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マジカルクロスオーバー

 ベニホムラが開口一番、炎の塊を吐き出した。

 私達目がけて、一直線に飛んでくる。

 私は右手に風の魔力を込めて――迎え撃つッ!


「いっけえぇ! 圧縮空気砲(エアリアルインパクト)ッ!」


 炎の塊と、高密度に圧縮された空気の固まりがぶつかり合う。

 相殺――しきれない。

 ベニホムラが放った炎の塊が、私の風魔法を飲み込みこんで迫りくる。


防風障壁(エアリアルシールド)ッ!」


 寸前で風の障壁を出現させて、なんとか炎の塊を弾き飛ばした。


「ちぇっ。一発防ぐのに、中級魔法二発必要か……。やるじゃん」


 正面からの打ち合いは分が悪い。

 だったら――


「トンさん、機動力で勝負だよッ! 左に走ってッ!」

「了解でありますッ!」


 私を背負ったトンさんが、ベニホムラを中心に距離を保ちつつ、時計まわりに駆け出した。

 数瞬前までいた位置に、次々と炎の塊が着弾していく。

 背中が熱い。

 トンさんの速度じゃ、捕らえられるのも時間の問題だ。


 周囲に転がっている第一騎士団の連中も巻添えになっている。

 元々瀕死の状態だったのに、さらに悲惨なことになってんじゃん。

 うわぁ。

 これは絶対まずいって。


電光石化(ライトニングファイヤ)ッ!」


 トンさんの筋肉に、強制的に電気信号を流す。速度バフだ。

 幾重にも重ねられた指令に筋肉が過剰反応して、炎の塊を置き去りにしていく。


「のわああああぁ! 我輩の身体、一体どうなってしまったでありますかあぁ!」

「そのまま走ってッ! 場所を移動するよッ!」


 第一騎士団の連中がそこら中に転がっているこの場所では、戦いにくいったらありゃしない。

 さすがに気をつかう。


 爆速で駆ける私達を、ベニホムラがズシズシと追ってくる。

 地上での起動力はどうやらそれほど高くないようだ。

 なるほどね。方針が固まってきたよ。


「この辺でいいかな。トンさん、ストップ。迎え撃つよ」

「はあぁ、はあぁ、はあぁ……。ま、まりりん殿……、これはけっこう、身体にきますな」

「ごめんね。限界以上の力引き出しちゃってるから。でももうちょっと頑張って」

「ええ。構いませんともッ!」


 正面、ざっと三十メートルの距離にベニホムラ。

 馬鹿の一つ覚えが如く、大口を開く。

 放たれるのは、炎の塊だ。


「突撃だあッ!」

「りょ、了解でありますッ!」

「寸前で避けながらねッ!」


 遠距離では分が悪い。

 ならば、接近して近距離から高威力の魔法をぶっぱなすまでよ。

 トンさんにおんぶされている私には、冷静に炎の塊の軌道を見て予測することができるのだ。

 速度バフの乗ったトンさんに、適格に指示をすれば避けることは難しくない。


「右に一歩ッ! オッケ、そのまま突っ走ってッ! 次は、ジャンプッ! 気を抜かないで。来るよ。左に二歩分避けてッ! よしっ。ダッシュッ! からの、しゃがみこみッ!」


 炎の塊を四発避けたところで、ベニホムラの懐に潜り込めた。

 四発目を放った後のわずかな硬直。

 ボディがお留守だよ。


「くらえぇ! 氷柱砲撃(アイシクルカノン)ッ!」


 がら空きのボディに、極太のつららを穿ちぬく。


 ――手ごたえが、薄い。


 ベニホムラの身体前面。表層を凍らせることには成功した。

 一瞬の静止。


「やばっ……! トンさん、逃げてッ!」


 体表を覆う氷に、ひびが入る。


「了解でありま……、むむっ……!?」

「えっ」


 正面に映るベニホムラの姿が、ブレた。


 その場で高速回転をしたのだと理解した時にはもう、私達は吹っ飛んでいた。

 尻尾による薙ぎ払いをまともにくらってしまった。


「ぐわああああぁぁ!」

「きゃああああぁぁ!」


 宙を舞って、地面にダイブ。

 予想外の一撃に受け身を取ることもできず、私は無様な格好で地面に叩きつけられた。


「……っ! 痛ったいなぁ、もう」


 私は直接、尻尾の薙ぎ払いをくらったわけではない。

 私のダメージは、吹っ飛んで地面に叩きつけられたことによるものだ。大した事はない。

 でも――。


「トンさん、大丈夫っ……!?」

「……なんとか、生きております……。どうやらあばらが何本か、折れました、な……。がはっ……!」


 大量の吐血。

 内臓も損傷しているかもしれない。

 苦しそうにうめくトンさん。

 しまった。

 相手の力量を見誤った。

 本気でやらなきゃやられる。


 私は重い身体に鞭打って、立ち上がった。


高純度治癒水(ハイヒーリングアクア)

「……助かり、ました」


 トンさんは重傷だ。

 応急処置にすぎない。


「あのね、トンさん――」


 ベニホムラをジッと見据え、私は静かに打ち明けた。


「私、全ての属性がまあまあ得意って言ったじゃん? まあまあってのは中級魔法までしか使えないからって意味なの。あっ、レスはいいよ。しんどいだろうから」

「……え、ええ」


 律儀だな、トンさん。

 レスはいいって言ったのに。


 ベニホムラが飛翔した。

 地上で接近されるのを嫌って、上空から私達を狙い撃つつもりだろう。


「ベニホムラに有効なダメージを与えるには上級魔法か、それ以上の威力が必要だと思うの」

「……そのよう、ですな」

「中級魔法までしか使えない私には、勝ち目ないって思うでしょ?」

「……う、うーむ……」


 上空にて、ホバリングしていたベニホムラが咆哮した。


「ヴオオオオォォォォオ!」


 威嚇してるのかな? 今更? 

 うるさいだけなんですけど。


 私は、上空を見上げながら語る。


「――ところがね、私には奥の手があるわけよ。全ての属性が使える、私だけの必殺技が」

「なんと」


 正確には、私とお母さんだけの必殺技なんだけどね。

 多少、盛った。


 お母さんも全属性の魔法が使えたけど、やっぱり中級魔法までしか使えなかった。

 たとえ全属性の魔法が使えたとしても、一つの属性を極めた魔法使いには火力の面では劣るのだ。

 いわゆる器用貧乏ってやつ? 


 そこで、お母さんは考えた。

 全属性が使えるメリットを生かして、新しい原理の魔法を生み出せないかと。


 そして、完成させたのだ。


「――境界線を(マジカル)超える魔法(クロスオーバー)ってゆう必殺技をね」


 上空のベニホムラが大口を開けた。ためが長い。

 逃げ場のない私達にとどめをさすべく、極大の一発をお見舞いしてくれるつもりなんだろう。


「……まりりん殿。後はお任せしました」

「うん、大丈夫。ここからは本気でいくから」


 ふらつく足にグッと力を入れて、大地を踏みしめる。


 右手に火属性、左手に風属性の魔力を込めて――


 上空から炎の塊が放たれた。

 これまでの比じゃない。特大サイズだ。


 私は左右の掌底をくっつけて、炎の塊の軌道上に向けた。


境界線を(マジカル)超える魔法(クロスオーバー)・ダブルッ! 爆裂超熱破砕弾(エクスバーストフレア)ッ!」


 異なる属性の魔法を合成して、その特性を生かした新たな魔法を創造する。


 お母さんが、エレメンタルマスターと呼ばれた所以(ゆえん)である。


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