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婚約いたしましょう8

 困惑が広がる執務室の中、いち早く気持ちを切り替えたのはやはり魔王陛下でございまして、にっこりとわたくしに向かって微笑んだ後フリティラリア様に視線を向けました。


「君がブルーローズ嬢を連れてきたのは人族とは思えない実力と資格保有者であるためなのだな」

「いえそれが」

「魔王陛下、それにつきましてはわたくしからもお伝えさせていただきたいことがございますの」


 お話を途中で遮るというのは不作法ではありますけれども、わたくしの人生に関わる事ですものね。

 魔王陛下の視線がわたくしに戻ったことをしっかりと確認してから息を吸い込んではっきりと言葉を発します。


「実は、フリティラリア様にプロポーズをいたしましてお返事をお待ちしているのですが、よろしければ魔王陛下もわたくしとフリティラリア様の婚約を認めてくださいませんか?」

「…………………………ハ?」


 十秒ほどのラグがあってから魔王陛下が顔を引きつらせつつ引き攣れたような声を出しました。


「突然の事で驚かれるのも仕方がないと思いますが、先ほども申し上げたように止むに止まれぬ事情がございまして取り急ぎプロポーズさせていただきましたの」

「止むに止まれぬ事情とは?」

「実は――」

「違う、それじゃない。そんなことはどうでもいい」


 わたくしがフリティラリア様に説明した『花と星の乙女』の事とわたくしの立ち位置の事をご説明しようとしたところでフリティラリア様に遮られてしまいました。


「我がブルーローズ嬢を魔国に、魔王陛下の元に連れてきたのは君が自分の意志で世界樹に接続出来る挙句に意思の疎通を取ることが出来るからだ」

「はあ!?」


 フリティラリア様の言葉に大声を上げたのは魔王陛下です。

 そして慌てて執務室を見渡してわたくしがこの部屋に入ってからの出来事を口外しないよう『命令』してわたくしとフリティラリア様、魔王陛下を除いて全員を退出させました。

 しっかり全員が退出して扉が完全に閉まって、魔王陛下直々に執務室に防音結界と不可視結界、そして干渉不可結界、挙句の果てに三重結界を張った上でわたくしとフリティラリア様に改めて視線を向けていらっしゃいました。


「すまない、ここには執務机しかなくてな。もてなす用のソファーは置いていないんだ」

「どうぞお気になさらずに」

「年端もいかないご令嬢を立たせたままにするわけにはいかないだろう。座り心地はいまいちかもしれないが、フリティラリア、君の椅子をこちらに」

「はい」


 フリティラリア様が返事をすると誰も座っていない椅子がひとりでに動いて魔王陛下の執務机の手前で止まりました。

 そこに座れという事ですわね。それはわかりますわ。


「申し訳ございません、そちらに座るのは難しいかと思いますの」

「おや、この椅子は気に入らないか?」

「そういう問題ではなく、届きませんわ」


 わたくしの言葉に魔王陛下とフリティラリア様が揃って首を傾げます。

 でもよく考えていただきたいんですの。

 わたくしは七歳ですのよ。ただでさえ大人のフリティラリア様に歩くのですら追いつきませんのに、足の長いフリティラリア様に合わせて作られたような椅子に簡単に座れるわけがございませんわ。

 よじ登るように座る姿を見られるぐらいでしたら立ちっぱなしの方がましでしてよ。

 その事を遠回しに伝えますと、やっとご理解いただけたのか魔王陛下が頷いてくださいました。


「それは配慮が足りなかったな。子供なんてここ数百年接していないので気が回らなかった。フリティラリア、座らせて差し上げろ」

「はい」


 その後、ささっと再び片腕抱っこをされて今度は魔王陛下の執務机の前に置かれた椅子の上に下ろされました。

 ドレスのスカート部分がしわにならないように気を使ってくださる辺り、流石『花と星の乙女』の攻略対象を押しのけて不動の人気No1キャラですわね。

 さて、椅子に座って落ち着いたところで魔王陛下が早速と言わんばかりにわたくしの『現状』を確認なさってきましたので、フリティラリア様にもお伝えした内容と同じものを、すなわちこの世界が『花と星の乙女』の世界であり、わたくしはその乙女ゲームに登場する悪役令嬢と言われているキャラクターであることをご説明いたしました。

 その上で、身の安全を確保するためにフリティラリア様にプロポーズしたこと、受けていただく切り札として世界樹への接続権を提案したことをお伝えいたしました。

 そこからはフリティラリア様もお話に加わってくださり、わたくしの手を握った時に世界樹を『見た』事、わたくしが世界樹と意思の疎通をしていることを順序だててお話しくださいました。

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