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愛されることが運命(スノーフレーク)

『ヒギッイギャァッ』


 やめてっもう痛いのは嫌なの。

 バリバリと、グチャグチャと体を齧られすすられ、つぶされて――


『ギャァッガギュッゴッ』


 やだよっ、なんで私がっ。

 助けてよっ、誰か助けてっ……パパ、ママ……。

 なんで、私は幸せになれるんでしょ?

 可愛い私は誰よりも幸せになる権利があって、賢い私は誰よりも優遇されるんだよね?

 なんでこんなに痛いの? 助けて、誰でもいいから助けて――

 グチャリ、と頭がまたつぶれた感覚が襲った瞬間、金色のきらめきを見た気がした。



「――ッヒュゲホッゴホッ」


 変な所に空気が入り込んでむせてベッドの上で丸くなって咳を出し続ける。

 あの流星群イベントから毎晩続いてる悪夢のせいで寝不足になってる。

 お肌もボロボロだし、髪もパサついてきた気がする。最悪。

 流星群が終わって学園も再開されたけど、私は家の外に出る気もなくて行ってない。

 カーテンも閉め切られていて薄暗い部屋の中、ベッドの上でうずくまるばっかり。


「レディ、起きたのかな?」


 控えめにかけられた声にのろのろと首を持ち上げる。

 あの流星群の後に意識を取り戻してから、なぜかこの家に居座っている男。

 貴族っぽいのに責任を取るとか言って使用人みたいによく働くけど、私はあいつの名前すら知らない。

 でも、顔は見たことがある気がするから、多分ゲームの攻略対象者だとは思う。


「レディ、入りますよ」


 そう言って寝室に入ってくる男は柔和な笑みを浮かべて手にはお盆の上に乗った湯気の立つお湯が入った盥を持って入ってくる。

 近づいてくると良い香りがしてなんだかほっとしてしまうような感じもする。


「また怖い夢を見たのかな? 寝汗がひどい」

「そうなんです、私……」

「ああ、無理に思い出さないで。大丈夫だから、ゆっくり息をして」

「は、い……」

「さあ、汗をかいて気持ちが悪いでしょう?」


 安心するような笑みで言われてスルっとネグリジェのリボンをほどかれるけど、されるがまま抵抗なんかしない。

 だってこの人は『安全』だもん。

 丁寧に体を拭かれて、新しいネグリジェに着替えさせてもらうと肩を優しく押されてベッドに倒れ込み、布団をかけられる。


「手、握ってください」

「よろこんで、レディ」

「……名前」

「どうしました?」

「呼んでほしいです」

「ああ、そうですね。安心して眠ってください、かわいい僕のスノーフレーク」


 握られていない方の手が私の頭を、髪を優しく撫でていく。

 この人、……そういえば、名前聞いたことないわね。

 起きたら、聞いてあげてもいいかも、しれない……わ、ね。



「ダチュラさん、なんでここに居るんですか?」

「僕のかわいいスノーフレーク。そんな事は気にしないで。僕がここに居る事は嫌かな?」

「嫌じゃないです」

「それだけで十分だよ。ほら、ご飯を持って来たから食べなさい」

「はい」


 温かい出来立ての料理にほっとする。

 なんだか懐かしいわね。


「ダチュラさんは、何歳なんですか?」

「二十八歳だよ」

「そうですか。私達、どこかで会った事がありますか?」

「流星群の」

「ヒッ」


 ガチャンッ、とベッドの上に食器が散らばる。

 「大丈夫?」というダチュラの声が聞こえるけれども、体がガクガクと震えて止まらない。

 手早く食器が片付けられて汚れたベッドの上から抱き上げられて移動させられ、久しぶりに寝室を出て別の部屋に行ってソファーに座らされた。


「可哀想に、怖い事を思い出してしまったんだね」

「……はい」

「君はそんな目にあうべき人ではないのに、可哀想に。誰からも愛されて幸せになって、自由に生きる権利が君にはあるのに、そんな悪夢に捕らわれるなんて」

「幸せ……自由……私は、愛されるべき……」

「大丈夫。僕が君を愛してあげる。責任を取ろう、君は僕の大切な唯一だ」

「なんの、責任……なんですか?」


 何度かした問いかけ。


「流星群が」


 その単語にまたびくりと体が痙攣したけど、今度は言葉を止めてくれずに宥めるように抱きしめられた。


「流星群が終わった後、意識のない君を連れ帰ったのは僕だよ。君が目を覚ますまで、君のお世話は僕が全てしたんだ。君を見た時、運命を感じたんだ。僕が待っていたのは君だとわかったよ。ほら、君も分かるだろう? スノーフレークと僕には切っても切れない繋がりがある。それはもう運命だ。世界中で誰よりも君を愛してあげる事が出来るのは僕だよ、かわいいスノーフレーク」


 うっとりとした声で言われて、額にキスをされた。


「ああ、その愛らしい顔は本当に素晴らしい。僕を捕らえて離さない永遠の花」

「私は、愛されるべき存在、ですよね?」

「もちろん、愛しい人。…………ああ、瞳に輝きが戻ったね。その目の輝きは美しい」


 私の瞳を覗き込まれて、うっそりと『同じ緑色』の瞳が細められた。

 そうよ。私はヒロインなんだからこんな事でくじけるなんて駄目ね。

 それに、悪夢におびえる私を見たら皆が私の事を気にして愛してくれるわ。

 だってわたしはあの悪夢のイベントを生き残ったんだもの。

 選ばれた存在の私がこんなところに引きこもってたら世界の損失だわ。

 学園に戻って、皆に私の姿を見せてあげなくちゃ。

 そう考えて口の端が吊り上がる私のストレートの長い髪の毛を、ダチュラがくるくると指に絡めて遊ぶ。

 『同じ金髪』だけど、ダチュラの髪は短く切りそろえられてるし、魅力的な私の髪に触れたくなるのもしかたがないわよね。

 ああ、でも肌も髪も傷んでるから、どうにかしてから学園にいかないと同情じゃなくって憐れみを向けられちゃうかもしれないわ。

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