94 視線の先
最後の作戦を決めたレイ達は一斉に動き出した――。
「妙にスッキリした顔つきになったな。その足りない実力で何をするか見せてもらおう」
ポセイドンも攻撃態勢に入り魔力を練り上げる。
「……F・アロー!」
先手を打ったのはローラ。
少し離れた位置から炎の矢を連続で放った。
「弱い」
――ズバァンッ!
ローラが放った二本の矢は、ポセイドンが虫でも払うかの様に片腕で薙ぎ払った。
激しい衝突音と共に再び硝煙が巻き起こる。
それを見計らったかの如く、ローラは追撃に出ていた。
「イノシー、タヌキチ! 今よ!」
ポセイドンの視界が硝煙で覆われる中、その煙を目くらましに使ったローラの合図で、イノシーとタヌキチがポセイドンに攻撃。
「うらぁあ!」
「食らえ!」
全身に炎を纏ったイノシーがポセイドン目掛け体当たり。
対するタヌキチは手を丸く筒状に握り、それを口元に当てるや否や思い切り息を吹き込んだ。
すると、それが火の息となりポセイドンを見事に捉える。
「……!」
即座に腕で顔をガードしたポセイドンであったが、タヌキチの攻撃とは別方向から突撃していたイノシーの体当たり攻撃が直撃した。
――ズドンッ!
不意を突かれたポセイドンはイノシーの攻撃で若干体勢を崩した。
「どうだッ!」
イノシーのとタヌキチの連続攻撃の間に硝煙も段々と晴れ、辺りの視界をクリアにしていった。
再び姿が見えたポセイドンの表情は無――。
クリーンヒットしたにも関わらず、やはりダメージが効いていなかった。
「狙いは良いが圧倒的に力が足りん」
そう言ったポセイドンは鋭くイノシーを睨んだ。そして直ぐに反撃に出ようとするポセイドン。
「げッ⁉」
「――“風魔一刀流”……」
「……⁉」
ポセイドンがイノシーの方へ体を向かせた瞬間、今度は後ろからランベルが攻撃を仕掛けた。
ランベルの本気のスピード。通常であれば、ランベルのこのスピードもポセイドンにとってはまだ幾らか余裕があったが、不意を突かれたと同時に体勢も悪かった。
絶妙のタイミングと角度。この一瞬だけはランベルに分があった。
「“旋風斬り”ッ!」
――ザシュッ!
ランベルの攻撃はポセイドンの腹部を掠めた。
「ぐッ……⁉ 鬱陶しいッ!」
「チッ!浅いか!」
ランベルの剣はポセイドンを捉えたもののその攻撃は浅く、体勢を立て直したポセイドンが今度は攻撃を放つ。
「一太刀浴びせたのは褒めてやろう」
そう言ったポセイドンは強烈な回し蹴りを放つと、ランベル、イノシー、タヌキチをまとめて吹っ飛ばした。
「ぐわーッ!」
「イノシー!タヌキチ!」
攻撃を受け飛ばされたイノシーとタヌキチの元に駆け寄るローラ。
ランベルは飛ばされつつも何とか受け身を取った。
「――⁉」
そしてポセイドンが回し蹴りを放った直後、ポセイドンは背後から何かの“気配”を察知した。
「――お前もぶっ飛べ……!!」
気付いたポセイドンが横目に振り返った先にいたのはレイ。
自身が持てるだけの魔力を最大限込めたレイの拳は、既にポセイドンの眼前まで迫っていた。
今のレイに出来る最後の一撃。
流石のポセイドンもその一撃だけは反応するので精一杯であった。
レイ渾身の攻撃は見事クリーンヒットし、ポセイドンの屈強な身体を勢いよくぶっ飛ばした。
一瞬にしてポセイドンはドーランが開けた穴から外へと飛ばされていく。
「今だ皆ッ!」
その直後、レイは直ぐに翼を出し、近くにいたリエンナを抱え飛んだ。
ローラも予め出していたホウキに飛び乗り、そのままランベルも乗せた。それと同時にイノシーとタヌキチの召喚も解いたローラとランベルは、ポセイドンが飛ばされていった穴から自分達も空へと飛び立った。
それに続きレイとリエンナも研究所から飛び立つ。
そんなリエンナを抱えながら飛んでいたレイは、研究所を飛び立つ最後にヨハネと目が合った――。
レイの側にはリエンナ、ヨハネの側にはDr.ノムゲの姿もあったが、レイとヨハネは互いに自分達しか見えていなかった。
最後に見たヨハネはやはり不気味な笑みを浮かべていたという。
「――ふぅ~、何とか上手くいったな」
「アイツどこまで行ったのかしら……」
ホウキで空を飛んでいたローラとランベルは、自分達がいた研究所と、飛んでいったポセイドンの様子を上から見下ろしていた。
ローラ達が上空へと飛び立った数秒後、後を続く様にレイとリエンナも合流した。
「皆大丈夫か?」
「ええ何とか」
「私も大丈夫です」
「あの野郎どこまで飛んだ?」
研究所の周辺は建物こそ建ってはいたが、研究所を境に、東側の一部は何年前から立ち入り禁止区域となっていた為、偶然が功を奏し、一般の人達の目に触れる事もなければ、巻き込まれる被害者もいなかった。
ポセイドンが飛んでいった先はその立ち入り禁止区域側。
上空から良く見ると、レイの攻撃が予想以上にポセイドンに命中したせいか、飛ばされたポセイドンは建物数件を貫通する程遠くへ飛ばされていた。
その先で、地面に仰向けに倒れているポセイドンを発見した。
「いた!」
「生きてるのかアイツ……」
<あの程度じゃ死なん。魔力も全然弱っておらぬわ>
上空からレイ達が見ていると、魔力感知をしたであろうドーランがそう言ったのだった。
そしてドーランの言う通り、暫くすると、ポセイドンがゆっくりと体を起こしその場に立ち上がった。




