスタルをトワにッ!」
「――ああ。もう、大丈夫だ」
小さなからだ全体を発赤させて、息も絶え絶えだったトワが、みるみる内に落ち着きを取り戻していく。
「――ああっ、トワぁ! トワああああーッ!」
セツナの号泣が、狭い部屋に響き渡る。
ユータス様もココロも、泣いている。
「――良かったなあぁ、トワッ!」
「――うわああああぁーん。よかったあぁ、ほんとによかったよおぉ……!」
廊下に潜んでいる私も、もらい泣きしちゃうよ。
「ワンワンッ!」
マシロが、私の頬をペロリとひと舐め。
「へへっ。ありがと、マシロ」
こっそりついてきたけど、やっぱりマシロにはバレバレだった。
ユータス様とココロが部屋に入っていった後。
マシロは部屋の扉の前で、私が来るのを待っててくれて、感動的な場面を分かち合ってくれたのだ。
「もう十分だよ。ほら、あんたも行きなよ」
「ワンッ!」
ひと撫でして、マシロを部屋に送り出す。
狭い部屋の中には、白夜の団が勢ぞろいだ。
泣いてたり笑ってたり吠えてたりで、騒々しいったらありゃしない。
「ふうぅー。よし、帰るか」
これにて、ミッションコンプリートだ。
もう、私の出る幕はない。
「お腹、空いたなぁ」
気分は上々だ。
私は、レイジィがいる宿へと帰っていった。




