最推しが尊い7
あれから五年、わたくしも十三歳の誕生日を迎えてしばらくして、お爺様がご退位なさるのに合わせてかねてより打診されていた第三師団長就任にスピラエ様が頷いたそうです。
ご本人はまだまだ現役で戦える前第三師団長に団長を続けてもらっていたかったそうなのですが、伯父様が近衛騎士の方に前第三師団長を起用したためその座が空き、ついに頷かざる得ない状況になったのだとか。
第三師団長ともなってしまいますと、今までのように家庭教師として離宮にご訪問していただくことも難しくなりますので先日の授業が最後となりました。
はあ、わたくしのお楽しみ時間が無くなってしまいましたわね。
本日はお爺様のご退位の式典とそれに伴う伯父様の戴冠の式典が行われます。
諸外国の方もお越しくださいまして、社交界デビューしている王族はもちろん参加、貴族は高位貴族の当主夫妻もしくは代理のみ式典に参加することが許されております。
戴冠の式典では王杖、指輪、そして王冠が授けられます。
王族は伴侶を複数人持ちますが、伝統的に正妃・正配を決めておりませんので多くいる配偶者は戴冠式では他の王族と同じく参列するのみでございます。
お爺様がご退位なさるのはもちろん年齢を考えて、急死して慌ただしく王位を交代するよりはと言う事情もございますが、昨年お爺様の第一妃様がお亡くなりになったのが大きな原因でございましょう。
もっとも寵愛を受けていたのはわたくしの祖母であるお亡くなりになった第三妃だと言われておりますが、最も信頼していたのは幼馴染でもあり従兄妹でもあった第一妃様であったと言われています。
最も信頼していた第一妃様の喪失はお爺様にとって大きなものだったのでございましょう。
昨年も、アンデルフ皇国で皇位交代が行われたのは、やはり長年頼りにしていた妃様がお亡くなりになったのが大きな原因だと言われております。
今回の戴冠式に元アンデルフ皇王は参加したかったそうなのですが、即位して間もない時に長く皇国を留守にすべきではないと判断して代わりに、外務大臣と社交界デビューを済ませた皇子と皇女を参列させてくださいました。
他の国も国王自身が参列している国もあれば、家臣や子供を参列させている国など様々でございます。
式典は粛々と進んでいき、新しき国王となった伯父様の名のもとに近衛騎士団団長、騎士団と魔法師団総団長並び各師団長の任命が行われる段階になりました。
はあ、師団長礼装服のスピラエ様はいつにも増して素敵ですわ。
漆黒の生地に銀の装飾、僅かに青みを帯びた黒っぽいマントの裏地の深紅は動くたびに時折見える様がひどく目に焼き付き、ピシッと伸びたお姿は最前線で活躍するにふさわしい頼もしさを感じますわ。
本当に尊い。
「魔法師団、第三師団師団長にスピラエ=ブライモンを認める」
伯父様の言葉にスピラエ様が一歩前に出て『片膝』を突き頭を下げました。
その行動に会場に動揺が起こります。
臣従儀礼では『両膝』を突いて頭を下げるのです。スピラエ様がご存じないはずがありません。
片足を突いて上位者に頭を下げると言う事は、忠誠を誓うべき相手が他にすでに居ると言う事を現していると宣言しているのと同意義でございます。
流石にわたくしも驚いて伯父様がどう動くのかを見守りますが、伯父様は『当たり前』のようにスピラエ様の肩に王杖を置きました。
すなわち、伯父様もスピラエ様が他に忠誠を捧げる存在がいるのを承諾した上で公的機関である魔法師団の第三師団長に就任させたと言う事になります。
もしかしなくとも、第三師団長に就任することを承諾した際に伯父様に真に忠誠を捧げる相手が誰であるのかを伝えているのでしょう。
それにしても驚きましたわね。まさかスピラエ様にそのような存在がいらっしゃるなんて、『花と星の乙女』ではなかったと思いますが、裏設定のような物で実は存在していたのでしょうか?
スピラエ様の肩から王杖が外されますと、立ち上がったスピラエ様が王族が並んでいる列を、と言いますか確実にわたくしを見ていらっしゃいましたがこの状況で意味深な視線を向けてくるのはご遠慮したいですわ。
視線に気が付いた方々が意味深な視線をわたくしに向けてきたではございませんか。
「では、現時点での王位継承者を告げる。第一王位継承権をクロトンに、第二王位継承権をホスタに、第三王位継承権をブルーローズに与えるものとする」
プルメリア様は生憎継承権を得るための資格であるピンクブロンドをお持ちにならないので継承権が発生しないのでございます。
けれども隔世遺伝というものもございますので、王族として伴侶を多く持ち多くの子を成す義務は発生してしまいます。
その後、わたくし達三人が全員王位を継げない事態が発生した場合に王位を『守護』する役割を担う方々の名前が挙げられます。
こちらはお爺様の直系ではない物の傍系で王位を継承する資格の保有者である方々でございます。
この中には、スピラエ様の妹君が含まれております。
公爵家や侯爵家のほとんどは、家系を辿っていけば王族に辿り着きますものね。
王位継承権を持つと名前を呼ばれた者が国王になった伯父様の一段下に並び、王位を守護する資格があると名前を呼ばれたものがそのさらに一段下に並びました。
正直な所、ここから派閥争いなどが始まってもおかしくないのですが、あったとしてもクロトン様とホスタ様の間での争いになりますわ。
わたくしはお二人と性別が違いますのでまた別の扱いをされるのです。
大公家として王族を増やすもよし、二人を押しのけて女王になって王族を増やしても良し、なんだったらお二人を伴侶の一人にしても良しというわけなのでございます。
お二人のどちらかが王位についた際も、わたくしを伴侶の一人としても別に構わないとも思われておりますわね。




