社交界デビュー4
「けれども、おっしゃることを全く否定してしまうほどわたくしも非人道ではございませんの」
にっこりと微笑むと、何を思ったのか怒りで顔を赤くしていた二人が目を瞬かせてニヤリと口を持ち上げました。
何となく考えていることはわかりますが、自分に都合がいいように解釈をする癖はおやめになったほうがいいと思いますわ。
「ようするに、わたくしの父親でなくなればよろしいという事ですわよね」
「「え?」」
「そちらの平民との再婚も、母親を亡くして寂しがる娘を思っての事でしたが、お爺様がエッシャル大公家にそちらの母子を迎え入れることをお許しにならなかったから、そちらの平民とその娘を愛していながらも実の娘であるわたくしから父親までなくすのは気の毒だと思い再婚なさらず、別邸に真に愛する女性とその娘を居候させて家族ごっこを楽しんでいらっしゃいますのよね」
「家族ごっこなんて! 私達は間違いなく家族よ!」
「それは、お父様もそう思っていらっしゃるのかしら? そちらの平民とその娘は家族であると? 自分の妻同然であり、娘は間違いなく自分の娘であると思っている。それでお間違いございませんか?」
わたくしの言葉に遺伝子上の父親がしっかりと頷いたのを確認して、わたくしは「それは素晴らしいですわ」と拍手を送りました。
「先ほども言いましたけれど、わたくしは非人道ではございませんの。お父様のご家族の幸せを応援したいと思いますのよ」
「じゃあ!」
「手切れ金はお幾らぐらいがよろしいかしら?」
わたくしの言葉に目を輝かせた二人が意味が分からないと訝し気な顔をした後、ハッとしたように平民がわたくしを責めるように睨みつけてきました。
「手切れ金なんて、旦那様から私とスノーフレークを引き離す気なのね!」
「まさか、先ほどわたくしが言ったことをお忘れでして? ご家族の幸せを応援したいと思っていると申しましたでしょう」
「じゃあ、手切れ金って」
「もちろん、貴女がおっしゃる旦那様、わたくしの遺伝子上の父親と我がエッシャル大公家との縁きり用の手切れ金ですわ」
「そんなのは認めない!」
わたくしが誠心誠意気遣って言った言葉を即座に否定したのは遺伝子上の父親でございます。
「どうしてですの? 愛する家族と誰に後ろめたい思いをすることなく暮らすことが出来るようになりますのよ。これほど良いことはございませんでしょう」
「今までの生活を維持出来ればそれで構わないと言っている」
「あら、お金が無くて困窮していらっしゃるのに維持ですか? 他の方に無心なさってまで維持なさりたいのでしょうか。けれどもおかしいですわね。住んでいらっしゃるエッシャル大公家の別邸の維持管理費も働いている使用人へのお給料も、支払っているのは貴方ではなくエッシャル大公家でございます。そちらにお渡ししている予算は十分な食事を毎食取ることが出来、社交の場での装いに困る事のないものでございますよ」
「オダマキとスノーフレークも一緒に暮らしているんだぞ。そんなこともわからないのか」
遺伝子上の父親の言葉に平民が何度も首を縦に動かして頷きますが、それこそおかしな話だとなぜ分からないのでしょうか。
「なぜ、貴方が勝手に別邸に引き込んでいる居候の事まで考慮して予算を渡さなければいけませんの? 愛人の面倒を見たいのなら、ご自分に割り振られた予算をやりくりするのが当然でございましょう」
だって彼女達は使用人でもなければ、お爺様に認められて別邸に住んでいるわけでもないのですもの。
わたくしが「何か間違っていまして? 愛し合うご家族を応援する娘の気持ちを蔑ろにするなんて、父親として如何なものでしょうか?」と追い込むように言うと、遺伝子上の父親とその愛人が押し黙りました。
王族であるからこそ、数多の貴族の見本であるべきでございますので身内であれ恩情をかけるべきところと切り捨てるべきところを見誤るべきではございません。
お爺様や伯父様がわたくしが自由に発言するのを止めないのも、わたくしが言っていることに間違いがないと思っているからこそでございます。
けれども、それをご理解なさらない方というのは何処にでもいらっしゃるわけで……。
「血の繋がった親を助けるのは当然なんじゃないか?」
伯父様の次男でいらっしゃるホスタ様がそう言ったことで、会場にいらっしゃる方の視線がホスタ様に集まりました。
「それに、王族たるもの困っている者を見捨てるべきじゃない。話を聞くに、そちらの女性はブルーローズ嬢の父親の愛する人なのだろう? だったら君も彼女とその娘を家族として受け入れればいいじゃないか」
その言葉に、「なに言っているんだ、こいつ」というような空気が流れたのは言うまでもありません。




