執事は愚考致します(ジェイド)
「なるほど、委細は承知いたしました」
「そうか、ではブルーローズが着用するドレスはクロトンに――」
「その上で、主様がそちらの夜会に参加するのはお断りさせていただきます」
私の言葉に、ファンタリア王国の国王が書類を手にしたままピクリと片眉を上げました。
「その日、主様はご婚約者でいらっしゃるフリティラリア様とデートをなさいますので、夜会などに参加している暇はございません」
「委細は承知したのではなかったのか?」
「はい。ですからその上でお断りいたしますと申し上げました」
「クロトンの婚約者候補を絞る夜会に、ブルーローズが出席しない事になるのだが?」
「何か問題がございますか?」
微笑を崩すことなく言うと、国王は深くため息を吐き出しました。
そもそも、王族の義務という前に、番であるフリティラリア様がいる以上、主様が他の異性を受け入れるわけもなく、今は王族としての義務で番の事を黙って篩い落としに協力をしている状況であることにむしろ感謝して欲しいほどなのですけれどもね。
「はあ……。婚約者であるフリティラリア様と仲睦まじいのはいいのだが――」
「それはもう、お二人は本当に毎日のように仲睦まじくお過ごしでいらっしゃいます。フリティラリア様は主様に出来る限り食事を手ずから食べさせて差し上げておりまして、湯あみも共にしておりますし、湯上りのお体の手入れこそオニキスに譲る事もございますが、共にベッドに入り親密なお時間をお過ごしでいらっしゃいます」
「は?」
「時間が許せばいつまでも励んでいらっしゃいますので、私共もいつお食事をご提供すべきかと悩ましい時があるほどなのです」
「まて、フリティラリア様はまさかとは思うが毎日ブルーローズの離宮にいらっしゃっているのか?」
「おや、お伝えしておりませんでしたか?」
「聞いていない。成人した夜に目合ったとは聞いたがな」
「然様でしたか。では、今お伝えいたしましたので問題ありませんね」
私の言葉に国王は書類から手を離して頭が痛むのか手を当ててため息を吐きました。
「魔人と人族の子供は魔人しか生まれないというのに。ブルーローズは王族として子供を残す義務を果たさないつもりなのか?」
「そうなのではございませんか? いいではありませんか、主様以外にも王族は居るのですから。男性もいますし子種をばら蒔けばどれかは当たりますよ」
「ブルーローズの価値は我が国にだけあるわけではない」
「そうでしょうね」
矮小な人族の国とはいえその王座に主様以上に相応しい者は居ないでしょうが、矮小な人族の国の王座程度が主様に相応しいとは馬鹿らしいほどに思えません。
用事を済ませて離宮に戻りますと、すぐに私が居なかった間の状況を確認して主様のもとに向かいます。
私室の扉をノックしますと、中からオニキスが扉を開けてくれましたので入り、主様に当面のスケジュールをお伝えいたしました。
「クロトン様の婚約者選びの夜会があると聞いておりますけれど?」
「運悪く主様とフリティラリア様のデートの日でございましたのでお断りさせていただきました」
「そうですの」
デートという単語に一瞬だけ主様が嬉しそうに目を輝かせた事に気が付かないふりをして話を進めていきます。
「魔国で行われる晩餐会なのですが、ドレスはやはりフリティラリア様がご用意するとの事でございます」
「今回もですの? なんだかんだ言ってフィラ様と婚約をしてからわたくしが自分でドレスを用意した事はほとんどございませんわね」
そしてそれを脱がすまでがフリティラリア様のご趣味でいらっしゃいますね。
「ところで主様」
「なんでして?」
「お買い物をなさったのはよろしゅうございますが、そちらはフリティラリア様がお越しになる前に片付けた方がよろしいのではないかと具申いたします」
「だって、沢山作ったので今夜どれを身につけるか悩んでしまうんですもの」
「主様のその拘り、このジェイドは素晴らしいと思っておりますが、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「何ゆえに、猫耳やらウサ耳、そして各しっぽが?」
「たまにはこういう趣向も喜ぶのではないかと思いましたの」
「大変お似合いになるのでお喜びになることは間違いないと思いますが、そちらをお召しになるのはお時間に余裕がある時になさった方がよろしいと存じます」
「そうですの。オニキスにもそう言われましたし、せっかく作ったのに残念ですけれどもこちらは本日はなしですわね。この二つを除いたとして、今夜着用するのはどれに致しましょう」
真剣に悩む主様のお姿は大変愛らしく思えますが、フリティラリア様は主様が成人した夜からずっと、フリティラリア様に喜んでいただく為に下着とナイトドレスをデザインから考えて作成しているとご存じないのはもったいないのではないでしょうか?




