学園生活12
「わたしはそこまで大げさにするつもりは」
わたくしの言葉にホスタ様が慌てたように首を横に振りましたが、やはりホスタ様はご自分を含め王族の行いがどれだけの影響力を持つか分かっていらっしゃいませんのね。
「ただ、ブルーローズ嬢が誤解されているのは嫌なんだ。君はもっと正当に評価されるべきだと思っている。君は大勢の者が言うような恐ろしい存在でも、冷血な存在でもないと分かって欲しいだけなんだ」
恐ろしい存在という事も、冷血な存在という事も特に否定はしないのですけれどもね。
だって、能力値的にわたくしはこの世界最強ですもの。本能的に恐ろしいと感じたところでその者を責める権利などございませんわ。
それに冷血という事に関しては、攻略対象者や準攻略対象者、そして無能や低能な方と親しくしようとも思いませんので、そういった方々から冷血と見られてもわたくしにとっては何一つ困った事などございませんもの。
「だが……」
ホスタ様はそこで言い淀むとグッと唇を結びました。
「……君が魅力的だと分かれば、それはそれで、困る」
「言っている意味が分かりませんわ。わたくしが魅力的な事は否定いたしませんけれども、それでホスタ様がなぜ困るのでして?」
「求婚に真剣になる者が増えるじゃないか」
「それは、わたくしにとって面倒事が増えるだけで、ホスタ様が困る事に繋がるとは思えませんわ」
「困るんだ」
意味が分かりませんわね。
「ブルーローズ様って、本当に罪作りですね」
「ベロニカ様。どういう事でして?」
「ブルーローズ様の真価に気づいたら、皆様惚れこんじゃって、ホスタ殿下にとったらライバルが増えるという事になるから、ライバルを増やしたくないと思っているんですよ」
それ、本当に心の底から、わたくしにとっては迷惑なだけなのではないでしょうか。
ベロニカ様の言葉にホスタ様を見ましたら、お顔が真っ赤になっております。
ものすごく、面倒な予感がいたしますわ。
「わたくしの意思を無視して自分勝手に困るなどと考えられるなど迷惑ですわね。そもそも、わたくしは皆様に対して興味の欠片もございませんので言い寄られたところで面倒で迷惑ですので、心の底からやめていただきたいですわ」
「だが、ブルーローズ嬢は王族なのだし――」
「わたくしは確かに王族ですけれども、だからといって伴侶を複数持つと決めつけられるのはご遠慮いただきたいですわ」
わたくしにはフィラ様という世界最高の婚約者である番がおりますもの。
「ブルーローズ様、その言葉足らずは逆効果です」
ベロニカ様は呆れたような顔をなさって首を横に振りました。
フィラ様が婚約者であると公表してしまうことが出来ればいいのですが、まだ伯父様達からの許可が出ておりませんから無理でございますので他に言いようがございませんわ。
「わぁお。おっもしろい状況になっているね」
「ネリネ様、立ち聞きもいかがなものかと思いますが、そもそも頻繁にこちらのクラスにいらっしゃらないでいただきたいものですわね」
「まあ、気にしないで?」
「迷惑なのだと言っておりますけれど、お分かりいただけないのでしょうか? ネリネ様は察しの良い方だと思っておりましたけれど、わたくしの勘違いでしたのね」
「時に鈍感になる事も必要だよね」
笑顔を浮かべたネリネ様がクラスに入っていらっしゃいました。
「まさかホスタ殿の告白を聞く事が出来るとは思わなかった。でも大変だね、ホスタ殿が心配しているように既にブルーローズ嬢は人気者だ。ブルーローズ嬢が望めば誰だって伴侶になれるさ」
本当にフィラ様がわたくしの番だと暴露してしまいたいですわ。
ネリネ様は言葉を発した後にクラスの中をじっと見定めるようにぐるりと見渡して困ったような笑みを浮かべました。
「……ふーん。本当にこれは、大変そうだ」
ネリネ様の平坦な言葉に、嫌な予感しかしませんわ。
「それで、一体全体この状況にはどうしてなったわけ?」
「バーベナがブルーローズ嬢に相談事があって」
「相談事? ああ、なるほどね」
「ブルーローズ嬢、バーベナの話を聞いてやってはくれないだろうか?」
ホスタ様がそう言うのと同時にバーベナ様が深々と頭を下げました。
「ホスタ様、わたくしに対するメリットを未だにご提示いただけておりません」
「メリットなら俺が一つ提示するよ」
「ネリネ様、遊びたいのでしたらご自分のクラスでお友達と遊んでいただけまして?」
「今の状態を放置すると、最悪君の自称異母妹がこのクラスに入り浸るかもね。それを回避したいのなら相談に乗った方がいいんじゃないかな」
「わたくしに対してそのような駆け引きを持ち出すだなんて、何を考えていらっしゃいますの?」
「平民の間でちょっと騒ぎになっているじゃないか。俺のクラスメイトの生徒会メンバーが困っているんだよね」
「対価に何を頂いておりますの?」
「ちょっと研究に集中したいから、ノートの代筆一ヶ月」
悪びれた様子も無くあっさりと白状なさったネリネ様にわたくしはため息を吐き出してから、バーベナ様を見ます。
「もうすぐ授業が始まりますわ」
「放課後にお時間を頂けますでしょうか?」
「仕方がありませんわね。皆様も興味があるようですので、そんな状況下の中このクラス内でお話しなさるのでしたらお聞きいたしますわ」
「ありがとうございます」
「ネリネ様、当たり前ですが責任は取ってくださいますのよね?」
「乗り掛かった船だしね」
厄介事を避けて生きておりますのに、厄介事が全力で飛び込んでくるというのは困りますわね。
ご自分のクラスに戻るためにネリネ様も立ち去って、皆様が着席なさった所で予鈴が鳴りました。
それにしても、このままの状態だとスノーフレークさんがこのクラスに入り浸るというのはよろしくありませんので、妥協するしかありませんわね。




