はたらく番さま!(フリティラリア)
「そうか、ご苦労だった」
「いやはや、聞きしに勝るヒロイン症候群の発病者で、笑いをこらえるのに苦労をしてしまいました」
ロジーが話していたヒロインなる者の様子を我の筆頭秘書官に探らせたが、これまた過去に良くあった典型的なヒロイン症候群を患っているような娘のようだ。
そういう娘が関わった者の多くはろくな未来を迎えないと歴史が物語っている。
ただ、ロジーは気が付いていないようだが、ロジーと親しくしている者はヒロイン症候群を患っている者の干渉を受ける事があまりなさそうだ。
ロジーには悪いが、魔国にとってファンタリア王国が滅亡しようと些細なことなので国の行く末はどうでもいい。
いっそ、滅亡した方がロジーを魔国に呼び寄せるいい口実になる。
「ミアアステリ様は、何故にあのようなゴミを放置なさっているのでしょう? 私には分かりかねます。あのような矮小な存在、ミアアステリ様がその気になればすぐに消滅させる事も出来るでしょうに」
「我もそれに関しては尋ねた事があるのだが、『出来ない』そうだ」
「は?」
「ロジーが直接手を下す事が『出来ない』ようになっているらしい」
あの時、ロジーは世界樹システムは本当に使えないと毒づいていたが、確かに過去の記録でも、なぜかヒロイン症候群を患っている者が奇妙にも一定時期までありえないほど『許されている』事が多々あった。
他の世界からの干渉という事象に関わっているのだとロジーは言っていたが、それ以上の情報を知るには条件が不足しているので分からないとも言っていた。
「そうであるのなら、ミアアステリ様以外が処分してしまえばよろしいではありませんか」
筆頭秘書官の言葉に、それもそうだとは思うのだが、ロジーが面倒なので放置すると言った以上、勝手にこちらで手を出せば機嫌を損ねてしまうかもしれない。
「そういえば、ロジーに歯向かっていた女どもはどうなった?」
「フリティラリア様のご指示通りに処理いたしました。しかしよろしかったのですか? 中には他の使い道がある女性もいましたが」
「構わない。ロジーを煩わした時点で命を捨てたも同然だ。我ら魔人は上位の者に絶対服従なのだからな」
「御意のとおりにございますね」
「それに、生かしてやっているのだから、我としては随分優しい処理を施したと思うのだがな」
「確かに、肉体的には生きておりますね」
微笑を浮かべる筆頭秘書に書類を渡してため息を吐き出した。
「では、本日分の仕事も終わったので我は帰る」
「フリティラリア様」
「なんだ?」
「至高の御方であるミアアステリ様にお会いするために仕事を早く終わらせるのはまことに結構でございますが、一応ここがフリティラリア様の住む場所でございます」
「我の帰る場所は番のいるところだ」
「然様にございますか」
「ロジーと共に過ごせる時間は限られている。魔人同士のように長い時間を共には出来ないのだ」
我はそう言ってロジーの離宮に転移をして聞いていなかったが、筆頭秘書官が「至高の御方なら、寿命ぐらいどうにでも出来そうなのですが」と呟いた。
離宮に転移するとロジーは部屋におらず、離宮の中を歩いて見つけたシトリンに錬金工房に居ると聞いてそちらに向かうと、いくつものアイテムや魔道具を並行作業で作り出しているロジーが居た。
「ロジー、こんな時間まで珍しいな」
「いらっしゃいませ、フィラ様。少々魔道具の改良をしておりますの」
「改良?」
「以前作った超範囲攻撃魔道具はクレーターが出来てしまいますでしょう? そのせいでフィラ様も地上での実験許可をくださいませんし。ですので、クレーターが出来ないよう、特定の対象のみを破壊するように効果が変えられないかと改良しておりますのよ」
「そ、そうか」
それってあれだよな、直系十キロぐらいを問答無用で吹き飛ばすとか説明されたもので、ダンジョンで実験した際に建物だとか景観だとか、何だったら崖とか山を問答無用で吹き飛ばしてクレーターにしたあの魔道具だよな?
魔道具の改良とは、簡単に出来る物ではないのだが……ロジーなら出来る、のか?
「完成しましたらまたダンジョンで実験いたしましょうね」
「いや、いくら世界樹を使って修復出来るとしても、簡単にダンジョンを壊すのはよくないのではないか?」
「大丈夫ですわよ。誰もいないダンジョンを実験に使いますもの」
「そういう問題ではって、まて、今何を入れた!?」
「玻璃蝶と瑠璃蝶の羽を粉砕した物ですわ」
どちらもSクラスの魔物なのだが!? 小さい物でも七メートル超えの魔物なのだが!?
「あ、そういえばフィラ様にお願いしようと思っていた素材がございましたのよね」
「え……」
ロジーに用意出来なくて我に用意出来る素材なんてあるのか?
「こちらの魔道具の影響を受けないように除外ターゲットのデータを組み込みたいので、フィラ様の肉体組織を一部いただけませんこと?」
「…………ん?」
「なんでもよろしいのですわ。肉片でも、それこそ爪でも」
「そ、そうか」
顔が引きつりそうになるのをこらえて両手の爪を確認し、ロジーに触れるようになって以降傷つけないように短く切りそろえているという事実に絶望した。
爪でもいいのなら、髪でも許されるだろうか……。
だが、ロジーは我の髪は射干玉色で艶々でサラサラで触れるのが好きだと言っているから、もしかしたら切ると言ったら怒るかもしれない。
……いや、そもそも頭部を吹き飛ばされるのに、髪を切ると怒られるのだろうか?




