65 防御は最大の攻撃
――ゾワァァァァァ……。
黒く細かい霧の様なものが部屋中から一ヵ所に集まっていき、次第に奴の姿に形を纏っていった。
「$ヴ%バ&'ァァ"……！！」
言葉でない呻き声を上げて現れたグリムリーパー。
骸骨の頭に黒いマントを羽織り、手には大きな鎌を持っていた。
ローラに聞いた通りの姿だった。
「うわっ⁉ 何だコイツ……⁉」
「説明は後だ！取り敢えずグリムリーパーの野郎倒すぞ！」
「グリム……リーパー……」
訳の分からない状況の連続にランベルとリエンナは疑問ばかりが浮かんだが、何やら焦るレイとローラを見て、今はそれどころじゃないと察し 一先ず戦闘態勢に入った。
「ルーク！ネル！危ないから向こうの部屋に隠れて！」
「分かった」
「皆気をつけてね……」
ルークとネルを避難させ、レイ達はグリムリーパーと対峙する。
「起きたばっかで頭が回らないが、コイツが黒幕って事でいいんだよな？」
「ああ」
「だったら……先手必勝！」
瞬時に足を踏み込み、一気にグリムリーパーと距離を詰めたランベル。
そのまま間髪入れずに攻撃を放った―。
「風魔一刀流……旋風斬りっ！！…………⁉」
ランベルの素早い一太刀が横一閃、グリムリーパーの胴体を捉え真っ二つに斬り裂いた。
しかし攻撃が決まったにも関わらず、ランベルの表情が曇る。
斬った同時に感じた違和感を、ランベルは直ぐに理解する事となった。
斬られた筈のグリムリーパーは消滅するどころかダメージ一つ負っていない。
真っ二つになった胴体は血を流すことなく、ユラユラと揺らめきながら元の姿へと戻っていった。
「何だコイツは⁉ 手応えが何も無かったぞ！……攻撃が効かないのか？」
まるで煙を斬ったかの様な手応えの無さに驚きを隠せないランベル。
「……Ｆ・アロー！！」
そこへ続けざまにローラがグリムリーパー目掛け攻撃を放った。
だが結果は同様。
ローラの攻撃はグリムリーパーを捉えたが、攻撃はそのまま体を貫通していき部屋の壁を砕いた。
グリムリーパーはユラユラと不気味に揺らめきながら、変わらずレイ達の方を見ている。
「やっぱり効かないわね」
「あんなモンスターどうやって倒せば……」
「いっその事俺の風で吹き飛ばすか」
＜――そんな事をしても無駄だ＞
悩むレイ達にドーランが助言をする。
＜奴は少し特殊だ。今お前達が対抗出来る手段は“一つ”しかない＞
「何だよその手段って⁉」
＜奴を倒すには“封印”するしかあるまい。そしてそれが可能なのは……リエンナ。主しかおらん＞
「え⁉ 私が……？でも私、封印魔法なんて使えませんよ」
予想外のドーランの案に皆驚いている。
そして言わずとも一番驚いているのはリエンナだった。
これまでに一度も封印魔法など使った事がないから当然といえば当然だ。
何を言っているんだと言わんばかりに皆がドーランを見ている。
＜（まぁ我の魔力で葬っても良いのだが、そろそろこの子には“本質”を気付かせてあげねば……。宝の持ち腐れでは勿体ない）……やはり気付いておらぬかリエンナ＞
「どういう事ですか？ドーランさん」
＜君のその結界魔法……それは身を守る為のバリアや防御だけでなく、別の形……“攻め”に転ずる事も出来るのだ＞
「「「――⁉⁉」」」
ドーランの言葉に更に目を見開いて驚くレイ達。
＜攻撃は最大の防御。それはまた逆も然り。防御だって最大の攻撃となり得るのだ。我の“知り合いの妖精”に、同じ結果魔法を扱う者がいるが、そいつはそれを防御だけでなく攻撃に扱う＞
「そんな事が出来るのですか……⁉」
「知り合いの妖精って……まさか……」
この時、レイとローラは同時に一体の妖精が頭に思い浮かんだ。
＜そもそも結界魔法を扱える者が少ないと言う。結界魔法は基本結界を出して防御に使うが、他にも結界であらゆるものを閉じ込めることが出来る。だがそれはあくまでその場に留めておくだけの檻の様な物。それでは敵を捕まえても倒すことは不可能だ＞
「じゃあどうやって……」
＜我もその知り合いの妖精に聞いた話だが、少ない結界魔法の使い手の中でも更に一握り……それを攻撃に扱う事が出来るそうだ。その知り合いが結界を攻撃に使っている所を我は実際に見た事もある＞
「でも、例えそんな事が出来たとしても、攻撃に転じられる結界魔法の使い手はとても少ないのですよね？何故私が……」
＜結界魔法にも性質のようなものがあるらしくてな。我も詳しくは知らぬが、リエンナの結界魔法の魔力の質が似ているんだ……イヴのやつとな＞
「やっぱり！その知り合いってイブかよ！」
ランベルとリエンナはまだそのイヴという人物にピンときていないが、ドーランの言う事が確かならもうそれを試すしかない。
「迷ってる暇はなそうなので、ドーランさんがそう言うならダメ元でやってみます！具体的にはどうすればいいでしょうか？」
＜我が見た記憶では、普段の様に結界をバリア代わりに出していたが、その結界が相手の攻撃を“跳ね返していた”な＞
「攻撃を跳ね返す……？」
「俺には全くよく分からねぇが、リエンナ！物は試しだ。俺らが援護するから兎に角やってみろ！」
＜そういう事になるな＞
「分かりました！」
ドーランから聞いた少ない情報からイメージし、リエンナは魔力を練り上げた―。
