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69 獣人族の男

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~火の王国・某所~



日が沈んで数時間。

夜も更け、辺りは街灯もない真っ暗な道。一台の馬車が止まり、男が一人乗っていた。



「―ボス!こっちです!」


「しっかり“逃げ切れる”んだろうな?」


静かなその場所とは反し、止まっていた馬車に更に二人の男達が、何やら慌てた様子で馬車に乗り込んだ。

大人が数人乗れるぐらいのスペースに車輪が四つ。ごく一般的な馬車と同じだが、一つだけ大きく違うところがー。


「任せて下さい!この日の為に準備しましたから!」


馬車の手綱を持った男がそう言いながら視線を前にやった。

すると、本来ならばそこにいる筈の馬の姿はそこになく、代わりに馬よりも一回り程背丈が低く、毛が少し長い動物がいた。


「あっちへ“逃げた”ぞー!」

「この坂を下っていた筈だ!至急応援を頼む!」


馬車に乗る三人の男達がいる道から少し上。

いくつかの灯りと共に数人の声が聞こえている。どうやらこの男達を探している様だ。


「一気に逃げ切ります。しっかり捕まってて下さい!」


「おぉ。“ジャガーホース”じゃねぇか。頼むぜ」


馬の代わりにいたのはジャガーホースと呼ばれるモンスターだった。

馬より背丈は低いが、そのスピードと耐久力は馬を遥かに凌ぐと言われている。


「行けッ!ジャガーホース」


手綱を思い切り引くと、ジャガーホースが凄まじい速さで走り出した―。


「ぐっ……ハッハッハッ!思ってた以上のスピードだ!風圧で体が持ってかれそうだぜ」


男達は必死に馬車に捕まっている。


「ところで、この先の“検問”はどうする気だ?俺が逃げた時点で警備の奴らは騎士団にも連絡している筈だ。突破出来るんだろうな?」


「大丈夫っすよボス!検問の所には、既に“アイツ”が待ち伏せてますから!」


「ガッハッハッハッ!そう言う事か。ならもう心配はない。良くやったぞお前達!」


男達を載せたジャガーホースは少しもスピードを緩めることなく走り、男達が話していた検問場所まで近づいていた。


検問場所には多くの警備員や騎士団達が、通りゆく人や馬車を一台一台止めて調べている。

夜が更けた時間という事もあり、人や馬車の数は片手で数え切れる程だった。


「騎士団員さん。何かあったのですか?」

「ご迷惑をお掛けしてすいません。実は、少し前に“強盗の犯人”が逃げてしまい、探している所なのです」

「そうでしたか。それは物騒な話だ。ご苦労様です」

「いえいえ。万が一がありますので、道中お気をつけて」


検問で騎士団員と通行人がそんな会話をしていると、突如場が慌ただしくなった。


「何かこちらに近づいてきています!」

「何が近づいている?」

「暗くてよく分かりませんが結構な速さです!」

「おい!そこの馬車止まりなさい!」


その場にいた全員が向かってくる馬車を見た。


そして次の瞬間、停止を呼びかける騎士団員達の声も空しく、猛スピードで突っ込んできた馬車は検問を強引に突破していった。


そのままスピードをを緩めることなく進もうとする男達に、対応の早い騎士団員達はすぐさま攻撃態勢に入り魔法を放とうとする。

例えジャガーホースが速くとも、騎士団員は実力者揃い。

ジャガーホースの自慢は確かにその脚力だが、逆を言えば厄介なのはそれだけ。ランクで言えばD程度。

下級モンスターの中では上位の方であるが、騎士団員にとっては何も問題ではない。


団長の合図で一斉に攻撃が放たれッ……「――ヴオオオオオッ!!」


「「――⁉⁉」」


激しい雄たけびと共に、突如暗闇から大きな物体が飛び出してきた。


三メートル近くある屈強な体格に全身を覆う茶色の毛並み。

その巨体は、躊躇うことなく次々に騎士団員達を薙ぎ倒していく。


一瞬、オーガやそれに似たモンスターかと思った騎士団長であったが、何かが違った。

いくら奇襲を掛けられたとはいえ、オーガ程度のモンスターならば騎士団員達は対応出来る。

それにも関わらず、瞬時に数人もやられたとなれば少なくともコイツはオーガではない。

困惑するも、一旦間合いを取った団長と騎士団員達は、改めて“敵”をしっかりと確認した。


「獣人族か……」


そう。そこにいたのは獣人族の男だった。

獣人族はほぼ人間と変わらない存在だが、一番の特徴はその見た目である。人間に近い顔立ちをしており、耳や尻尾が生えている事が多く、人間の様に二足歩行が一般的だ。

偏に、獣人族と言ってもその種類は多岐に渡る。

今目の前にいるのは恐らく熊の獣人族。それもかなりの大型。獣人族は極めて人間に近い存在の為、体格も一般の人間と大差ない事が多い。

しかしこの男は見た事もない大きさ。オーガに間違われても可笑しくない程の大きさであった。


「――来たか」


「これで足止めも成功!後はこのまま走ってれば逃げたも同然っすね!」


ジャガーホースに運ばれていた男達は、獣人族の男が現れた事により一気に安堵の表情へと変わっていた。


「それにしてもボス。よく“あんな奴”を手懐けましたね」


「人間なんてのは誰でも“弱み”があるもんさ。アイツも例外ではない」


「流石ボス!そういえばお目当ての物はあったんですか?」


「ああそれか……ハッハッハッ!しっかり手に入れたぜ!まだ誰も見つけた事がない、秘宝が眠ると言われたグニ―島の“宝の地図”をよ!」


「すげぇ!今時宝の地図なんて本当にあるんすね!」


「秘宝を見つけりゃ一生遊んで暮らせるぜお前ら!」


「一生ついていきますぜボス!」


こうして男達は検問を突破し、見事に逃げ切ったのだった―。


一方検問場所では―。



「……ぐっ……貴様……」


「お前で最後か」


傷を負い、立っているのもやっとな騎士団長。

頭や腕、足から出血もしている。


「こんな事して……只で済むと思うなよ……お前達……」


獣人族の男は強烈なパンチを団長目掛けて放った―。


――ドゴォンッ!!


団長とその他の騎士団員や警備員達は、皆地面に倒れていた。

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