婚約いたしましょう7
フリティラリア様に抱き上げられたまま頑丈そうでいて豪奢な扉の前まで行くとストンと床に下ろされてしまいました。
目的地はここなのでしょうか? 謁見の間ではなさそうですけれども、恐らく魔王陛下がいらっしゃるのでしょうし、執務室もしくは応接室あたりでしょうか?
応接室であれば問題はありませんが、いくら魔国最上位女性統治資格保有者とはいえ、七歳の子供をいきなり魔王陛下の執務室に連れてくるなんて常識的にどうかと思いますわ。
わたくしは良い子ですけれども、もし無邪気にはしゃぐ子供で粗相をしてしまったらどうするつもりなのでしょう。
それに、魔王陛下の執務室というのであれば扉の前に護衛兵の一人もいないのも問題ですわね。
あ、でも魔王陛下はお強いですから必要ないのかもしれませんわ。
わたくしよりは弱いでしょうけれど。
じっとフリティラリア様を見ていると、背筋を伸ばして扉を四回ノックしました。
少しして中から扉が開いてフリティラリア様が入室したのに続いてわたくしも入室いたしますが、応接室ではなく執務室でしたのね。
窓際中央に設置された執務机には書類が積みあがっており、その机を見張るように斜め左右に離れて配置された二つの執務机にも同じように書類が積みあがっておりますわ。
「魔王陛下、先ほどは突然のご無礼を失礼いたしました」
「いや、フリティラリアが不意打ちとはいえここから強制召喚されるなど誰も思っていなかったからしかたがない。何事も無く戻ってこられただけよかっただろう。…………なかったよな?」
魔王陛下の視線がフリティラリア様からわたくしに移ったのを確認いたしまして、カーテシーをして深々と頭を下げます。
「そちらのご令嬢は?」
「フルネームを伝えても?」
フリティラリア様がわたくしに尋ねるように頭上から声をかけてきましたので頭を下げた体勢のまま頷きます。
「こちら、ブルーローズ=ミアアステリ=アンデルフ=ファンタリア=エッシャル嬢です」
「ミアアステリ」
フリティラリア様の言葉に魔王陛下だけでなく執務室にいらっしゃる皆様が息を呑みました。
まあそうですわよね、人族が魔国最上位女性統治資格保有者なんて常識ではありえませんもの。
「新たなる資格保有者の誕生があったとは聞いたが、まさか人族とは……。ブルーローズ嬢とお呼びしてもよろしいか?」
「はい、魔王陛下。この度はご子息でいらっしゃるフリティラリア様を無理にお招きしてしまい申し訳ございませんでした。止むに止まれぬ事情から至急お伝えしたいことがございまして、あと、小娘と侮られないようにと浅知恵を働かせてしまいましたわ」
わたくしの言葉に室内に緊張が走りました。
皆様どうなさったのでしょう? まさか、七歳の小娘に煽られるなんて、そんな大人げないことなさいませんわよね?
「なるほど。ああ、頭を上げてくれブルーローズ嬢。君は少なくとも息子より能力が高いようだ。流石は神に選ばれし魔国最上位女性統治資格保有者というわけか」
「わたくしも驚きましたのよ。ちょっと『フルネーム』を使っただけですぐにお招き出来たんですもの」
「フリティラリア」
「事実です。我が召喚されたのはブルーローズ嬢の住んでいる離宮の応接室でした。その際、召喚陣の痕跡も代償に使われた魔力や供物の残滓もありませんでした」
フリティラリア様の言葉に緊張というよりは困惑という空気が流れました。
普通はそんな召喚出来ませんものね。
召喚魔法は一般的には自分より能力が下の者に対して発動する魔法であり、複雑に魔力を練り込んだ召喚陣、代償となる魔力もしくは供物、召喚対象のフルネームが必要になります。
人族の上位種族であり魔王陛下の息子であり、魔国でも間違いなくトップにほど近い実力を保有するフリティラリア様を『フルネーム』だけで召喚したとなれば、困惑も仕方がないのかもしれません。
そもそも、上位の存在の『フルネーム』を『口に出す』事はその存在の許可が無ければ出来ないのです。
先ほどはわたくしが許可をしたのでフリティラリア様はわたくしのフルネームを口にすることが出来ましたのよ。
召喚したい上位の存在に認められれば、上位の存在を召喚することも可能ですが、基本的にはありませんわね。
『花と星の乙女』でも、イベント上位ランカーへの報酬として上位召喚対象が与えられることはございましたが、わたくしはそれを他のユーザーとは違い全て隷属する宝石精霊にしていただいております。
イベント報酬の無駄遣いだのと一時期さんざん晒されたり叩かれましたが、戦闘時にしか役に立たないだけの召喚獣を頂いてもそれこそ勿体ないではありませんか。
ゲーム開始当初は運営も手探り状態でしたので、イベントの報酬に関してはユーザーの希望を取り入れ反映することも多かったのですよね。
数年したらイベントの報酬に関してはユーザーの意見も取り入れつつ運営が先に決定することも多かったですが、どちらも続けていた所を見るに、双方メリットデメリットがあったのでしょうね。
主にバランス調整とネタ切れ的な意味で。