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「ユータス様、子供にいじめられている薄汚い犬を助ける」

 むかしむかし……じゃなくて一年と数か月前。

 王都サニタリアにユータス様という心優しい勇者がいました。

 ある日のこと、王都の目抜き通りを歩いていると、一匹の薄汚い痩せこけた犬が子供達にいじめられているのを見ました。


「こらこら君達、犬をいじめたらかわいそうだよ。はなしてやるんだ」


 そう言って、ユータス様は子供達に小銭を握らせて犬を助けてやりました。


 犬は仲間になりました。

 



「おしまい」

「終わりかいッ! 短かすぎるだろッ! 前の二つとの落差ッ!」

「レイジィが長すぎて眠くなるって言ったから端折ってあげたんだけど」

「いや、言ったけどよ……」


 ぶっちゃけ、このエピソードは特に語ることがない。

 助けられた犬は恩を感じたのか、ユータス様に大層なついてそのまま白夜の団(ホワイトナイト)で飼うことになったのだ。

 いつの間にか、パーティ―登録されてて正式なメンバーになっていたけど。


 薄汚かった犬は、元々は真っ白だったようでその辺が名前の由来なのかもしれない。

 実に安易だ。


「その犬がマシロ殿というわけですな?」

「トンさん正解ッ! こうして白夜の団(ホワイトナイト)は今の形になったってわけよ」

「いやはや、ユータス殿は女、子供に限らず、動物にまで優しいのですなあ。しかもパーティー登録までするとは。御見それしましたぞ」

「だよねー。ほんと優しいよね。まあでも登録したくなる気持ちは私にもわかるよ。だって、白夜の団(ホワイトナイト)ってマシロでもってるようなもんだからね」

「ほう。それは知りませんでしたな」

「実はそうなのよ」


 マシロは犬っころのくせしてとても有能だった。

 マシロが加入したことによって、白夜の団(ホワイトナイト)の生存確率は大いに向上したと言っても過言ではない。

 マシロは低ランクの魔獣なら単体で討伐できるほどの戦闘能力は持っていたし、なにより危険を察知する能力に長けていたのだ。


 採取クエストでも、思わぬ高ランクの魔獣に遭遇することはある。

 しかしマシロは、危険なにおいがする方向へは行かないようにうまいこと白夜の団(ホワイトナイト)を誘導していたのだ。

 ユータス様達が気づいていたのかは不明だけど。


 マシロのおかげで私は採取クエストの時は、白夜の団(ホワイトナイト)についていかなくなった。

 負担が減ったことでだいぶ時間に余裕ができた。

 ちょうどその頃、手持ちのお金が心元なくなってきていた私は、冒険者ギルドの酒場で給仕の仕事を始めたのだ。


 そして、今に至る。


「なあ、まりりん。聞いてて思ったんだけどよ。白夜の団(ホワイトナイト)って……やばくね?」

「うん。やばいよ」

「どう考えても王都から旅立っちゃいけないパーティーだろ。ユータスは弱えし、ガキの僧侶は応援してるだけだし、赤髪の女は子持ちなんだろ? 一番つかえる奴が犬って。冒険者なめてんのか? 死ぬぞ」

「だから私達、黒朝の団(ブラックモーニング)がサポートするって言ってんのよ」

「ふーん。まっ、別にいいけどよ」


 興味なさそうにそっぽむくレイジィ。

 ちょっとイラっとした。

 ニートが知った風な事言ってんじゃないよ。

 あんたの過去に何があったのか知らないけどさ。


「はいっ、以上がユータス様が私の推しになった理由です」

「いやはや、良い話を聞けました。吾輩、これまではココロたんの単推しでしたが、これからは白夜の団(ホワイトナイト)を箱推ししますぞ」

「ふふっ。頑張ってサポートしていこうね」


 話に夢中になっていて、気がつけば日が暮れていた。

 夜間は魔獣が活性化するため、移動は避けたい。

 私は良くても御者のおじさんが困るだろうし、推し活は他人に迷惑をかけてはいけないのだ。


 私達は近くの宿場町に寄って、宿を取ることにした。

 翌日も、早朝から馬車を飛ばし、カドケスの町へと向かう白夜の団(ホワイトナイト)を追いかける旅は順調に進んでいった。

 


 そして、王都から旅立って三日目のお昼ごろ。


「見て見て、カドケスの町だよッ! やっと着いたあ!」

「ええ。予定より大分早く着きましたな」


 王都サニタリアを旅立って、三日と半日。

 私達、黒朝の団(ブラックモーニング)はようやくカドケスの町にたどり着いた。


 王都の外周を囲む壁に、勝るとも劣らぬ堅牢な壁に覆われた城塞都市カドケス。

 サニタリア王国領中部地域の中枢都市であり、陸路での交通の便の良さから、南部大陸でも屈指の商業都市として知られている。


 外壁に開いた北門から、町の中へと入った。

 馬車と御者のおじさんとお別れして、町中へと進む。

 馬車で爆睡かましていたレイジィは、まだ寝ぼけていてふらふらしてたため、私が手を引いて歩いてあげた。寝ながら歩いているみたいな。

 全く、世話のやける勇者だ。


「結局、白夜の団(ホワイトナイト)に追い付くことはできなかったね」

「そうですな。王都からカドケスの町までは、ほぼ一本道。道中で追い着くことがなかった以上、先に到着していたと考えるのが妥当でしょうな」

「だね。街道もわりと安全だったから、魔獣に襲われたなんて事は考えにくし。でもさ、先に着いてるのはいいんだけど、この広い街中でどうやって白夜の団(ホワイトナイト)を探せばいいの? 人、多すぎだし」

「うーむ……。困りましたね」


 北門から続く目抜き通りには、荷を積んだ馬車や、大きな荷物を持った商人が大勢行きかっている。

 通り沿いには商店が立ち並び、買い物客でごったがえしている。

 人が多すぎて、酔ってしまいそうだ。


「……決まってんだろ。まずは冒険者ギルドだ」


 私に手を引かれていたレイジィが、ぼそりとつぶやいた。


「あんた起きてたの。ってか……そうだ。私達、冒険者だもんね」

「当たり前だ。俺達は、冒険者ギルドに登録された正規のパーティーだろ。一種の公的な存在だ。支部がある町に訪れたら、冒険者ギルドに来訪を知らせる義務が課せられている。ユータスなら当然知ってるだろ」


 確か、ミルフィがそんなような事を言ってた気がする。

 忘れてたけど。


「さすがはレイジィ殿。物知りですな」

「始めて役に立ったね」

「ったくよぉ。お前らまじで大丈夫か!?」


 なるほど。

 ニート勇者になる前に、色々経験してたんだね。


「カドケスの町には来た事がある。しゃあねえ。俺が案内してやるよッ!」

「ふふっ。よろしく」


 私の手を振り払って、レイジィが先導していく。

 なんだよツンデレか。

 まあでも。いつか、レイジィのかつての冒険譚を聞いてあげるのも、やぶさかではない。

 


「はい、Bランクパーティーの黒朝の団(ブラックモーニング)ですね。確認致しました。ええ、では。現在、受注することのできるクエストについてですが――」


 冒険者ギルドの受付嬢にギルメンカードを差し出し、来訪のチェックを受ける。

 そして間を置かずに、受付嬢はカウンターにパラパラと受注用紙を始めた。


「や、ちょっと待って下さい。私達、さっき着いたばかりでクエストはまだいいです。それよりも、教えてほしい事があるんです」

「何でしょう?」

白夜の団(ホワイトナイト)ってのがちょっと前に来てると思うんですけど……。あれ、来てますよね?」


 ギルド支部に、白夜の団(ホワイトナイト)はいなかった。

 キョロキョロしながら冒険者ギルドまで歩いてきたけど、どこにも見当たらなかった。

 すでにギルドを後にしたのか。

 もしくはさっそくクエストでも受注したのか。

 あるいは……。


白夜の団(ホワイトナイト)……? 存じ上げませんが」

「まじですか」

「ええ」

「ユータス様ってゆう金髪イケメンと、グレイのショートボブのちびっこと、子持ちの赤髪の女と、犬のパーティーなんですけど」

「そのような珍妙なパーティーを迎えたら、忘れるわけないでしょう」


 淡々と応対する受付嬢の姿が、事実をものがたっている。

 白夜の団(ホワイトナイト)は、冒険者ギルドに来ていないのだ。


 なんてこった。


「みみみ、みんな集合ッ! これより緊急会議を始めます。議題は白夜の団(ホワイトナイト)の行方についてッ!」


 まじでどこに行ったの、白夜の団(ホワイトナイト)ッ!?


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