あれ、いつ元にもどるの?
「ねえマシロ。ココロがヒヒイロガメをやっつけちゃったみたいだけどさ」
「ええ。そのようですね」
空中に留まるココロを、二人でじっと見ていた。
「あっ、ユータス様の容態はどう?」
「出血は止まって、今は眠っているようです」
ココロがヒヒイロガメを燃やしている間に、しっかりと回復魔法はかけておいた。
よかった。効いているようだ。
「ねえマシロ」
「はい」
じっとココロを見つめる。
「あれ、いつ元に戻るの?」
「さあ……? いつ、でしょうね」
私達は期待していた。
ヒヒイロガメを倒したココロが、人族の姿に戻って空中から落ちてくるのを。
そんで、「よくやったね。あんたはユータス様を守り切ったんだよ」なんて、気の利いた言葉をかけて一件落着みたいな展開を。
「そもそも。あれ、元にもどるのかなぁ?」
「えっと……」
「同じ魔族でしょ?」
「そうですが……。私は自分の意思で変化できますが、ココロは正気ではないようですし、種族も違いますからなんとも……」
「まじか」
そこは自信を持って、元にもどるよって言ってよッ!
少し、イラっとした。
それ以上に、嫌な予感が段々とせり上がってきた。
空中で静止していたココロが、なんかキョロキョロし始めた。
あっ、目が合った。
見つかっちゃったッ!
「――ユータス君ヲ傷ツケル奴は……、許サナイッ! 殺スッ!」
「またそれかッ!」
ココロが漆黒の羽根を広げて、上方から高速滑空してきた。
すなわち、ダイブ・トゥ・私ッ!
「ちょッ! 待って私だって、まりりんだってッ!」
言ってから後悔した。
あっ、知らんか。
「死ネエェッ!」
「うわっ!?」
凶悪な爪をたずさえた手刀を、寸前で躱す。
やばい。ココロの奴、まじで私を殺すつもりだ。
くそっ、最悪の展開だ。
元に戻らんどころか、襲い掛かってきてんじゃん。
「圧縮空気砲ッ!」
風魔法を叩きつけ、ココロを押しやり距離をとる。
「やめなさいココロッ! 正気に戻るのですッ!」
マシロが叫ぶ。
「ユータス君ヲ傷ツケル奴ハアアアアアッ! 許サナアァァァイッ!」
今度はマシロに向かって突撃していくココロ。
「私ですよッ! マシロですッ! わからないのですかッ!」
ココロの突撃をひょいっといなすマシロ。
いい動きだ。やるじゃん。
でもね――
「その姿じゃわからんって、マシロ」
「はっ!? そうでしたッ!」
ココロ的にはあんたら誰だよって感じだよね。
まあ、思考が残っていればの話だけどさ。
体制を整えたココロが、正気をなくした銀色の目で私達を見据える。
「フウゥー、フウゥー、フウゥー…………」
ココロの視線が、ふいっと逸れた。
「えっ」
私達の傍らで、地面に寝ているユータス様を見ている。
「ユータス、君……? ハ……、私ガ、ガガ、守、守ル…………、殺ス殺スッ! アアアアアァッ! 死ネエエエエェッ!」
「ちょッ、バカッ! 圧縮空気砲ッ!」
咄嗟に風魔法を放ち、ココロを吹っ飛ばす。
「ココロの奴ッ……!」
「ココロッ! なんてことをッ!」
ユータス様に襲い掛かりやがったッ!
腹の底からふつふつと怒りがわき上がってきた。
私達を攻撃するのはまだわかる。
でも、ユータス様を襲っちゃダメでしょ。
ありえんよ。禁忌中の禁忌だって。
ああ、怒りではらわたが煮えくり返ってきた。
さすがに、許さんよ。
「マシロ。ユータス様をよろしく。安全な場所に運んどいて」
「わかりました」
ココロはもう、敵と味方の区別さえついちゃいない。
目に映るもの全てが、ユータス様の敵だと認識しちゃってるんだ。
ユータス様本人でさえも。
「調子のってるちびっこ魔族を黙らせてくるわ」
「まりりん様、殺してはいけませんよッ!」
「わかってるって。そんなことしたらユータス様に顔向けできんわ」
まあ、素敵すぎて緊張するからどの道、顔向けできないんだけどね。
それはともあれ、生半可な攻撃じゃココロには通用しないだろう。
「アアアアアアアアァ!」
ココロが立ち上がり、叫びながら私の方へ向かってきた。
鋭さを増した犬歯がキラリと光り、口角からはよだれが流れ去っている。
私は、右手に火属性、左手に風属性の魔力を込めて――ココロの軌道上に向けた。
「悪い子にはお仕置きだッ! 境界線を越える魔法・ダブルッ! 爆裂超熱破砕弾ッ!」
早いとこ、大人しくなってくれないと知らないよ?
私、手加減するの苦手だからさ。




