婚約者が狂戦士だった件2(フリティラリア)
転移した先は氷の中にある空間の空中で、足元にはロジーの作り出した風の床がある。
下には瘴気の塊が存在し、そこから魔物が次々と生まれていて、封印し閉じ込めているせいで共食いが発生し、今まで見てきた流星群の中でもこれほどの惨状は見たことが無いと言えるものだ。
「難易度的にはちょっとお高めですわね」
「ちょっと、か?」
ロジーの言葉に思わず顔が引きつってしまう。
「わたくし以外の能力引き継ぎ転生特典を持ったランカーが居ると処理が早くすみますので楽なのですが、無い物ねだりはいけませんわね。そもそも流星群イベントの実体験で来たのですし、やれるだけやればよろしいですわよね」
そう言うとロジーはふわりと風の床から飛び降りた。
「″トゥース・ラプチュア″」
直径数十メートル範囲の魔物が内部から破裂し、そこだけぽっかりと魔物が居ない空間が出来上がり、魔物の体液で汚れた地面にロジーが足をつけた。
「さあ、久しぶりに走りますわよ」
そう呟いたロジーはそれまで浮かべていた笑みを消し、無表情になると我の目で捉えるのがやっとという動きで魔物に向かい、その先に居た魔物がまとめて消し飛んだ。
いや、おかしいだろう。
さっきのまとめて魔物を内側から破裂させた魔法もおかしかったが、向かった先の魔物が『何もしていないのに』消し飛ぶってなんだ。
ロジーの行動に魔物どもが一斉にロジーに狙いを定め襲い掛かってくるが、その全てがロジーに近づく前に消し飛んでいく。
正直、あそこに近づきたくない。
近づいたら、色々な意味で最期な気がする。
そう思いながらロジーを凝視していると、常に口が動き、『視えて』いなかっただけで魔法が放たれているというのが分かった。
高速魔法か? それにしても我が視えないとはどれだけのスピードで発動しているんだ?
下でどんどんと数を減らしていく魔物に、もはやロジーの方が恐い。
「魔物の発生速度が遅いですわね」
ふと聞こえた声に耳を疑った。
ヒクヒクと唇を震わせてロジーを見下ろせば、辺り一帯の魔物の姿が消えている。
いや、ざっと見積もって数万単位でいただろう!?
驚いて思わず開いた口を手でふさぐと、ふわりとロジーが飛んできて我の隣に立つ。
「総合ノルマ未達成で終わることが多い原因がわかりましたわ」
「そ、そうか」
「魔物の発生速度がこれほど遅ければ、数が足りなくなるのも仕方がありませんわね。バランス調整がなっておりませんわ。それに、ずっと世界樹システムに接続しておりますけれども、この流星群の現時点での総合ノルマ達成度は31%でございますの。どのぐらいの期間続くもので、いつの時点でこのように封印したのかはわかりませんけれども、封印を解くのは現時点ではやはりやめておく方がいいですわね」
「ロジー」
「なんでしょう、フィラ様」
「ずっと世界樹に接続していると言ったか?」
「ええ。その方が総合ノルマ達成度を確認しやすいと思いまして」
「そうか……。ちなみに、あの高速魔法はなんだ?」
「高速魔法? なんですの、それは」
「いや、ずっと魔法を発動していただろう。我にも発動された魔法が見えなかったぞ」
「確かに常時魔法は使っておりましたけれど、特に何かしているわけではありませんわよ? 『普通に』走っていただけですわ」
ロジーはそう言って頬に手を当てて首を傾げたが、何か思い当たることがあったのか、「そういえば」と呟く。
「『花と星の乙女』で戦闘速度を五倍設定にしておりまして、尚且つわたくしのスキルに戦闘効率十倍という物がございますわね」
「スキルとは、人族が扱う魔法とはまた別の技術だな」
「ええ。もし戦闘速度五倍設定が継続しているというのであれば、五十倍の速度で動いていただけだと思いますわ」
「ごっ……。い、今まで一緒にダンジョンに行ったときは今のようにはならなかったと思うのだが」
「ランイベは本気を出しませんと」
真剣な顔をして言うロジーに「そうか」としか返すことが出来ない。
「とりあえず、この空間を一掃してまいりますのでフィラ様はこの辺に発生した魔物を適当に倒していてくださいませね」
そう言ってまた下に降りて行ったロジーは、次の瞬間姿が見えなくなった。
ロジーは確かに自分は強いが、前世では自分と同じぐらいに強い存在は他にも何人もいたと言っていたが、その世界はそんなに恐ろしい世界なのか?
そんな事を考えてゾワリと悪寒が走ったことを誤魔化すように、下で発生した魔物を倒すため、我も風の床を蹴って下に降りて行った。
数時間後、我は話す気力もなく黙々と用意されたお弁当の中身を食している。
つらい、流星群の対応はいつもつらいが、普段は沢山の仲間と戦っている分、孤軍奮闘は精神的にも体力的にも魔力的にもつらい。
「うーん、一帯を数時間狩りつくしても未だに34%ですのね。記録によれば、流星群の期間は長いと一年近くあったようですし長期戦なのでしょうか?」
平然と考え込んでいるロジーは優雅に食事をしつつ、未だに世界樹に接続しているらしい。
「フィラ様のレベルはまだ上がっておりませんし、今後も定期的にこちらに遊びに来ましょう」
なんて!?
「二人だけでの共同作業なんて、なんだか新婚みたいですわね」
ちょっと頬を染めて「ふふ」とか笑う姿はすごく可愛らしいが、言っている内容はとてつもなく物騒だぞ!?




