その世界を見てみたい1(ホスタ)
彼女は常に自信に満ちていて、その隣にいれば自分が惨めな存在なのではないかと苦手意識すら感じていた。
初めて会った時、わたし自身が正しいと思ったことを真っ向から否定されたのも原因の一つなのだろうけれども、それ以上に王族としての自覚、能力、期待、その全てがわたしより上だと言われているから、あの時のわたしは彼女、ブルーローズ嬢の意見を否定したかったのかもしれない。
王族として、当時すでに異母兄はお爺様や父上からも期待をかけられ、それに問題なく応えていたようにわたしには見えていた。
その裏に隠された血反吐を吐くような努力すら知らず、兄上は年上なのだからわたしが兄上に追いつけないのは当たり前なのだと逃げていた。
そんな中、同い年のブルーローズ嬢までもが頭角を現してきたと知った時の焦燥感はなんと表現したらいいのかいまだに答えを持っていない。
ブルーローズ嬢の社交界デビューパーティー以降、わたしの王族教育は王侯貴族がどのようにあるべきなのか、権利と義務、そして何をもってしてこの国の礎になるべきなのかを中心に教え込まれるようになった。
お爺様や父上もあの時のわたしの発言に、このままではいけないと思ったのだろうし、今思えば我ながら随分と浅はかな事を言った物だと理解出来る。
そうして、必死に王族教育を受ける中、ブルーローズ嬢が騎士団と魔法師団の第三師団全員におまじない程度の物とはいえ魔道具を手作りして下賜したという話を聞き、心の中で人気取りかと馬鹿にしたのも事実だ。
父上が次期国王になることが半ば決まっているとはいえ、未だに派閥争いは無くならず、その影響はわたし達にも当然降りかかって来ていた。
兄上は貴族とうまくやっているし、騎士団や魔法師団とも問題なく付き合いをしていると言われた。
わたし一人が出遅れていると、なんと言っていいのかわからない不安感に襲われて、それを振り切るかのように今までしなかった行動をしようと思い王宮の外に出たあの日、わたしの運命は変わったのだと思う。
初めて見る王宮の外は、目が回るぐらいに活気にあふれた場所であり、この国が栄えているのだと、それを導いているのが王族なのだとどこから湧き上がってくるのかわからない満足感に自信が湧いた。
だが、今思えば王族の王子が初めて行く場所なのだから、選び抜かれ危険のない、それでいて見栄えのする場所が選ばれたのは当たり前の事で、後に「美しい物だけを見続ければ、それが当たり前になり、いずれその価値すら見失う」と呆れられても当然だった。
けれどもその時のわたしには目の前にある光景が全てで、この国の未来は輝かしいものなのだと疑いもしなかった。
けれども、街の見物を楽しんでいる時、少女の集団が目に入り一瞬首を傾げたが、目を引かれた理由を理解してぎょっとした。
どうしてこんなところに、とわたし自身の行動を棚に上げて疑問に思うほどの衝撃だった。
ブルーローズ嬢がその特徴的な髪を鬘か何かで隠し、数人の少女と一緒に護衛も付けずに街を平然と歩いているのだから、驚かない方がおかしい。
もっとも、もしかしたらわたしが気が付かなかっただけで隠れて護衛は付いていたのかもしれない。
とにかく、こちらに気が付くことなく街を歩き、どんどんと活気ある場所から離れていく姿を追いかけたのはわたしにとっては当たり前の行動で、制止しようとする護衛の声を煩わしいとすら感じた。
ブルーローズ嬢が許されてわたしが許されないなどおかしいと、そう思っていたのかもしれない。
彼女達の後を付いていけば、先ほどまでの活気が嘘のような寂れた、見た目も悪臭もひどい場所に向かうようで、王族がこんな場所に来るものではないと思う反面、王都にこんな場所があるという衝撃に足がすくみそうになった。
目的地に到着したのか、ブルーローズ嬢が建物の中に入って行く。
外壁が傷み、見上げれば屋根も傷んでいるようで、こんなところに何の用事があるのかと眉間にしわを寄せたが、よくよく見れば庭のようなところにつるされている衣服にここに誰かがいるのだろうとわかった。
追いかけて建物に近づけば、いくつもの声が耳に入り、もしかしたら授業で習った孤児院という物なのかもしれないと思った。
もっとも、本当はそんな甘い物ですらなかったわけだけれど。
当たり前のように建物の敷地に入り、玄関だと思わしき扉に手をかけようとしたところで中から扉が開けられ、そこに立っていたブルーローズ嬢に何故かわからないがいけないことを咎められているような気分になってしまった。
「尾行するにしても、もう少しどうにかなりませんの?」
その言葉に反論は出来なかった。
後を付けていたのは隠すことも出来ない事実だったのだから。
「まあいいですわ。どうぞお入りになったら?」
「いいのか?」
「別にこの建物への出入りが制限されているわけではありませんわ」
そう言われて建物の中に入り、ブルーローズ嬢に先導されて入った部屋の光景に、わたしは自分の目を疑い、吐き気すら感じた。




