社交界デビュー9
三人で楽しく談笑していると、お爺様達が戻っていらっしゃいましたのでネリネ様はさり気なく話を切り上げて離れていってしまいました。
「ブルーローズ、お前から見て気に入った子息はおったか?」
「特には」
ファンタリア王国のお爺様の言葉に肩を竦めると、お爺様はわざとらしくがっかりと肩を落とし、困ったような顔をしていらっしゃいます。
「まあ、ブルーローズもまだ七歳なのだから急ぐこともないだろう。しかしながらこの国にもアンデルフ皇国にも有望なものがいるという事は心しておくように」
「かしこまりました」
気になるというか、関わりたくない子息はいますが、それとは別にわたくしの友人候補として連れてこられたであろうご令嬢の中にはチラホラと気になる方はいらっしゃいますわね。
もちろん準攻略対象は別として、ですが。
「子息はいませんが、あちらにいらっしゃるイレイシー侯爵令嬢は少し気になりますわ」
「ふむ」
「ご挨拶いただいた時も他のご令嬢に比べて内容が簡潔でいながらもまとめられており、尚且つこちらに対しての礼節を守りつつも媚びてくるわけではなく、態度も堂々としたものでございました」
「ああ、あの家は権力争いなどに興味が無いからな。かろうじて侯爵家は維持しているが、その気になったらいつでも貴族をやめて自分達の好きな事に没頭するだろう」
「貴族でいるのは、好きな事に没頭するための資金作りのためと言う所ですの?」
「そうだろうな。祖先が開発したもので築き上げた資産があるとはいえ、趣味に没頭するのなら資金はいくらあっても困らないだろう」
「物によっては確かにお金がかかりますものね」
わたくしは本当の意味で腐るほどお金があるので資金不足になるという言葉には無縁なのですが。
イレイシー侯爵令嬢は準攻略対象キャラでもございませんし、もう少しお話をしてもいいかもしれないと思える方でございます。
わたくしの意図をくみ取ってくださったのか、お爺様が侍従に指示を出すと、その侍従がすぐさまイレイシー侯爵夫妻とご令嬢の所に向かい、小声で何かを伝えるとご夫妻は驚いたような顔をしつつもご令嬢を連れてこちらに品位を損なわないけれども出来るだけ早い足取りで向かっていらっしゃいました。
「お呼び立てして申し訳ありません。ご令嬢と少しお話がしたいと思いましたのよ」
「娘をお気に召していただけたようで何よりでございます」
「ええ。イレイシー侯爵令嬢のご趣味などをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「エッシャル大公女様のお相手としてうちの娘が務まるか不安でございますが、娘にエッシャル大公女様のお相手をさせていただく栄誉を与えてくださりありがとうございます」
イレイシー侯爵の言葉にわたくしに視線を向けたイレイシー侯爵令嬢の瞳は酷く挑戦的な光を浮かべていらっしゃいます。
「私は水魔法による回復魔法や補助魔法に興味がありまして、ゆくゆくは魔法師団に入り、第三師団で活躍したいと思っています」
「まあ、それは素晴らしい心がけですわ」
「最近読んだ本は水属性魔法が記載されている『生命源水』という物です」
「随分難しい本を読んでいらっしゃいますのね。確かに水魔法による回復や補助魔法にご興味があるのでしたら良い本ですわ。わたくしとしては、『星水原典』や『古水術法書』、後は『伏流水希典』もおすすめですわ」
「エッシャル大公女様はそれらを読んだことがあるのですか?」
「ええ、もちろんですわ」
頷いたわたくしに、挑戦的な視線から羨ましそうな、それでいて子供らしいキラキラとした尊敬を向けるような視線に変わりました。
「けれど、回復魔法や補助魔法は何も水魔法に限ったものではございませんわ。状態異常回復魔法にも言えることですが、各属性にも該当する魔法がございますのに、何か水魔法にこだわる理由がございますの?」
「お恥ずかしながら。水魔法を使用した際の感覚が他の属性の魔法よりも心地よく感じることが出来るのです」
「なるほど、相性がいいのかもしれませんわね。けれども魔法師団の第三師団で活躍なさりたいのであれば水魔法だけに特化するのではなく、他の属性魔法も学んだ方がよろしいでしょうね」
イレイシー侯爵令嬢は魔法適正がBなので、努力すればそれなりの魔法を扱えるようになるはずですので、ぜひとも一つの属性にこだわらずに色々な魔法に取り組んでいただきたいですわ。
魔力保有量は適正値と違ってランクを上げることは可能ですが、かなり難しいのでこれにかんしてはイレイシー侯爵令嬢が相当努力しないといけませんが、七歳の現時点でDランクであれば高みを目指すことも可能だと思いますの。
「他属性ですか。わかってはいるのですが、どうしてもコツが掴めなくて。父にお願いして魔法師団のどなたかを家庭教師にしていただこうとも考えております」
「なるほど」
努力する気はあるという事ですのね。素晴らしいですわ。
わたくし、上を目指す志を持っている人は大好きですの。
それに魔法師団の方を家庭教師にするというアイディアはとてもよい物ですわ。




