乙女ゲームスタート3
「貴方はわたくしを馬鹿にしておりますの?」
「そんなことはありません」
「では、なぜ先ほどのような発言をなさったのでしょう? 貴方如きに差し出されるものでわたくしが何かをして差し上げるとでも思いましたの? わたくしもずいぶん安く見られておりますのね。不愉快ですわ」
冷たく言い放った言葉に、ヴァレイさんが唇をかみしめました。
「お願いします。なんでもします。この命を差し出せというのでしたら喜んで差し出します」
「そのような物をもらって嬉しいと思うとでも? わたくしの事をなんだと思っていらっしゃるのかしら。そもそも、方法を知りながらも人にさらに頼ろうなど、己が未熟だと自覚しているだけに悪質ですわ。それに、こうして人前でお願いをすればわたくしが断らないと思いまして? 浅はかですわね」
突き放すようにはっきりと言えば、図星だったのか顔を歪めていらっしゃいます。
「ブルーローズ嬢、その花を作るというのは難しいのか?」
ホスタ様の言葉にわたくしは手のひらを上にしてその上にポンと青薔薇を出現させます。
「このように、わたくしにとっては造作もないことですわ」
そう言ってすぐに青薔薇を消し去ります。
それを見たホスタ様が少し考えるようにヴァレイさんを見た後、小さく息を吐き出しました。
「君の妹を救いたいという思いは確かなものなのだろう。だからと言って私情で王族であるブルーローズ嬢に何かを要求すると言う事は他の者に対して不平等だ」
「それはっ、けれど――」
「それに、方法を知っているのであればブルーローズ嬢の言うようにこのクラスに在籍している者として己の技量を磨くことを優先すべきだ」
ホスタ様がまともな事をおっしゃっておりますわ。
「それでは、間に合わないかもしれないのです。今は何とか生き延びてはいますが、私や家族の作り出す花を使った薬では、苦しみながらもその命をギリギリ伸ばすことしか出来ないのです。ですので、もっと効果のある花の作り方をっ」
「しかしながら、磨いた技術の成果を披露し、それを判定するというのであれば、クラスメイトとしての許容範囲なのではないか?」
「つまり何がおっしゃりたいのでしょう?」
「クラスメイトの努力を眺める程度の度量すらないとは、君も言わないだろう?」
「なぜわたくしがそのような事をしなければいけませんの? 親しくもない方の努力を眺めるなんていう酔狂者になるつもりはございませんわね。それに、いつ変わるかもわからないクラスメイトと親しくなる気もございませんわ」
攻略対象と関わるなんて面倒事は避けたいに決まっているではありませんか。
「エッシャル女大公様」
「なんでしょう」
「変わらないクラスメイトであれば親しくしてくださるのでしょうか」
「曲解にもほどがありますわね。ご自分に都合のいいように話を受け取ることしかできないのでしょうか」
「俺は商人の家の人間です。相手の言葉尻を捉えて自分に都合がいいように運ぶのは常套手段です」
「そのように開き直られて、納得するとでも思いますの?」
「思いません。けれど、希望がある限り俺は諦めません。エッシャル女大公様、俺の事は今後パキラと名前で呼んでください。訓練をして、エッシャル女大公様に認めていただける花を作ります」
「わたくしが認めるか認めないかはともかく、訓練をなさるのはご自由にすればよろしいと思いますわ」
わたくしがそう言いますとパキラさんは頷いて離れていきました。
「まったく、ホスタ様が余計な事をおっしゃったせいですわね」
「ブルーローズ嬢は王族として、もっと友好関係を広げるべきだと常々思っている」
「必要最低限のお付き合いはしておりますわ」
「ただでさえ誤解をされやすいのだし」
「不要な気遣いですわ」
ホスタ様の言葉をばっさり切り捨てますと、ホスタ様は困ったように眉を寄せ、それでも「何かあれば相談してくれ」と言って離れていきました。
攻略対象であるホスタ様に関わり合いになりたくなどありませんのに、どうして相談などしに行くと思うのでしょう?
「ホスタ殿下の気遣いを無下にするなんて、エッシャル女大公様はやはり冷血ではありませんか」
「同じ王族だからと、ホスタ殿下がかばう必要はないと思います」
「かばったわけじゃない。それに、ブルーローズ嬢は間違ってはいないよ」
同じ教室内でございますので、ホスタ様たちの会話も聞こえてきますが、本人が聞こえている所で悪口をおっしゃるなんて堂々となさっておりますわね。
先ほどのやり取りを聞いていた他のクラスメイトも、わたくしの事を冷たい意地悪な女だと認識なさったようですわ。
まったく、権力を持つ者が個人に肩入れをすればどういうことになるかを深く考えないなんて、Sクラスに在籍しているというのに嘆かわしいですわね。
それにしても、パキラさんの妹さんの病気の完治には近しい魔力を持った者が作った花が必要となりますと、確かに少し前までは治療方法がわからなかった徐々に体が弱って苦しみを抱えるようになる不治の病と言われていたものでございますわね。
魔力で作った花など使わずとも治療はわたくしには当然できますけれども、そんな事をしてしまったら面倒なことになりそうですし放置いたしましょう。




