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96 絶望の中の笑顔

「…………悪いけど、皆とは“ここまで”だ――」



レイのその言葉が突拍子過ぎて、誰も直ぐには理解出来なかった。


いや、したくなかった。


「ここまでって……」


「どういう事だよレイ」


レイは誰とも目を合わせず俯いている。

グッと拳を握りしめながら眉を顰めるその様子は、切ないながらも、確固たる決意を固めた様にも伺えた。


そしてレイは静かに語り出す――。



「いつか……いつかこの日が来るとは心の何処かで思っていた……。俺が家を出て、ドーランやイヴと出会って、そして皆にも出会うことが出来た。

家の外の世界は、俺が思っているよりも刺激的で楽しくて……毎日が新鮮だ。そう思えるのも皆と会ってここまで一緒に来られたからだ。


だからこそ……ローラ、ランベル、リエンナ。俺はこれ以上皆を危険な目には遭わせられない。ヨハネが、ロックロス家が俺達を“標的”とした以上、これからもっと危険になる事は確実……それこそ命に関わる程な。それを平気でやる奴だから……皆にこれ以上、ロックロス家に近づいてほしくない」


バッと顔を上げながら皆を見るレイ。その真っ直ぐと皆を見つめる目にはうっすらと涙が滲んでいたが、それ以上の決意の表れも感じられた。


「皆とは……ここでお別れだ――」


「「「――⁉」」」


ローラ、ランベル、リエンナは目を見開いて驚いた。それと同時に、誰も納得など出来なかった。


「おい……勝手な事ばっか言ってんじゃねぇぞ」


「そうよ、さっきから勝手すぎるわレイ!自分だけ置いて逃げろだの、急に別れるだの、全部認めてないからね!」


「私も反対です」


「俺が勝手なのは認める……だけど、もう一緒にはいられない」


――ガッ……!

レイがそう言った瞬間、ランベルが怒りを露にしながらレイの胸ぐらを掴んだ。


「ふざけんなッ! そんな勝手は俺も認めねぇ! ハンターなんて危険は付き物だろ。今に始まった事じゃねぇ」


「外の世界に出て浮かれてたんだよ俺は。ロックロス家を、キャバルの野郎を一番甘く見ていたのは俺だったのかもしれない……。今でも俺は本気でキャバルを倒そうと思っている。そしてドーランと母さんも見つけるつもりだ。それは変わらねぇ。

だけど……皆の言う通り、それは俺の勝手だ。俺の勝手の俺の問題。そんな事でお前達に危険をッ……『――ガンッ!』


言葉を遮る様に、ランベルがレイを殴った。


「ちょっとランベル……!」


どんどんヒートアップしていく二人をローラが止める。

だが、そんな事お構いなしに、怒ったランベルはもう感情の抑えが効かなかった。


「いつまでもふざけてんじゃねぇぞレイ……」


「……」


「俺の勝手? 俺の問題? 自分のせいで皆を危険な目に遭わせてくないからもうお終いだと……? 人を舐めるのも大概にしろ。俺達はお前の物じゃねぇんだ」


「そんなつもりじゃ……」


「じゃあ何だよ! 勝手な事言い出して一人で格好つけてそれで満足かよ。俺達の気持ちは無視か? やっぱ元が王家の人間だからそういう発想なのか?」


「ちょっとランベルいい加減してッ! アンタもそれは言い過ッ……『――ガッ!』


止めるローラの向こう側から、今度はレイがランベルの胸ぐらを掴んだ。


「関係ねぇだろそれは」


「関係大ありだろ。事実なんだからよ。だから人の言う事聞けねぇんだろ」


まるで再現。


挑発するランベルを今度はまたレイが殴った。


「や、やめて下さい二人共!」


口論するレイとランベルを見て、いつの間にかリエンナの目には涙が浮かんでいた。



<(――これが人間の子供の“青春”というやつか……)>


絶対的に場違いなタイミングで場違い事を思うドーランであった――。



「俺が元王家なのとこの話は関係ねぇ」


「……やっとこっちの言う事聞いたな。よし……」


そう小さい声で言ったランベル。

どうやらわざとレイを挑発していた様だ。今のでお互いに少しだけ冷静さが戻った。


「それじゃあここからが本題だ。いいか? 今のお前は余りに勝手な事を言ってる。それを先ず分かっているか? レイ」


「……ああ」


普段のランベルとは全く違う真剣な表情。一つ一つを丁寧に確認していく様に話を進めていく。


「良かったよ。本当のクソ人間にはなっていないみたいだ。レイ、お前が言ってる事は本心か? 本当に俺達と終わりを望んでいるんだな?」


「……俺だってそんな事望んでいる訳じゃない。でも、俺もお前達も、キャバルを舐めない方がいい。アイツは本当にどうしようもないクズだ。だからこそ危険過ぎる……」


「お前が俺達の身を案じている事はよく分かった。危険を遠ざけようとしてるのもな。だがそれで万が一にも助かるのは俺達だけだ。お前はどうするんだよレイ」


「俺は別にどうなっても構わない。一度は捨てた様な人生だ」


「成程な。じゃあやっぱり俺の答えは変わらない。きっとローラとリエンナも同じ気持ちだ。レイだけが危険な目に遭うのなら、ここでお終いにするのは何も解決じゃない。寧ろ始まりだ」


激しかった口論も次第に落ち着きを取り戻してきた様子。


タイミングを見計らって、ローラとリエンナも会話に入っていく。


「レイ。私達は皆、アンタの家の問題に巻き込まれて迷惑だなんて思っていないからね」


「確かに危険は付き物ですが、さっきランベルさんも言った様に、それはもう当たり前の事です。レイさんが全ての責任を感じる事は一切無いですよ。危険が迫るなら尚更皆で乗り越えましょう」


「ローラ……リエンナ……」


「アンタと初めて会った時、アルカトラズで宣戦布告してたでしょ? 私はレイとドーランと異空間探すって決めたときから危険なんて承知してたわ。終わりの話じゃなくて、これから“どう立ち向かうか”の話をしましょ」


「フフフ。私もその話がいいです」


「残念だったなレイ。パーティを組んでいる以上一人では決められない。多数決だ! よって、さっきの不気味な養子君とそれに仕えてる何ちゃら王国、そしてロックロス家を倒す作戦を練ろうじゃないか」


圧倒的な力を持つこの世界の王家に狙われるという絶望的な状況にも関わらず、レイ達は皆笑顔になっていた――。

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