表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/35

マシロスノーフレイク その2

 情報が渋滞を起こしている。

 まずは整理が必要だ。


「色々と聞かせてもらおうか。えっと、マシロスノーフレイク、だっけ?」

「マシロとお呼びください」

「あんた獣魔族よね?」


 私のびっくりポイントその一だ。


「わん……。あっ……はい」


 マシロの陶器のような白い頬に、少し赤みがさす。

 いじってやりたい衝動を我慢して、話を続ける。


「ユータス様は知ってんの?」

「ユータス様しか知り得ません。獣魔族化はユータス様に固く禁じられておりましたので」

「そっか。さすがユータス様。賢明な判断だわ」


 獣魔族は、北部大陸を支配している魔族の一種だ。

 獣魔族の支配領域は北部大陸でも広大な範囲を占めており、その統領は四魔大帝の一角にも名を連ねている。

 マシロが獣魔族だとバレたら冒険者ギルドで懸賞金でも掛けられて即、討伐されるだろう。


「一応聞くけど、敵対の意思はないよね?」


 睨みを効かせて、静かに問う。


「もちろんですッ!」


 即答するマシロ。

 わかってたけど一応、ね。

 陰ながらずっと見てきた私にはわかる。マシロは信頼できる奴だ。

 それこそ、ユータス様の命を任せられる程に。


「了解。ってかあんたメス? じゃなくて女だったの!?」

「はい。生娘でございます」

「ああ……そうなんだ」


 そこまでは聞いてない。


 私のびっくりポイントその二。

 正直、オスだと思っていた。無意識にオスだと勝手に認識していた。

 犬の姿じゃわからんって。


 あれ。待って。

 ってことは白夜の団(ホワイトナイト)ってユータス様以外、みんな女性じゃん。

 ふざけんなハーレムじゃん……!


 ん? いや……ハーレム? 

 いやいや。なんだろ。不思議と嫌な感じしない。

 ちびっこと子持ちと半獣でハーレムとか……。

 ふっ。全然許せるわ。

 ただの愉快な仲間達だわ。オッケ。解決した。


「えっと、次。なんで私の事知ってんの?」

「獣化時の嗅覚は、人族の万倍です。まりりん様がいつも私達、白夜の団(ホワイトナイト)を密かに助けてくれていた事、私にはバレバレでしたよ」

「ちぇっ。ただの犬っことだと思ってたのに。その事、ユータス様は……知らないよね?」

「はい。ココロにもセツナにも、まりりん様の事はバレてません」

「よろしい」


 これはびっくりポイントではない。だろうなって感じ。

 マシロが私に、わんわん吠えてた時から薄々感づいていた。


「最後、一番大事な事。ユータス様を助けてってどういう事? ユータス様は今、どうなっちゃってんのッ!?」


 マシロが信頼するに足る奴だと再確認できたことで、私は最重要事項について切り込んだ。

 カドケスからここまで来る間に、心の準備はもうできている。

 一体、何があったんだ……!?


「はい。事の経緯を説明させていただきます。順調だった私達の旅に異変が起こったのは、王都を旅立って二日経った頃でした――」


 マシロが私の目を見据え、静かに語り出した。


「セツナの息子であるトワが熱をだしたのです。熱は一向に引かず、悪化の一途をたどるばかりでした。私達は街道を外れ、一番近くの宿場町であるノスウッドの村でトワの容態が良くなるまで滞在することにしました」

「そうだったんだ。トワってまだ一歳とちょっとだよね? 初めての旅で疲れがでちゃったのかな?」

「私達も始めはそのように思っていました。しかし村に唯一ある教会の司祭に診せた所、魔素中毒を起こしていることが判明しました――」

「……ッ! 旅どころか命に関わるじゃん」


 世界は魔素に満ちている。

 人族は魔素を身体に取り込み、魔法として出力しているのだ。


 しかし、魔素は取り込み過ぎると魔素中毒を起こして、心身を崩壊させて死に至ることもある。

 人族には元々、防衛機能が備わっており許容量を超える魔素は自動的にシャットアウトできるのだが――


「どうやらトワは先天的に、魔素に対する防衛機能に欠陥があるとのことでした」


 稀に、魔素障害を持って生まれてくる子供もいる。

 たいていの子供はまだ幼い内に亡くなってしまうが、例外もある。


「あんた達、魔素を吸収できる魔道具は……、持ってるわけないっか」

「当然、持っておりません」


 魔素を吸収できる魔道具を用いれば、魔素中毒で死ぬことはない。

 が、手にすることができる者は、ごく僅かだ。

 貴族の子女や、例えば大商人の家庭に生まれたよほど裕福な者ぐらいしか手にすることはできないだろう。


「高価なこともあるけど、それ以前に市場には滅多に出回らないからなぁ」

「はい。私達はベニホムラの卵の採取クエストの報酬で、金銭には余裕があります。しかし、ないものは買えません」


 事態はかなり深刻だ。

 魔素中毒を起こした者は、下手すれば数日で命を落とす。幼い子供だったら尚更だ。

 魔素を吸収する魔道具が手に入らない以上、ただ死を待つのみじゃないか。


「――あのさ。これ、もう詰んでんじゃないの?」

「いえ。起死回生の一手が、あったのです。ユータス様とココロは今、サニタリア中央山脈地帯にある水晶のダンジョンに向かっています」

「……ッ! そっかッ! クリアクリスタルさえあればいいんだッ!」


 魔素を吸収できる魔道具の核には、クリアクリスタルという鉱石が用いられている。

 クリアクリスタルには周囲の魔素を一定量吸収した後、拡散させるという性質がある。

 魔素を吸収する魔道具とは、その実、クリアクリスタルの付属品に過ぎない。


 そして、サニタリア中央山脈地帯にある水晶のダンジョンは、クリアクリスタルの産地として広く知られているのだ。


「話が見えてきたよ。ユータス様とココロは、二人だけで水晶のダンジョンにクリアクリスタルを採りに向かったんだね」

「そうです。幸運にも、ノスウッドの村から水晶のダンジョンまでは約一日程、馬で駆ければ行ける距離。ユータス様とココロは今朝方、出発しました」


 今は、正午を少し回ったところだ。


「オッケ。全部理解した。早く追いかけなくちゃ死んじゃうね。トワより先に、ユータス様が」


 クリアクリスタルを内包した魔道具がとても貴重なのは、その入手難易度の高さによるものだ。

 採取クエストランクは確か、B+。クリアクリスタルの鉱床にはもれなく、やっかいな魔獣が巣くっているのだ。


「はい、間違いなく死んでしまいます。ユータス様の弱さは、まりりん様の次に私がよく知っています」

「だろうね」


 なんか親近感わくわ。

 マシロも苦労してんだな。しみじみとわかるよその気持ち。

 まあ、私は好きでやってんだけどさ。


「ユータス様には、トワの病状が悪化してひどく動揺しているセツナに付いているように命じられておりましたが、このままではユータス様もココロも、トワも死んでしまうことは明らかでした。ええ。お先真っ暗です。

 しかしそこで、私は思い出したのです。いつでもどこでも、白夜の団(ホワイトナイト)がピンチの時にはなぜだか必ず助けてくれていたまりりん様の事を――」

「や、そんな……。照れるじゃん」

「執拗なまでに白夜の団(ホワイトナイト)を助けてくれていた、まりりん様の事を……!」

「おいコラ」

「まりりん様なら、必ず、私達を追いかけてくる。どんな手を使ってでも必ず、そう時間を空けずに私達を追いかけてくると、確信めいたものがあったのですッ! よって私はまりりん様に助けを求めることにし、街道で張っていたのですッ!」


 良い判断だ。実際、ビンゴだったし。

 まあ、約二年間ずっと白夜の団(ホワイトナイト)が受注するほぼすべての討伐クエストを、陰ながらサポートしてたんだ。

 はっきり言って、異常だろう。変態だろう。

 その行動が功を奏したわけだが。


 でも、さ。

 ちょっと。


「……リアクションに困るわ」

「すでに街道に、まりりん様の匂いの痕跡があって、逆方向からやってきたのは想定外でしたが……」

「私のユータス様に対する想いが、あんたの予想を超えちゃったんだね」

「え、ええ。そう、ですね……」


 私から目を背けて、マシロが言った。

 あれ、引いちゃった? へへっ。


「まあ、とにかくさ。案内してよ。あまり時間ないみたいだし」

「はいッ! では私が先導します。ますはノスウッドの村へ行きましょう。水晶のダンジョンへは村を経由して行けますのでッ!」


 目的が定まった。

 水晶のダンジョンにて、ユータス様とココロを陰ながらサポートしてクリアクリスタルをゲットして、トワを助ける。


 やってやろうじゃん。


「よーっし、そんじゃマシロッ! 行こうッ!」


 と、私が意気込んで出発の号令をかけたところで、あいつが戻ってきた。

 完全に忘れてた。


「なっ……! お、おおお……!」


 興奮した馬を遠ざけて、どっかに繋いできたレイジィが戻ってきた。


 目をまん丸にさせて、口をわなわなさせている。

 どうやらマシロを見て驚いている様だ。

 そりゃそうか。

 獣魔族なんて、南部大陸じゃまずお目にかかれない。

 しかもだだの犬っころだと思ってたマシロがだもんね。

 驚くのも無理ないよ。


「びっくりしたでしょ? マシロはね、実は獣魔族――」

「おおお、おぱ、おぱぱ……! おっぱぃ……!?」

「そっちかいッ!」

「いやああああぁ!」


 マシロの白銀のロングヘアーから、控えめな双房と薄紅色の突起物がちらりちらりと見えている。

 生娘ってのは本当だったんだな。

 恥じらい方が、生娘のそれだ。


 とりあえずマシロに代わってレイジィにビンタを一発かました後、私達はノスウッドの村へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ