二重苦じゃん
高気密に圧縮された爆炎が、ココロを迎え撃つ。
――着弾。
からの、起爆。
高明度の閃光が弾け、ココロが宙を舞う。
「ま、まりりん様ッ! やりすぎですッ!」
「これでも手加減したつもりなんだよッ!」
大丈夫……だよね?
だってココロの奴、ヒヒイロガメの攻撃をくらいまくっても全然倒れなかったし……。
宙を舞っているココロが、後方回転をして体制を整えた。
「フウゥー、フウゥー、フウゥー……。ドウシテ、邪魔スル、ノ。ドウシテドウシテ、邪魔スルノォーッ!」
漆黒の羽根をビンビンに広げ、叫び散らすココロ。
「あれ? 思ったより効いてないのかな……?」
確かに多少、手加減はした。
あちこちから紫っぽい流血はあるし、爆破の裂傷もあってダメージは入ってると思うんだけどな。
想像以上に、ココロの防御力が高かったんだ。
さすが魔族だ。
――いや、魔族だからかッ!
「こりゃあ、全力でやったほうがいいかもしれない」
魔族は、魔法に対する抵抗がすこぶる高いのだ。
勇者が使える聖属性以外の、基本属性の魔法では、通常の威力の半分程度しか効かないといわれている。
とは言っても、私の境界線を越える魔法は半減したところで、そうそう耐えられる火力じゃないんだけどなぁ。
やっぱ、効率を考えると聖属性の方がいいのかな。
学院や、お母さんから魔族の特性は教えてもらってはいたけど、実際に魔族を戦うのは初めてだ。
色々、試しながらやってくしかない――か。
って、うわっ! こっち来やがったッ!
「アアアアアァッ!」
私の思考を遮り、ココロが滑空してくる。
速い。一息でもう、すぐそこだッ!
「ちっ! ハイブリッドブリザ――」
間に合わない。
魔法を切り替えるッ!
「防風障壁ッ!」
風の障壁が、飛び込んできたココロの軌道をわずかにそらす。
が、ココロは地面に着地するとすぐに向き直り、私に狙いを定めてきた。
「わわわッ! ちょっと待ってッ!」
「死ネ死ネ死ネエェッ!」
ココロは、息つく間もない無軌道な連続攻撃で、私に襲い掛かってきた。
「くっ! 雷電ッ!――げっ!? 止まんなってッ! 氷柱砲撃ッ!」
ほんの数秒、ココロを凍らせるがすぐに、
「パリ―ンってッ! 早すぎでしょ!? くっ、こっちくんなッ! 圧縮空気砲ッ!」
後退しながら、風魔法を放つ。
ココロを十数メートル吹っ飛ばす――が、ココロはくるりと一回転して、華麗に着地。
次の瞬間にはもう、地面を踏み切り、私に飛び掛かってきていた。
「うわあッ!」
ココロの凶悪な爪をたずさえた手刀が、私の頬をかすめる。
「……ッ! やばいやばいやばいッ! やばいってッ! 電光石火ッ!」
自身に筋力バフをかけて――私は、全速力でその場から逃げた。
おかしい。
私の体調は悪くない。
なのに、なんでッ!?
ココロの防御力もさることながら――
「魔法の威力が、全然でないじゃんッ! なんでよッ!?」
風魔法の風圧は弱いし、氷魔法の氷柱は一回り小さかったッ!
「これって……、もしや――」
忘れかけていた当初の目的が、ふいに浮上する。
目端に、キラキラ光る硬質の輝き。
ダンジョンの壁や天井に、透明な塊がそこかしこに埋まっている。
「そういうことかッ!」
ここは、水晶のダンジョンの奥地。
クリアクリスタルの鉱床だ。
壁や天井に、キラキラ光って埋まっているのは、クリアクリスタル。
その特性は――
「クリアクリスタルのせいで、ここでは魔法が吸収されて拡散しちゃうんだッ!」
思い至ってから、青ざめた。
「ってことは……、私との相性、最悪じゃね?」
ただでさえ魔族のココロには魔法が効きにくいのに、その上、威力も弱まっているなんて。
「二重苦じゃんッ!」
まじでやってらんないよッ!
これは根本から、作戦を考え直す必要がある。
仕切り直しだ。
ってことで。第一ラウンド終了。
勝者、ココロ。敗者、まりりん(逃亡)。
ちくしょッ!




