最推しが尊い1
わたくしの社交界デビューのパーティーからさらに半年経ちまして、わたくしも八歳になりました。
友人が幾人か出来ましたが、やはり一番親しくさせていただいているのはイレイシー侯爵令嬢であるベロニカ様ですわ。他にもいらっしゃいますが一番初めにお互いに名前で呼び合うようになりましたもの。
そして本日より、お爺様にお願いしておりましたお誕生日プレゼントが始まりますの。
「ブルーローズ様、私もご一緒してよろしいのですか?」
「構いませんわ。共に学ぶものがいた方がいいとお爺様もおっしゃっておりました。それに、魔法師団の第三師団のホープであるブライモン卿にご教授いただける機会など滅多にございませんわ」
「それはそうですけれども」
「ベロニカ様がお強くなって将来第三師団で活躍なさるようになりましたら、ブライモン卿にとっても喜ばしいことだと思いますので、学べるときに学ぶべきですわ」
「なるほど。それもそうですね」
わたくしがお爺様にお願いしていた八歳のお誕生日プレゼント。それはブライモン卿に魔法の家庭教師になっていただくことでございます。
もちろん、わたくしにとって魔法の授業など今更すぎて必要などないのですが、傍で最推しを堪能できるチャンスだと思えば充実した時間が過ごせるに違いありません。
『花と星の乙女』の攻略対象であるブライモン卿とあまり近づくべきではないとわかってはいるのですが、それはそれ、これはこれ。
関係性といっても生徒と教師、そして学ぶのはわたくしだけではなくベロニカ様もご一緒となれば変な噂が立つ事もございませんでしょうし、勘違いされることもございませんわ。
我ながらなんて完璧な作戦でございましょう。
第三師団のホープであるブライモン卿はお忙しいので家庭教師として来ていただくのは月に一度になりますけれども、そのぐらいが丁度いいですわよね。
「それにしても、何度かお邪魔させていただいていますが、ブルーローズ様がお住いの離宮は不思議ですね」
「と、おっしゃいますと?」
「外見の広さと実際に中に入ってから見える広さが違います。空間魔法で拡張しているのだという事はわかりますが、どれほど技巧に優れた方が施したらここまで素晴らしいものになるのかと、訪問させていただくたびに悩ましく思えてなりません」
「ふふ、最初に申し上げました通り、わたくしや使用人が傍にいない時は『道』から離れてはいけませんわよ」
「誘惑に負けないようにします」
もっと強かったり、この離宮の内部施設に慣れてしまえば大丈夫だとは思いますけれど、迷い込んでしまったら大変ですものね。
わたくしが探せばすぐに発見することが出来ますけれど、それまでの間不安な気持ちにさせてしまうかもしれませんし、危険な植物に触れないとも限りませんからやはり迷い込まないのが一番ですわよね。
「ところで、私は確かに魔法の勉強は必要ですし、今も家で他の家庭教師に学んでいますが、ブルーローズ様は既に王族認定家庭教師も太鼓判を押すほどの知識と技量を持っていると聞きました。陛下にお願いしてまでブライモン卿に家庭教師を依頼する必要があるのですか?」
「もちろん、最前線の現場は常に流動しておりますもの。そこでご活躍なさる方に学ぶことで得ることもございますわ」
「なるほど」
もちろん方便ですけれどもね。
「伯父様のお話では、第三師団は先日B級ダンジョンである風星の渓谷に赴いたそうですので、その時のお話を聞くのも良い経験になると思いますわ」
「B級ダンジョン! 高レベルの冒険者や魔法師団や騎士団の最前線で戦う方でないと挑戦する権利すら得ることが出来ないと言われていますね。はあ、私も将来はそういった現場で活躍したいです」
「努力次第ですわね」
わたくしでしたらS級ダンジョンでないと手ごたえが無いのですが、流石にお付き合いさせて怪我をさせてしまうのも申し訳ないですものね。
フリティラリア様曰く、迷宮度で言えばこの離宮が既にSクラスダンジョンに匹敵するそうですが大げさですわ。
お茶を飲んで恋愛小説を読みながらのんびりとブライモン卿をお待ちしている間、わたくしの隣ではベロニカ様がわたくしがプレゼントした水晶ペンを使って持ち込んだノートにお貸しした本の内容を必死に写していらっしゃいます。
内容がちょっとアレだったり、わたくしの領域から出てしまうと暴走したりする物もございますので、わたくしの書架にある本は離宮内で読んでいただくか、書写していただくようにしておりますの。
書写も、多少の危険はあるのですが原書よりは危険度は下がるのでまあ大丈夫でしょう。
本当に危険なものはお見せしておりませんし。
それにしても、結星の書架はイベントの報酬でこの世界の『あらゆる原書』が納められているという設定でしたが、現実ですと本当に圧巻でしたわ。
わたくしが気になる項目を思い描けば該当する原書がリストアップされるのでそこから選べばいいだけなのですが、多すぎるというのも考え物ですわね。
パラパラとページをめくっていると離宮内に誰かが入った感覚がいたしましたので確認しましたら、ブライモン卿でございましたので読んでいた恋愛小説にしおりを挟んで閉じ、ドレスの乱れや髪の乱れが無いかを確認してから姿勢を正し、ブライモン卿がこちらに到着するのを待ちました。




