婚約いたしましょう10
わたくしとフリティラリア様がそんな会話をしている間に、考えがまとまったのか魔王陛下が軽く息を吐き出しました。
「ここまで大規模な『その時点での状況情報』は初めてだが、なるほど、納得もいく」
あ、考え事をしながらもわたくし達の話を聞いてはいらっしゃいましたのね。
「さて、ブルーローズ嬢。君は『この世界』の『創世神話』を知っているかな?」
「『花と星の乙女』の設定上での世界誕生話でしたら存じておりますわ」
「では、よろしければお話ししいただけるかな」
「わかりましたわ」
この世界、それは『虚無』が始まりでございました。そこに『時』と『混沌』が生まれたのです。
混沌は虚無の中に様々なものを生み出し虚無が虚無たる意味を失わせました。けれども虚無が失われてしまったが故に混沌が生み出した存在がこの世界に亀裂を入れてしまったのでございます。
その事実に混沌は己の存在を分離し、『この世界』を修復し固定したのです。
そして地下世界が誕生し、地上が誕生し、神界が誕生しましたが混沌は自ら生み出した様々なそれらを管理維持することが出来なかったのです。
そこで、時が『この世界の管理機構』である『世界樹』を作り出しました。地下世界、地上、神界を繋ぎ『この世界』のあらゆるものを維持する世界樹は地上に調停者を生み出すことにしたのです。
調停者は神界の神々が見つけ出し、世界樹がその存在を『認識する』事で世界樹の恩恵を受け世界のバランスを『調整』することが出来るようになるのです。
混沌によって修復され固定される『この世界』は『他の世界』からの干渉により幾度も傷を負います。地上に生きる者は調停者の導きのもとこの世界の『維持』をして生きていくのです。
「……なるほど、調停者に口伝しかされていないことも『知って』いるということだね」
「まあ、設定資料集の隅に書かれている補足内容のような設定なので、基本的に深く考えずにプレイしていましたわ」
「世界樹に自分の意志で自由に接続出来ることも深く考えていないという事かな?」
「基本的に死にシステムですもの」
「先ほど君が言ったように、世界樹は『この世界』において『世界の管理機構』なんだ。それに自在に接続し要求を通すことが出来るという事は、世界を操ることも出来ると同意義だと思わないのかい?」
「そのような面倒そうなことしたくもありませんので思いませんわね」
その気になったら多分ですが『起きたことを無かったことにする』事は可能ですけれども、面倒そうですわ。
だって、そのアイテムを作るのって本当に大変ですのよ。一度興味本位で作成しましたけれども、あの時は作成時間がすさまじくかかってしまい、イベントに注ぎ込む時間が殆ど取れなくて、それはもう課金しまくってギリギリ上位に食い込んだという苦い思い出がありますもの。
前世のわたくしって、お金に苦労したことは一切ございませんでしたけれども、『花と星の乙女』に出会ってからは時間に追われる人生でございましたわね。
「はあ。あー、それでフリティラリアへのプロポーズだったな」
「ええ、最重要案件ですわ」
魔王陛下が真顔で口になさいましたので、やっとわたくしの誠意が通じたのかとわたくしも真剣な表情を作って答えます。
「いいんじゃないか?」
「父上!?」
「まあ! ありがとうございます」
「ボケたんですか? 色々な情報が押し寄せたせいで脳みそどっか行きましたか?」
「フリティラリア様、魔王陛下に失礼ですわ。せめて混乱なさっているぐらいに濁しておきませんと。けれども言質はいただきましたし、これで心置きなくわたくしのプロポーズを受けてくださいますわよね?」
「君はどこまで行ってもマイペースだなっ」
「脳死周回や、ながら作業は得意ですわ」
「それは誇っちゃいけない部分だからなっ」
「いやな、これは次代の調停者にとっては重要問題だぞ、フリティラリア。世界樹に『認識される』だけの調停者が自主的に世界樹に『接続』なんてなってみろ、調停者が調停者たる意味を無くす可能性がある。そもそも、魔国統治資格保有者が人族に出現したこと自体が前例がない。調停者として傍にいて監視する必要がある。たかが数十年しか生きることが出来ない人族だから、いくら資格保有者とはいえ代替わりの前にブルーローズ嬢は寿命を迎えるだろうし、その間監視を続ける理由が婚約や伴侶というのであっても問題ない。むしろ言い訳がしやすい」
魔王陛下の言葉にフリティラリア様は色々考え込んでしまいましたが、いくつか魔王陛下と言葉を交わしてわたくしの寿命が尽きるまでならと渋々承諾してくださいました。
どうしましょう、わたくし不老の霊薬も作り出すことが出来るのですが、寿命云々と納得していらっしゃいますし、ここで話してやっぱり撤回すると言われるのも困ってしまいますので、『絶対撤回出来ない契約書』を作成して契約完了するまで黙っていた方がいいかもしれませんわ。
あと、『花と星の乙女』ではフリティラリア様は世界の調停者として登場します。すなわち、魔国の統治者、魔王陛下となっているというわけなのですが今いらっしゃる魔王陛下はお元気そうですのに、あと十年ほどでお亡くなりになりますの?
魔王陛下のお仕事はとてもお忙しそうですし過労死とか?
夜光蝶花のお茶は生憎、今は手持ちにございませんし何かお疲れが取れそうなアイテムはありますかしら?
脳内でアイテムボックスをイメージして収納品を検索していきますと、いつ作ったのか覚えていませんが全状態回復の霊薬が見つかりました。
手土産を持ってくることが出来ませんでしたし、有り合わせになってしまいますが何もないよりはましでしょうか?
とりあえずアイテムボックスから取り出して状態を確認しますが劣化もしていませんわね。保存に使っている瓶が劣化防止魔法を刻んでいるので当然ですが。
「魔王陛下、ご挨拶用の品物を新しく用意することが間に合いませんでしたので有り合わせですが、よろしければこちらのお薬をお召し上がりになってください」
「それは?」
「元気になるお薬ですわ。お仕事が大変そうですので」
「ああ……、今一時的に人手が足りなくてな。元気になる薬か。(体力回復ポーションみたいなものか?)頂こう」
「魔王陛下、正体不明の物をそんな簡単に受け取らないでください」
「そこら辺のポーションが私に効くわけがないだろう。毒物であったとしても私に効果があるものをブルーローズ嬢が持っているとは思えないしな」
そう言って魔王陛下は瓶の蓋を開けると、透明な液体を一気に口に含み飲み込みました。
それ、ポーションではなく霊薬なのですけれど、大丈夫でしょうか?




