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その世界を見てみたい3(ホスタ)

「エッシャル大公女様って怖いですよね」


 不意に告げられた言葉に驚いて視線を向ける。

 言葉を放った本人は何気なく言った言葉なのだろうし、その場にいた多くの子息が頷いているのを見るに、彼らにとってブルーローズ嬢はそう思える対象なのかもしれない。


「深窓のご令嬢なんて言われていますけど、言葉はきついし、人を見下しているように感じます。それに、使用人も少人数をこき使っているって噂じゃないですか」


 確かに、ブルーローズ嬢の離宮では使用人の増減はない。

 お爺様が打診しても不要だと断られるのだと聞いているけれども、なるほど、そのようにも受け止められるのだな。


「実の父親とも別居して、異母妹とその母親を冷遇しているとか、ちょっとひどいですよね」

「あれだろう? 生活に困っているのに手助けをしないっていう噂だよな」

「ああ、その噂だったら聞いたことがあるな。実の姉妹なのにひどい話だよ」


 目の前で交わされる会話に、思わず過去の自分の愚行が思い起こされてしまう。


「ブルーローズ嬢は悪くない」

「ホスタ殿下はエッシャル大公女様をかばうんですか?」

「そのようなつもりはないが、彼女の父親とその愛人親子については仕方がない部分がある事も事実だ」


 わたしの言葉にこの場にいる子息はいまいち納得がいかないようだが、エッシャル大公家の恥とも思える話を言いふらすわけにもいかない。


「でも、エッシャル大公女様は王族だし、婚約者になって伴侶になるならそれだけでも十分な利益はありますよね。本人の性格がひどくても、血筋と地位は一級品ですから」


 その言葉に思わず手にしていたティーカップが揺れる。

 言い方は悪いが、この場に居る子息はブルーローズ嬢の伴侶になるかもしれない可能性がある者が殆どだ。

 兄上は『選ぶ権利』はブルーローズ嬢にあると言っていたが、その通りなのだろう。

 その言葉すら、わたしが以前よりもまともになったから教えてくれたと理解できた時は、どれほど驕っていたのかと情けなくなった。


「でも、エッシャル大公女様は子息との付き合いは本当に最低限ですよね」

「そうだな」


 わたしや兄上との接触すら最低限なのだから、その徹底ぶりには逆に感心すらしてしまう。

 こちらに婚約者たる資格が無いと言われているように思えるのだ。


「でも、ブライモン卿は魔法の授業の家庭教師をしているそうだし、弟の君は少しは情報を持っているんじゃないのかい?」

「全くないよ。兄上はエッシャル大公女様の事を家で話すことはないから」

「ふーん」


 話を振られたバーベナが肩を竦めて言った言葉に、がっかりとしたように他の子息が眉を下げた。

 ブライモン卿か。

 ブルーローズ嬢が魔道具を作成して下賜したきっかけが彼にあるのだとすれば、彼はブルーローズ嬢に近しい人物なのかもしれない。

 そう思うと胸の奥でチリっと焦げ付くような痛みを感じた。


 その後、わたし達も成長し、お爺様が退位して父上が新しい国王になる式典の際、ブライモン卿は父上への忠誠は誓わなかった。

 式典の後の歓談会に移ってブルーローズ嬢に近づいて来たブライモン卿を見て、彼の忠誠がブルーローズ嬢にあるのだと納得したが、それと同時にブルーローズ嬢がブライモン卿を見つめる視線に焦りを感じた。

 牽制を込めて発した言葉は全て躱され、兄上曰く挑戦状を叩きつけられたようだ。


「ブライモン卿はブルーローズ嬢に相応しくないのではないかと」


 思ったことを口にすれば、兄上は苦笑し、ブルーローズ嬢は気にした様子も無い。

 その後会話に加わったネリネ殿はわたし達以上にブルーローズ嬢との接触が少ないはずなのに、随分気安げに会話を弾ませている。

 ああ、本当に彼女は『選ぶ側』なのだろう。

 そんな事を思いつつ、ふとブルーローズ嬢の視線の先を追えばブライモン卿が居て、心がザワザワとする。

 わたしには向けられない熱のこもった、それでいて慈愛に満ちた瞳。


「ブルーローズ嬢」

「なんでしょう?」

「君は王族としての自覚をもっと持つべきだ」

「まあ! わたくしに王族としての自覚が足りていないとおっしゃいますの? 心外ですわ」

「いや、そうでは……」

「よろしくて? わたくしは――」

「おやぁ、ホスタ殿は随分可愛らしいじゃないか」

「いいんじゃないかな? 王族としての義務はあれどもそこに感情が伴っちゃいけないなんてことはないんだし」


 ネリネ殿と兄上の言葉に、なんだか妙に恥ずかしくなってしまい、ブルーローズ嬢がこんこんと続ける言葉の半分も頭の中に入ってこなかった。

 その時感じた感情が、恋心という物で、わかりやすくいえばその時のわたしはブライモン卿に嫉妬してその行き場のない感情をブルーローズ嬢に向けたわけなのだが、言い訳を許してもらえるのなら、あの時のわたしはまだ本当に子供だったんだ。

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