最推しが尊い2
ご本人は白髪のようだと自虐なさいますが艶やかな長く伸ばした髪はプラチナブロンドだと思いますし、深紅の瞳は吸い込まれるほど美しく、白い肌の右目の縁にある泣き黒子は何とも言えない色気を感じます。
瑞々しい唇は緩やかな弧を浮かべており、魔法師団に所属していらっしゃいますが最前線に出ているという事もあって服の上からではわからない鍛えあげられた体に何人のユーザーが悶絶したかわかりませんわ。
『花と星の乙女』で見る姿よりもずっと若いブライモン卿が目の前にいらっしゃる。
尊い、やはり最推しは尊いですわ。
うっとりとブライモン卿を眺めておりますと「コホン」とオニキスが咳払いをしてきましたので、何事も無かったようににっこりと微笑みを浮かべました。
「お忙しい中お越しくださりありがとうございます。本日よりわたくしとこちらに居るイレイシー侯爵令嬢のベロニカ様への魔法のご教授をよろしくお願いいたします」
「お初にお目にかかります。魔法師団第三師団所属、ブライモン公爵家長男のスピラエと申します。本来であればもっと早くエッシャル大公女様へご挨拶させていただくべきでしたのに、こちらの都合にて本日のご挨拶になってしまい申し訳ございません」
「いいえ。第三師団でご活躍なさっているブライモン卿がお忙しいのは知っておりますもの、お気になさらないでください。それに、本来なら済んでいたはずの挨拶の機会が無くなってしまったのは一年前にわたくしが倒れてしまったことが原因ですわ」
「あれからご体調の方はいかがですか?」
「すっかり良くなっております。ご心配いただきとても嬉しいですわ」
推しがわたくしの体調の心配をしてくださっておりますわ。なんて尊いのでしょう。
お名前が現すように優雅で上品で仲間との友情を大切にする努力家でいらっしゃいますのに、その上気立てがいいなんて、完璧ですわ。
その反面、戦闘においてはとても頼もしいのに恋愛面においては奥手というかなかなか一歩を踏みこんで下さらないというか、もっと積極的になって欲しいと思えるような、いくじなしとも言われる面もございますが、わたくしはそういう所も含めて最推しでございますの。
「そちらのイレイシー侯爵令嬢にお会いするのも初めてですね」
「今後ブライモン卿にご教授いただく身でございますので、私の事はどうぞベロニカとお呼びください」
「わかりましたベロニカ嬢。私は確かにブライモン公爵家の長男ですが、魔法師団に入る為に家督を半ば捨てた身です。弟が成人すればお役御免となりますし、私の事はどうぞスピラエと」
「あら、ではわたくしの事はぜひブルーローズと呼んでいただきたいですわ。エッシャル大公女ではなんだか他人行儀ですし、お二人が名前で呼び合うのにわたくしだけ家名で呼ばれるなど仲間外れにされてしまう気分ですもの」
「お許しいただけるのでしたら喜んで」
その笑顔、尊みが深すぎて尊死してしまいそうですわ。死にませんけれども。
細められた目と弧を描く唇が作り出す笑みにうっとりとしていると、スピラエ様がテーブルの上に目を向け驚いたように一点を凝視したので視線を追いましたら、そこにはベロニカ様にお貸ししている本がございました。
「そちらの本がお気になりまして?」
「あ、いえ。失礼いたしました。『氷壁飛伝』がここにあるとは思わなかったものですから」
「ブルーローズ様は色々な本をお持ちなのです」
まるで自分が褒められたように胸を張るベロニカ様に苦笑しつつ、スピラエ様に微笑みかけます。
「わたくしの離宮の書架には様々な本がございますのよ」
「然様ですか。流石はエッシャル大公家ですね」
「ふふ、もし読みたい本があればおっしゃっていただければ離宮内での閲覧は自由でしてよ」
「どのような本があるのですか?」
「わたくしも全てを把握しているわけではございませんので、本の題名や内容を教えていただければ次にいらっしゃる際にご準備出来ると思いますわ」
「そうですか。もしかして『幻音流星』は……いえ、なんでもありません」
幻音流星ですわね、覚えましたわ。あとで書架で探してみましょう。
ベロニカ様も本を閉じて姿勢を正すと、スピラエ様が用意された席に座りました。
「さて、事前にお伺いしたお話ではブルーローズ様は王族として習得すべき魔法知識・技術共に履修済み、ベロニカ嬢も初期魔法に関しては知識・技術共に履修済みで今は中級魔法を学んでいる最中ということで御間違いはありませんか?」
「ええ(はい)」
「そうなりますと、教える内容に差が出てしまいますね」
「わたくしは復習を兼ねて中級魔法を教えていただくのも構わないと思うのですけれど」
「私は魔法も教えていただきたいですが、魔法師団でのご活躍や戦闘の際に気を付ける事等をお聞きしたいです」
「なるほど。どちらも良いお考えだと思います。それでは――」
その後、優雅にお茶とお菓子を楽しみながらわたくし達はスピラエ様が先日参加なさったと言う風星の渓谷でのお話を聞くことになりました。
途中で使用した魔法の解説、風星の渓谷の地形の解説、一緒に行動した方との連携や作戦などをこちらが退屈にならないように抑揚をつけてわかりやすくお話ししてくださり、魔法やダンジョンの知識は頭の中に入っているわたくしでも楽しく拝聴することが出来ました。




