64 魅せられた幻覚
「―いかにもヤバそうなモンスターだな」
「相当ヤバいわ。もし本当にグリムリーパーなら“Bランクモンスターの中でも上位”よ……久々に厄介なのと当たっちゃたわ……危険度Eなんて嘘もいいとこね」
<実力者でない限り気付けぬ様だな。そもそも魔力感知は向き不向きがある上に、例え得意な者でも中に入っていたら気付きにくいであろう>
「そうだよな。今までに調査してきた人達の中でも、絶対俺より魔力感知出来る人いた筈なのに分からなかった……根本、まさか敷地に入った時から既に魔力の中なんて普通考えないからな」
「でもこれで全て説明がつくわね。ルークとネルが最後に覚えている黒い影はきっとグリムリーパー。そしてコイツの幻覚魔法でここは幽霊の出るゴーストハウスなんて呼ばれる様になったのよ。それにグリムリーパーの幻覚にかかった者はその幻覚を早く解かない限り……命が持たないと言われている……残念だけど、やっぱりルーク達の家族は……」
皆まで言わずともその先は分かっていた。
古くより、グリムリーパーの幻覚にかかった者は徐々に不幸がおき、やがてそれが友達、家族……そして自分へともたらされる。精神が壊れた者の末路は決まって自ら命を絶つと言う―。
「じゃあ尚更ダメだな。俺達がコイツ倒して、ルークとネルも本当の場所に返してあげないと」
「ええ。このままだといつかまた被害者が出るわ。でも、グリムリーパーを一体どうやって倒せばいいのかしら……」
実体の無い死霊にどこまで攻撃が通用するかは分からない。
そして何よりまずグリムリーパー自身を見つけなくては―。
<いくら実体が無いとはいえ存在している以上、“核”は必ずある。それを見つけてみろ……レイ>
「俺かよ!」
<滅多にない機会だ。数少ないものを確実に自身の経験とせよ>
たまにまともな事言うな~……と思いながらレイは再び魔力感知をすべく意識を集中し始めた―。
「ちなみにドーラン。お前はグリムリーパーの居場所分かってるんだよな?」
<愚問だ。一つヒントをやるならば、“魔力感知でなければ”奴には辿り着けんぞ>
意味深なドーランの発言が気になるレイであったが、余計な事を考えず感知を続ける。
屋敷全体に漂う微量の魔力。
さっき感じた変な違和感はこの魔力のせいだった。濁った水の中から獲物を探すかの様に、レイはこの屋敷を隅々まで感知した。
微妙な魔力の流れを必死に探すこと数分―。
「―ーひょっとしてコレか……?」
レイが何かを感知した。
側で見守っていたローラやルーク達もその言葉に反応する。
「見つけたの?レイ」
「ああ多分……」
「何その曖昧な感じは」
「いや、多分……見つけたとは思うんだけど……“こんな部屋あったか”?」
どうやらレイはグリムリーパーの居場所を感知したらしいのだが、ここで一つ疑問が生まれた。
ルークとネルの案内で、確かに屋敷中全ての部屋を確認した筈。
しかし、今レイが感知しているグリムリーパーの場所が正確ならば、三階の一番奥。
さっき確認した時には“無かった場所”―。
屋敷の間取りを考えると、あり得ない空間に奴は存在していた。
相手がお化けみたいなものと分かった以上特に驚く事ではないが、一体何がどうなっているんだとレイは三階まで走り出した―。
「どうしたのよ急に!」
ローラもレイの後を追う。
~幽霊屋敷・三階~
階段を駆け上ったレイは、三階に辿り着くと同時に一直線にグリムリーパーの元へ向かった。
「――ここだ……」
レイの目の前には廊下の壁。
「何かあるのここに?」
追いついたローラが壁の前で立ち尽くすレイに問いた。
「この“壁の奥”から奴と……ランベルとリエンナの魔力も感じるんだ……!」
「え⁉ 壁の奥って……こんな所に隠れてるって言うの?」
<―この壁自体が奴に魅せられている幻覚という事だ。まぁ我にはこんなもの通じないが、自身の力で見つけたレイへの褒美として、これを解いてやろう>
そう言うと、ドーランは魔力で幻覚を解き払った。
――パァァァァンッ……!!
幻覚の壁にヒビが入ったと思った瞬間、瞬く間に壁が勢いよく粉砕された。
「――ランベル!リエンナ!」
消えた壁の奥には別の部屋が存在しており、そこの床にランベルとリエンナが倒れていた。
急いで駆け寄るレイとローラ。
「おいっ!大丈夫か⁉」
「目を覚ましてリエンナ!」
二人の呼びかけに、ランベルとリエンナが目を覚ました。
「……レイ……あれ?……何で俺らこんな所に……」
「良かった~。取り敢えず無事みたいだな」
「レイさん……ローラさん……私達、確か階段の所で二人を待っていましたよね……?」
「話せば色々と長いのよ。兎に角今は起きて!奴が現れるわ」
「奴って……?って、え⁉ あの子供達誰?」
状況が全く飲み込めないランベルとリエンナ。
それに加え、何故かレイとローラの他に見た事の無い子供が二人。
そんな事をしている内に、幻覚を破られたグリムリーパーが遂にその姿を現した。