53 治癒魔法
一瞬の出来事。
気が付いたらレイとランベルは上空にいた―。
それも、“何か”に乗って飛んでいるみたいだ。
「「すげぇ……」」
状況を把握したレイとランベルの口から思わず声が漏れる。
茫然とする二人とは別に、ドーランは勝ち誇った表情を見せていた。
ランベルの言葉がドーランのプライドを深く傷つけ、その見せしめと言わんばかりに誇示したドーランの魔力によって、何とランベルの言った通り“一頭のドラゴン”を召喚したのだ。
レイとランベルはそのドラゴンの背中に乗って飛んでいる。
頭から長い尻尾まで全長十五メートル程あろうかというドラゴン。
ドーランが言うには、このドラゴンはまだドラゴンの中でも小型らしい。
ちなみに、<レイの実力ではまだまだドラゴンの召喚など出来はせぬ>とついでに小バカにされるレイだった。
「これなら余裕で全員乗れるじゃん。ローラとリエンナ呼ぶ?」
「いや、それより早く旦那さんを探そう。こんな雪山で遭難したとなると命が危ない」
「そうだな……ってそういえばレイ。この間のウルギルみたいに、ドーランの魔力感知で旦那さん探せないのか?」
「………………確かに」
<我はその旦那さんとかいう者の魔力を知らぬが……この山に、弱っている魔力の人間がいるぞ確かに>
「「――それだ!!」」
ドーランの言葉に、レイとランベルが顔を合わせて反応した。
毎度の如く、分かってるなら早く言えよとツッコみたいレイであったが今は後回し。
「早く向かうぞ!」とレイ達はドーランが感知している魔力の元へと向かった。
ドラゴンに乗って移動する最中、ローラとリエンナにも連絡を取り、四人は再び合流するのだった。
「――っ⁉ 何このドラゴン!!」
「……わぁ……」
飛んできたローラとリエンナもただただ驚くばかり。
遠くからでも確認出来た空を飛ぶドラゴン。
無線機で話は聞いたが、実際に見るとその迫力に圧倒される。
ホウキで飛んでいた二人はドラゴンのスピードに合わせると、ゆっくり恐る恐るドラゴンの背中に降り立つ。
このソウルエンドにドラゴンは多く存在しているが、中々その姿を確認する事は難しい。
見ること自体珍しく貴重なのに、まさかドラゴンに乗る日がくるとは誰も予想していなかっただろう。
「これ召喚魔法……?」
「っぽいぞ。ドーランがやったけどな」
「ドラゴンの召喚魔法なんて“超上級魔法”よ……初めて見た……」
<ちなみにこんなの本気ではないぞ勿論>
そんな話をしていると目的の場所に着いたらしい。
山脈のある一角。
ゴツゴツとした岩が積み重なった所に、トンネルの様な穴蔵があった。
その入り口を見ながら、<あそこだ>とドーランが言った。
穴蔵の前へと降り立ったレイ達。
乗っていたドラゴンを一旦消し、穴蔵へと入っていく。
どこまで続いているか分からない程先は真っ暗。
ローラが灯り代わりに火の玉を出した。
何の気配も音も聞こえない。
本当にいるのだろうかと疑いつつもレイ達は穴蔵の奥へと進んで行くのであった。
「真っ暗で不気味ねぇ……」
「――お~いッ!誰かいますか~!」
「こんなとこで大声出さないでよ!何かモンスターでもいたらどうするのよ!」
ローラに怒られたレイだが、幸いな事に、その呼びかけに反応があった。
「―――ッ――……!……」
遠くから籠った様な声がした。
何と言ったかは分からないが確かに声が聞こえた。
それを聞いたレイ達は急いで奥へと進んで行くと、穴蔵の突き当りに大きな空間が広がっている。
「……君達は……?……」
穴蔵の一番奥に人影を見つけたローラは火の玉を上に挙げ辺りを照らした。
するとそこには一人の男の姿が―。
いつからいたのか不明だが、見た感じ疲れている様子。
呼吸が少し荒く、座りながら後ろの岩にもたれ掛かっていた。
「――あなた“ブラウンさん”ですか⁉」
ローラが男の人に声を掛ける。
“ブラウン”というのは依頼人の奥さんから聞いた、行方不明になった旦那さんの名前。
「……あ、ああ……ブラウンは俺だが……何故名前を……?」
「ご家族から捜索依頼を受けたハンターです」
「そうだったのか……それは助かった……」
「大丈夫ですか?」
「ああ……なんとかね……それより早くここから……グッ……⁉」
立ち上がろうとしたブラウンは痛そうに足を抑え出した。
「怪我しているのですか?」
「大したことは事はないんだがね……ちょっと足を痛めてしまったんだ」
立つのも大変そうなブラウン。
それ見たリエンナが彼の元へ行き怪我をしている足に優しく手を当てた。
すると、魔法の光が淡く輝き出す―。
「リエンナそれって……“治癒魔法”使えるの?」
「治癒魔法なんて大そうなものではないですが応急処置程度なら……気休めにでもなって頂ければいいのですが……」
自信のないリエンナに反して、治癒の効果は高かった。
恐らく骨折していたであろうブラウンの紫色に腫れあがった足が、若干赤みはあるものの腫れも引いており、何より立つのも大変そうだったブラウンがスッと立ち上がる事が出来たのだ。
「これは凄い……痛みもかなり治まってる。ありがとう!君達は命の恩人だよ。本当はもっとしっかりお礼をしたいが“急いで”此処を出よう」
ブラウンは何かが気になるのか出入り口の通路の方ばかりを見ている。
「……此処は“イエティマンの住処”なんだ!奴らがいないうちに早く出よう!」
「「「「――⁉⁉」」」」
ブラウンの言葉に皆が驚いた。




