これもまたお約束4
ダチュラ=フィリア。
息を吐くように嘘を吐く結婚詐欺師の冒険者をしている美人局の男爵家子息でありながらも、登場させてしまえば初期好感度が高く挨拶をしただけで好感度がどんどん上がっていくチョロキャラであり、『花と星の乙女』リリース数年後に追加された攻略対象者でございます。
当時、「公式が思考放棄した」「公式が病気」「公式は誰に脅されたの?」「公式は無理して新キャラ出さなくてもいいよ」等々、運営陣を心配する声が上がった攻略対象者でございましたわね。
登場予告には「初恋を忘れない一途な心を持つ男爵子息。君が彼の心を解放してあげて!」などという宣伝文句で、サンプルボイスが「君は僕の運命なんだ。出会った時に分かったよ、君が居るだけで世界が輝くから」というものでございましたので、さぞかし純粋な男の子(その割には声がハスキー?)が登場すると予想されておりましたのに、実装されれば年上のキャラで犯罪者なのではという設定でございました。
わたくしもあの時は流石に運営陣の中身が変わったのかと心配してしまいましたわね。
その後しばらくして新実装した攻略対象者はまともでございましたので、ユーザーの間では「あの時の公式はネタがなかったんだ」という結論で概ね落ち着きましたわね。
結局の所、年上の色気がいいと人気が出て流されましたし、ヒロインとの甘々イベントも好評で「ワルくてもいいじゃない、むしろワルくていいじゃない」という形になってしまったとも言えますわ。
公式設定が生かされない、バックグラウンドを活用したイベントが無いなどという意見もございましたが、これは確かに、活用したら「公式が病気」でございますわね。
世界樹システムに接続して出来る限りの情報を確認いたしましたが、これは……いわゆるヤンデレという物なのでございましょうか?
番ではないのにここまで拗らせるのはなんともうしますか、間違いなく言い訳も出来ずに「公式が病気」でございますわ。
確かに設定は間違っていませんわね。
息をするように嘘を吐く結婚詐欺師として騙した女性は数知れず。たちが悪いのはご自分からは金品を要求しないけれども相手に金品を貢がせたくなるように持っていくと言う所ですわね。
そして美人局、キープしている女性を使ってお坊ちゃま冒険者をターゲットにしておりまして、巻き上げたら証拠隠滅とばかりに難易度の釣り合わないダンジョンに連れて行って事故死させる。
けれど、初恋を忘れられない一途という所が一番たちが悪いですわ。心を解放したらいけない系の攻略対象者ではございませんか。
「君が僕の運命」、そうですわね、確かに運命ですわね、実の娘ですもの。
「出会った時にわかったよ」、そうでしょうね、なんと言っても色は違うとはいえ出会った当時の初恋の相手と同じ顔で同じ年齢の人物なのですもの。
「君が居るだけで世界が輝く」、初恋を拗らせて闇落ちした者としては、初恋の相手(にそっくりで自分の色を持っている)が現れたらそれは世界も輝きますわよね。
「これは真剣に関わりたくないですわね」
「どうかしたのか?」
「ええ、ちょっとスノーフレークさんの遺伝子上の父親の情報を確認いたしまして、設定を考えた運営陣の精神状態を慮ってしまいましたわ」
「どのような精神状態なのだ?」
「そうですわね、こちらの世界ではそこまでおかしくないのでしょうけれども、前世の記憶があるわたくしといたしましては、近親相姦は遺伝子情報に異常をきたすという面も考慮いたしましてあまり推奨いたしませんわ。生憎、品種改良関係には明るくありませんので必ずしも近親交配を否定するわけではないのですが、生物学的に子孫を残すという考えをいたしますとやはり近親相姦は抵抗感がありますわね」
「確かに、血統にこだわるあまり血族内で婚姻を繰り返して子供が生まれなくなったり、生まれた子供が弱って結局途絶えた国はいくつも記録にあるな。だが、十何代以上続くとかでなければ問題はないのではないか?」
「極論はそうなのですけれどもね」
けれど、好感度が最初から高い理由とか、好感度を上げるのがものすごく楽な理由が、初恋の相手と自分の娘だから愛しているので仕方がないという情報は、開示不可でもよかったのではないでしょうか?
結婚詐欺や美人局になったのも、初恋の相手を自分より権力がある男に奪われたという絶望からくるものだとか、闇が深いですわ。
そのくせ未練たらたらで姿を見に行くたびに自分の理想(思い出)の姿と変わっていることにさらに病むとかなんという悪循環なのでしょう。
でも、だからって初恋の相手と同じ顔の当時と同じ年齢のヒロインを見て内心で「彼女と僕の愛の結晶。世界で一番愛する娘」となるのはどうかと思いますのよ、ええ、本当に。
むしろ、よく自分の娘だと分かりましたわよね。
金髪も緑の瞳もこの国では珍しくありませんのに、よく確証が持てましたわよね。
わたくしの遺伝子上の父親のように勘違いかもしれませんのに。




