婚約者が狂戦士だった件1(フリティラリア)
「ロジー、ここはどこだ?」
一緒に出掛けようと誘われて、その行き先がダンジョンでないというだけで嬉しかったのだが、世界樹システムを使用しての強制転移で連れてこられた場所は我でも知らないところで、周囲を見渡しても特に楽しめるような物があるとは思えなかった。
というか……。
「氷の大地、か?」
そう言う以外に表現のしようがない。
前後左右、氷の大地が続いていくだけの場所。
「ここは、約八億五千七万年前に流星群が起きて、ノルマ未達成のまま放置されている場所なのですわ」
「ロジーの言う総合ノルマというものが未達成でも、流星群による魔物の発生は時間がたてば終わるだろう。ペナルティとやらはあるそうだが、時間がたてば消えるそうだし」
八億五千万年以上前の流星群であれば、ペナルティなるものはもう関係ないだろう。
「ここは、未だにペナルティが課せられている……いえ、流星群を封じ込めている場所でございますの」
「は?」
「世界樹システムの記録によりますと、流星群の対策の一つとして流星群そのものを封じ込めるという物が試されたそうですの。その結果がこの氷の大地、いえ、氷の塊ですわ。かつてあった大地は流星群により消し飛び、魔物が溢れかえった結果魔物を倒す効率も上がらず何日も戦いに身を投じた結果、流星群そのものを封じることしか出来なかったとも言えますわね」
「つまり……」
「ええ、この下にはまだ流星群。すなわち他の世界からの干渉を受けてやって来た瘴気により生まれる魔物が存在しておりますわ」
下、と言われて足元の氷を見つめる。
この下に流星群が存在しているとなれば、次代の調停者として放置することは出来ない。
しかし、当時の者が封じることを選ぶほどの物なのだとすれば簡単にどうにかすることは出来ないのだろう。
「なので、今からわたくしとフィラ様でこの下にある流星群にチャレンジしようと思いますの」
「……………………………………は?」
聞き間違いか? 聞き間違いだよな? 聞き間違いであってほしいのだが?
「総合ノルマについてはわかりませんけれども、氷の奥に直接転移いたしますので封印が解かれるわけではございませんし本日中に処理が終わらなくてもペナルティが発生するという事はないと思いますわ。わたくしも前世ではランカーとして流星群イベを走りましたけれども、やはり現実で体験しておいた方がいいと思いますの。残念ながら、過去の記録を確認いたしたところ七割近くが総合ノルマ未達成の状況でございますし、やれるだけやってフィラ様のレベル上げをしてもいいと思っておりますのよ」
「まっ、なっは?」
「『花と星の乙女』では、リアルタイムで総合ノルマのカウントがございましたけれど、こちらではどのようになるのかわかりませんし。ええ、やはり実際に経験することは大切だと思いますの。ご安心くださいませ、魔物の百万や二百万など本日中に何とかなりますわ」
ロジーが規格外なのは知っているが、流石に無理だろう。
流星群だぞ? 倒しても倒しても、その時々の日数が経過しないと発生源である瘴気が消滅しない流星群だぞ?
瘴気なのに光魔法で浄化しても即座に復活する流星群だぞ?
「わたくしも、攻略対象キャラを連れていないソロ状態で流星群を体験するのは初めてでございますが、ダンジョンにはソロで遊びに行っておりますし、フィラ様もいますので大丈夫ですわよね」
「いや、通常の流星群は百万以上の軍勢で対応する物であって――」
「ラピスラズリにお弁当も作ってもらっておりますので、頑張りましょうね、フィラ様」
曇りなき笑顔と言うのはこういう物を言うのであろうな。
我の番は今日も美しすぎて涙が出そうだ。
涙が浮かびそうになるのをごまかすため一度晴れやかな空を見上げ、ロジーを見つめると覚悟を決めて頷いた。
ロジーが居れば多分死んでも何とかなるだろう。多分。
すぐさま手を繋がれ、世界樹システムに接続したロジーによって転移がなされるが、この体が崩れていき再構築されるという感覚は何度体験しても鳥肌が立つな。
だが、我の考えは甘かった。
今までロジーとダンジョンに出ても我よりも格段に強いというレベルの戦闘であったのだが、あれはロジーの本気ではなかった。
ランカーなるものの本気というのは、究極の狂戦士のことだった。




