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婚約者の基準がおかしい(フリティラリア)

 魔国での仕事を終えてロジー(愛称で呼ぶようになった)の離宮に転移すると、知らない魔力の残滓が一瞬だけ気になったが、次の瞬間ロジーの部屋に当たり前のように積み上げられている本から漂ってくる禍々しさに顔が引きつった。


「ロジー、そこにある本は一体」

「いらっしゃいませフィラ様」


 ああ、フィラと呼ばれることにも慣れてきたな。

 長ったらしい名前を毎回呼ぶのは疲れると言われた時は泣きたくなったし、乙女ゲームではユーザーが愛称をつけていたのでそれで呼ぶと言われた時は別の意味で泣きそうになった。


「あちらの本は本日よりわたくしの家庭教師としていらっしゃることになったスピラエ様にお貸ししようと思っている本でございますわ」

「人族に?」

「そうですわよ」

「いや、だめだろう」


 我ですら同じ空間に居るだけでじりじり精神的に何かを奪われて行く感覚がしているのに、人族があんなものと同じ空間に居たら気絶ですめばその人族の運の高さを称賛されるぞ。

 同じ空間に居て一発廃人になる可能性の方が高いだろう、あれは。

 直視したら我でもゴリゴリ精神的な何かを奪われて行く気がする。


「確かに少々危険な物もあるかもしれませんが、スピラエ様でしたらちょっとめまいがする程度なのではないでしょうか?」

「そのスピラエという人族がどれほどの実力者なのかは知らないが、悪いことは言わない、見せるのはやめておけ。ついでに同じ空間に置いておくのもやめておけ」

「酷いことをおっしゃいますのね」

「酷いのはロジーの方だろう。ちなみに、直視しないようにしているのでタイトルまで見ていないのだが、何の本だ」

「音魔法に関連する本ですわね」

「ただの音魔法に関連する本があんな禍々しくてたまるか。タイトルはなんだ」

「幻音流星の――」


 ロジーの口から放たれた本のタイトルを耳にしただけで頭が割れるような痛みが走った。

 駄目だろう、完全に駄目だろう。

 そもそもなんでそんなものがここに、って、そうだった、ロジーの持っている書架はどんな本でも収納されているのだったな。

 禁書だというレベルじゃない、神書だとか堕書と呼ばれるレベルのものだぞ。

 人族最強といわれるレベルに達してやっと名前を聞いて倒れないかもしれないというレベルのものだぞ。


「絶対に、やめておけ」

「でも読みたいとおっしゃっていましたし」

「そのスピラエというものを死なせたいというのであれば止めない」

「まあ! わたくしがスピラエ様の死を望むと思っておりますの? 心外ですわ! 最推しの死を願う者がどこにおりますか! いえ、時にはその死さえ乗り越える覚悟はございますが、やはり生きていてくれることを願うのが当たり前ではございませんか」


 なるほど、今まで気にしないようにしていたがロジーの最推しというのはそのスピラエという者なのだな。

 いっそのこと何も知らないふりをして葬っておいた方がよかったかもしれない。

 しかしここで意見を変えてはロジーに不信感を抱かれてしまうかもしれないから、我としては大変不本意ではあるがその人族の命を奪わないようにさせなければいけないな。


「せめて幻音流星の螢惑史伝と門杭玲紀だけにしろ。人族にはまずそれで十分だ」


 それでも大分難解な内容になるだろうが、そもそも幻音流星を読みたいなんていう奇特な人族なのだからそのぐらいは理解してもらいたい。


「先ほど軽く流し読みしましたが、どれも特に問題はございませんでしたわよ? ちょっとピリッとする本もございましたけれど異変はございませんでしたもの」

「ロジーのちょっとは人族にとって致命的という意味と同意義だ」

「まあ! それが婚約者への言葉ですの? 大変に遺憾ですわ。確かにわたくしは他の方々よりも強いですが、そこまで言われては傷ついてしまいますわ。乙女心というものはとてつもなく繊細でございますのに、フィラ様はご理解なさらないようですわね」


 本当に繊細な心を持っている者は自分の心の事を繊細とは言わないだろうとは思ったが口にはしないでおこう。

 したら最後、この間のように意識を失って気が付いたら魔国の自分の部屋の床に転がっている可能性が高い。

 正直あの時は自分に何が起きたのかはわからなかったが、目覚めて父上の執務室に行ったら我の顔を見て爆笑されたからな。

 挙句の果てに「何歳であっても女を怒らせると恐ろしいんだ」とまで言われたから、絶対にロジーがなにかしたのだろう。


 その後、なんとか説得して危険な本を書架に戻させることには成功したが夕食では一切口をきいてもらえず、夕食後部屋に戻ってからはスピラエという人族が如何に素晴らしいかを延々と語られて土下座して許しを乞うたのは、男として恥ずべき事ではないと思いたい。

 それにしても、婚約者がいる身で好意を寄せている男と家庭教師と生徒という立場とはいえ定期的に会うというのは如何なものだろうか。

 しかしその疑問をそのままロジーに尋ねたのは失敗だった。


「フィラ様は、推しへの感情が恋愛感情だけだと未だに思っておりますの? よろしいですか、推しとは尊きもの、崇拝すべき対象であり好意を寄せているなどという陳腐な言葉で片づけていただきたくございませんわ」

「しかし」

「それに、わたくしは攻略対象者と深く関わるつもりはございませんの。魔法の授業だってベロニカ様と一緒に受けて誤解を受けないように対処しておりますのよ。それとも、フィラ様はわたくしが何の対策もしないままに感情の赴くままに行動する単細胞だとでもおっしゃりたいのですか?」

「いや、そこまでは言っていない」

「ではわたくしのスピラエ様に対する思いはフィラ様の誤解だと認めてくださいますわよね」

「わかっ、た……」


 誤解なのか? 関わりたくないのならそもそも家庭教師など頼まなければいいのではないのか?

 しかし、これも訊いたら駄目なのだろうな。

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