表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/35

VSベニホムラ、終幕

 私の放った合成魔法――高気密に圧縮された獄炎が、特大サイズの炎の塊とぶつかり合う。


「いっけえええぇ!」


 相殺――なんか狙っちゃいない。


「そのままぶちかませえええぇ!」


 はなから、炎の塊なんて意識していない。

 威力のレベルが違うのだ。

 私が放った合成魔法は炎の塊を霧散させて、無防備となったベニホムラの頭部に着弾。


 ――起爆。


「ギィイヤアアアアァァァァ……!」


 ベニホムラの頭部を中心に、高明度の閃光が弾けた。

 鼓膜を震わす大爆音。

 衝撃で周囲の枝葉が吹き飛び、同時に熱波が押し寄せた。


 ベニホムラが力なく墜落してくる。

 地面に落ち、土煙が舞った。


「ワン・ダウン。あんたの頑丈さは大体わかってるよ。まだまだいけるでしょ?」


 土煙をまき散らし、身を起こすベニホムラ。

 頭部から腹部にかけて広範囲に焼けただれており、赤黒い血にまみれている。

 顔面は、原型を留めないほど破損してケロイド状だ。


 それでも――


「ヴオオオオオォォォォオ!」


 戦意は衰えていない。

 むしろ、目は一層血走り咆哮はより甲高い。

 やる気満々だ。


 まあ、私も殺る気満々なんだけどね。


 ベニホムラが翼を広げ、飛び立った。

 十数メートル上昇した後、静止。からの、高速滑空。

 すなわち、ダイブ・トゥー・私ッ!


 だがしかし――そうはさせない。


 右手に風属性、左手に水属性の魔力を込めて――

 両手を広げて、宙を抱く。


暴風氷(ハイブリッド)柱嵐舞(ブリザード)ッ!」


 ベニホムラの高速滑空を、巨大な竜巻が強制遮断。

 翼を絡め取り、巨体を巻き上げた。

 竜巻の中で吹き荒れるのは遠心力をともなった無数の氷柱だ。

 制動を失ったベニホムラに縦横無尽に襲い掛かかっていく。


 なすすべなく氷柱の餌食になったベニホムラは、回転しながら遥か上空まで舞い上がり、やがて地上に墜落してきた。


「ツー・ダウン。もうおしまい? 大人しくしてくれるなら、見逃してもいいけど」


 思わず、本音が零れ落ちた。

 元々は悪いやつじゃなかった。

 カルムの大森林の守り神とも呼ばれていた程だ。

 向かってくるなら殺っちゃうけど、逃げるなら追わない。できれば逃げてほしい。


 淡い、期待。


「ガアアアアアァ!」


 起きざまに、放たれた炎の塊。


防風障壁(エアリアルシールド)ッ!」


 先ほどと打って変わって、威力が弱い。

 私は中級風魔法でなんなく弾き飛ばした。


 震える身体で起き上がったベニホムラの身体には、無数の氷柱が突き刺さっており、体表は流血すら許されないほどところどころ凍り付いている。

 見るも無残な、痛々しい姿。

 真紅の鱗に覆われ、畏怖さえ感じた硬質の輝きは完全に失われていた。

 わずかに胸が痛む――。


 はっ。

 私は、自嘲した。


 元々の原因は私で、ここまでやったのも私。

 傷つく資格はないし、今更後戻りもできない。

 わかってる。非情に徹するしか、道はない。


 ぶれるな。


 こいつを倒さなきゃ、私の目的は達成できないんだッ!


 私は一度、大きく息を吐いた。

 ベニホムラはすでに守り神じゃない。

 魔獣だ。

 もう、楽にしてあげよう。


 私は、ゆっくりとベニホムラに歩みよった。

 地面に両手をついて、魔力を伝藩させる。

 右手に土属性、左手に水属性の魔力を込めて――


広範囲泥沼領域(グラウンドクレイモア)


 ベニホムラの周囲が沈み落ちる。

 翼を、手足をもがき必死に抵抗するベニホムラ。

 もがいて、もがいて、もがき苦しんで。

 その度に泥沼に沈み込んでいく。


「ヴオオオオォォォォオッ!」


 身体が半分近く沈み込んだあたりで、ベニホムラは耳をつんざく程の咆哮をあげて、勢いよく飛び上がった。

 ようやく脱出に成功したようだ。

 そのまま上空に留まり不安定なホバリングをみせている。

 地上の私を見つけ次第、狙い撃つつもりなんだろう。


 私はその様子を、ベニホムラのさらに上方から見下ろしていた。


 風魔法を起動させて大ジャンプをかました私は、間もなく落下するだろう。

 ベニホムラに、トドメの一撃をくれてからね。


 右手に火属性、左手に土属性の魔力を込めて――頭上にかかげた。


魔法の隕石(マジカルメテオライト)ッ!」


 燃え盛る大岩を、ベニホムラの背中にぶち当てる。


「ギィイイイヤアアアアァァァ…………」


 大岩の質量に押しつぶされて、ベニホムラの断末魔が遠ざかり――一瞬の間を置き、地面が爆ぜた。


「スリー・ダウン。ノックアウト。――終わりだね……」


 上空からベニホムラの最期を見届けた後、私の落下が始まった。

 力なく、重力に任せての自然落下。

 もう体力なんか残っちゃいないし、風魔法を起動する気力もない。


 だけど。

 私は安心して、落下した。

 だって――。


「まりりん殿ぉ! 大丈夫でありますかぁ!」


 ほらね。

 マイブラザーはその辺、ぬかりないのだ。

 ふわっと包み込むような優しいキャッチングにて、私はトンさんの腕の中に収まった。


「お疲れ様です。まりりん殿」

「へへっ。やったよトンさん。クエスト、達成だね」

「ええ、そうですな。全く、まりりん殿は無茶をなさる」

「トンさんこそ。まだ立ち上がることもつらいでしょ」


 とは言え、絶対受け止めてくれるだろうと思ってたけどね。


「いえいえ、まりりん殿の回復魔法のおかげで、大分良くなりました故」

「そっか」


 そういう事にしておこう。


 私がトドメの一撃に放った合成魔法は、大地に直径30メートル程のクレーターを出現させた。


「トンさん、降ろして」

「立てますか?」

「うん。大丈夫」


 クレーターのふちに立った。

 中央の窪みには、大岩がまるで墓標のように鎮座していた。

 私は目を閉じ、心の中でそっと語りかける――。


「――よしっ。全部終わったことだし、帰ろっか」

「そうですな」

「ってことでトンさん。おんぶをお願いします」

「ええ。もちろんですとも」


 私達は、カルムの大森林を後にしてよろよろと町へと帰っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ