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VS火龍ベニホムラ、開戦

 地を駆けるトンさんから、断続的な振動が伝わってくる。


 ドスドスドスドスッ――


 私は、振り落とされないように、トンさんの太い首にギュッとしがみついた。

 トンさんの背中に揺られ、向かうは魔獣化した火龍ベニホムラが暴れているというカルムの大森林だ。


 火龍ベニホムラの討伐に、私も参加すると言った時には、トンさんに強く反対されてひと悶着あったけど、最終的には私の意を組んでくれた。

 さすがはマイブラザー。よくわかってる。

 私が絶対に折れないってことを。


「では吾輩が、せめてまりりん殿の足になりましょう。まりりん殿は吾輩の背中で身体を休め、ベニホムラの討伐に備えてくださいッ!」


 なんて、自らおんぶを買って出てくれて今に至るのだ。

 ありがとう、トンさん。この借りはいつか必ず返すよ。

 大丈夫。絶対、生きて帰ってこられるから。


 私が死ぬことは、たぶんない。

 

「トンさん、もうちょっとスピード上げてもいいよ。私は大丈夫だから。早くしないと他の人達に討伐されちゃうかもしれないしッ!」

「ええ。では、最高速度でまいりますッ!」


 ドスドスドスドスッ!!


 いっそう強く、首にしがみつく。

 火照った身体に、風が気持ちいい。

 馬には乗ったことないけど、乗馬の爽快感ってこんな感じなのかもしれないな。


 ユータス様達、白夜の団(ホワイトナイト)は馬車を借り切って、王都を出たらしい。

 昨日、旅立った白夜の団(ホワイトナイト)は運が良かった。

 一日でもずれてたらきっと責任感の強いユータス様のことだ。

 間違いなく火龍ベニホムラの討伐に参加していただろう。


「ベニホムラが魔獣化したのは僕のせいだッ! 僕が責任をもって討伐しようッ!」


 なんつって。

 たぶんベニホムラのやつ、卵を獲られて怒っちゃったんだ。

 数十年に一度しか産まない卵を獲られちゃったら、そりゃあ怒るよね。

 魔に飲まれて、魔獣になっちゃうよ。

 可哀そうだと思うけど、慈悲は加えない。

 魔獣化した生物が元に戻ったという話は聞いたことないし、やらなきゃ王都が壊滅する危険もあるし、なにより私の推し活が終わる。


 白夜の団(ホワイトナイト)が卵を獲ったせいで、ベニホムラが魔獣化したことが王都に広まるのも時間の問題だろう。

 ユータス様の悪評が広まるのは耐えられない。

 だから私は、全力でベニホムラを狩ってやる。


 まあ、そもそも白夜の団(ホワイトナイト)がベニホムラの卵を採取できたのは、私がカルムの大森林の魔獣を狩りつくしたせいでもあるんだけどね。


 ――ん? あれ? だったら私のせいじゃね?

 いやいやいや……。

 なんてこった。


「トンさん」

「どうしましたか? まりりん殿」

「なんかいろいろごめん」


 私は、心の中で全方位にむけて頭を下げた。


「はあ……?」

「私、頑張るよ」


 ※ ※ ※


 カルムの大森林に入り、しばらく進むと森の様相が明らかに変わっていた

 鬱蒼と満遍なくしげっていた木々は、ところどころなぎ倒され、焼け焦げ炭化している。


 カルムの大森林に着くまでに、何人かの冒険者達とすれ違ったけど、彼らは逃亡に成功した者達だ。

 力尽きて逃亡する気力もない者達が、倒れた木々や地面に横たわりうめき声をあげている。

 ごめんね。心の底からあやまるよ。

 回復魔法をかけてあげたいけど、私にもそれほど余裕があるわけではない。

 悪いけど、今は無視させてもらうから。


「近いね。今、戦ってるのは王都の第一騎士団かな」

「ええ、おそらく。これまでにすれ違った者達は大半がDランク以下のパーティーでした。Dランクパーティーでは歯が立たなかったのでしょうな」


 王都の主戦力は、国王直轄の騎士団だ。

 第一から第三まであって、中でも第一騎士団は精鋭ぞろいと聞いている。

 王都の冒険者ギルドにいるのは、大半がDランク以下のパーティーだから、今回のようなSランク級の討伐クエストは荷が重いだろう。

 ってかまず無理ゲーだ。

 それでも、クエストランクを設定して討伐を焚きつけるあたり、冒険者ギルドの上層部もよほど切羽詰まっているのだろう。

 一矢でも報いることができたらオッケーみたいな。


 非情だとは思うけど、それほど今は非常事態ってことだ。

 非常に申し訳ない。


「見えてきたね」

「ええ。酷い有様ですな」


 大森林の奥地、カルム火山のふもとにて戦火が舞っていた。


「けっこうでかいね。ベニホムラのやつ」

「そ、そうですな……。まりりん殿、これは人の手に負えるものなのでしょうか……」

「やってみなきゃわかんない」


 トンさんにおんぶされている私の頭部は、地面から二メートル程の高さにある。

 目測で、ベニホムラの全高はざっと私の十倍ってとこだ。


 真紅の鱗が陽光を反射してつや光している。

 硬質の輝きであり、そんじょそこらの刃じゃかすり傷ひとつ、つけることはできないだろう。

 実際、傷ひとつない。

 辺りには、王国の紋章が刻まれた鋼の鎧に身を包んだ者達が、大勢転がっているというのに。


「トンさん。今、戦ってる人は一人だけだね。しかもたぶん瀕死。第一騎士団、ボロボロじゃん」

「……そのようですな。あの方は――」


 少し離れた位置から様子をうかがう。

 一際立派な鎧に身を包んだ壮年の騎士。

 しかし、鎧は泥にまみれてほころびが酷い。

 剣を杖変わりにしてかろうじて立っているといった状態だ。


「くっ……! 魔獣風情がッ! 第一騎士団団長の名に懸けて、貴様はここで止めるッ! くらええええぇ!」


 第一騎士団団長と名乗った男が、大剣を振り上げ切りかかる。

 男が飛び上がり、ベニホムラに切迫した瞬間。


「ヴオオオオォォォォオ!」


 大口を開けたベニホムラが、巨大な炎の塊を吐いた。


「ぐっ……! ぐわあああああぁぁぁぁ……!」


 火だるまになった男が、後方にはじけ飛ぶ。

 地面に落ちた男は勢いそのまま、私達の真ん前まで転がり続けて、どさりと人形のように横たわった。


「ままま、まりりん殿ッ! どうなさいましょうッ!」

「これはまずいね。ほっとくと死んじゃう」


 トンさんの肩口から右手を伸ばし、横たわる男が真下になるように手のひらを向ける。


高純度治癒水(ハイヒーリングアクア)


 私のてのひらから生成された水の塊が、バシャリと男に落ちて包み込む。

 中級の回復魔法だ。

 これで死ぬことはないだろう。


「この人がここまで転がってきたせいで、どうやらベニホムラの奴に見つかっちゃったみたいだね。おお、怖っ」

「やるしか……、ないようですなッ!」


 ベニホムラの凶悪な瞳が、私達を捕らえて離さない。


「ヴオオオオオォ!」


 咆哮が、大気を揺らし大森林を震え上がらせる。


「よーしっ。いっちょやってやりますかッ! 行くよ、トンさんッ!」

「えーいっ! もう、どうにでもなれですぞッ! まりりん殿、ご指示をッ!」


 戦いの幕が、切って落とされた。


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