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私がユータス様推しになった理由

 カドケスの町は、サニタリア王国領中部地域を治める地方領主の住む町であり、王都との交易も盛んに行われている。

 整備された街道には、滅多なことでは魔獣は出没しない。

 街道沿いには宿場町が点在しており、色々と準備不足で旅立ったけど物資に困ることはなさそうだ。

お金も腐るほどあるしね。


「よしよし、順調順調。このペースで行けば三日とかからずと着きそうだね」

「ええ、そうですな。早朝に王都を立ってから半日ですでに三分の一程の距離を駆けておりますね」


 王都で最高級の馬車はそれはもう快適で、御者のおじさんがびゅんびゅん飛ばしまくってもほとんど揺れを感じないほどだった。

 快適すぎて、レイジィなんかずっと寝っぱなしだ。三時間は昼寝してる。


「そろそろ起こした方が良いのではありませんか? 夜、寝られなくなってしまいまずぞ」


 なんて、気を利かせてトンさんがレイジィを起こそうとしたけど私は止めた。


「ほっとけばいいよ。レイジィはね、寝るのが仕事なんだから」


 ニートは、寝るのが仕事って聞いたことがある。

 きっと夜になったらなったでまた寝るのだろう。別にいいけど。

 無理矢理連れてきた手前、大目に見てあげるのだ。


白夜の団(ホワイトナイト)は……、今どの辺りかな?」

「まだずいぶん先でしょうな」

「だよね……」


 二日と半日前に旅立った白夜の団(ホワイトナイト)に追い付くには、倍速で駆けてもおそらくカドケスの町に着く間際。それか同時着ぐらい。

 街道には魔獣の出没の危険が少ないといっても、ゼロじゃない。

 私は気が気じゃなかった。自分でも心配しずぎだってわかってる。でも理屈じゃないんだ。


「ユータス様、どうか無事でいて……!」


 思わず、心の声が漏れた。声にだすと変なフラグが立っちゃいそうで自粛してたけど、ついつい漏れ出てしまった。

 声に出したとこで状況が変わるわけなんてないけど、今はそんな都市伝説じみたことにでもすがるしかない。

 私にできることは、何もないのだから。


「……ああん? まりりん、お前今、ユータスって言ったか?」


 レイジィが緩慢な動作でむくっと起きた。

 いつから起きてたんだ。

 ってかこっちこそ、今あんた、何て言った?


「ユータス様のこと知ってるの!? 何で!?」

「ちっ、何だよ。白夜の団(ホワイトナイト)ってのはユータスのパーティーかよ。……ああ、あいつのことは知ってる。セイントフォースの同期だからな」


 勇者養成機関セイントフォース。

 各地から集められた聖属性に適正のある子女が、勇者になるための訓練を受ける王都の機関だ。


「お互い十歳でセイントフォースに入って、まあ、昔は良くつるんでたわ」

「何それ、羨まっ! ちょっとあんたの記憶見せなさいよっ! そういう魔法あったかな? ちょっと待って。考える」


 十歳のユータス様なんて絶対可愛いに決まってる。

 見たい、見たすぎるっ!


「まじでやめろッ! 勝手に人の記憶を盗み見るなッ!」


 残念ながら、そんな便利な魔法はない。

 あるいは呪術とか幻術の類ならあるかもしれないが、私は魔法使いだ。

 基本属性にのっとった魔法しか使えない。


「冗談だよ。ああ残念」

「ちっ、ビビッて損したわ。お前なら本当にやりかねんからな」

「さすがにやれんし。私の事なんだと思ってんのよ」

「ああん? そりゃあ頭のイカれたクソおん――」


 右手に風属性の魔力を込め、圧縮された空気の塊をつくりだす。


「治めろって! まだ言ってねえぞッ!」


 魔力を霧散させる。

 相変わらず学ばん奴だ。しゃべるのもめんどいわ。


「……はあぁ。まじでトラウマになってんだけどこれ……」

「今度言ったらお小遣い半分に減らすからね」

「悪かった。二度と言わねえ!」


 ほんと現金なやつだな。

 まあ扱いやすいからいいけど。


「はっはっはあ。まりりん殿とレイジィ殿は、相変わらす仲がよいですなあ」


 トンさんの、のんきな声に場が和む。


 ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト……。


 心地よいリズムで、馬車は進んでいく。

 これまでの行程で、魔獣は出現していない。窓から見える範囲で視認すらしていない。

 心配し過ぎか……。

 信じてみようかな。大分良くなったとはいえ、一応私は病み上がりだ。


「ふうぅー……」


 私は、大きく息を吐いた。

 心と身体の緊張を解いて、少しリラックスしてもいいのかもしれない。


 ※ ※ ※


「なあ、まりりん。聞いていいか?」

「んん? なあに?」


 ぼんやりと窓の景色を眺めている私に、レイジィが声をかけてきた。


「なんでユータスの事追っかけてんだ? 確かにあいつは良い奴だし、見てくれも悪くねえけどさ……。あいつ、すっげえ弱いだろ」

「弱いのは否定しない。良い人で、見た目が素敵なのはその通りね。――ふふっ。聞いちゃう? 私がユータス様推しになった理由、聞いちゃう?」


 私は身を乗りだして、問いかけた。

 レイジィは旅のお供に、ユータス様の魅力について聞きたいらしい。

 まったりムードで暇を持て余していたところだ。

 いいでしょう。望むところよ。

 あますところなく聞かせてあげるわ。


「ふむ。吾輩も興味ありますな。是非お聞かせ願いたいであります」

「おっ、トンさんも? いやあ、なんか照れちゃううけど……。うふっ。いいよ。聞かせてあげる。長くなるけど時間はたっぷりあるしね。私の素性もそろそろ言っとかないとなって思ってたし。よーっし、張り切って話しちゃうよッ!」

「急に覚醒してんじゃねえよッ!。なんかきもっ。やっぱ聞くのやめるわ」

「うるさいレイジィ。ちょっと黙ってて。えっとね、始まりは――」

「言いたくてしょうがねえじゃん……」


 ぶつぶつ言ってるレイジィをほっといて、私は語りだした。

 私がユータス様推しなった理由。


 それは約二年前にさかのぼる。


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