47 現れたケルベロス
床に倒れ込むリエンナ。
目の前にはスケルトンだけでなく、いつの間にかオーガも立ちはだかっていた。
(――死っ…………)
リエンナの頭を過る“死”―。
恐怖で体に力が入らない。
震えるリエンナを見下ろしながら、スケルトンとオーガはリエンナ目掛けて攻撃を繰り出した―。
――ドゴォォンッ!!
スケルトンの剣とオーガの拳は、自らよりも小さいリエンナの体を潰した―。
砕かれた床からは土埃が舞い、スケルトンとオーガはゆっくりとその剣と拳を床から離す。
土埃を払いながらリエンナを確認するスケルトンとオーガ。
だがそこに、潰した筈のリエンナの姿は無かった―。
「――お怪我はありませんか?」
「だッ、大団長様ッ⁉」
攻撃が当たる直前、水の王国の騎士団大団長が、寸での所でリエンナを助けていた。
大団長は抱えているリエンナを、モンスター達から遠ざけた場所で優しく下ろすと、「離れていて下さい」と言いモンスター達の方へ向かって歩いて行った。
正確には、モンスター達の更に奥にいる二人の男達。
大団長の視界の先には数体のモンスター達がいたが、そんなモンスター達には気にも留めず、ただただ奥に佇む二人を睨みつけていた。
大団長の顔はどこか全てを悟った様子である。
この城内のパニックとはまた違った別の空気が流れる―。
「“ウルギル”、“マートン”……。お前達ここで何をしている?」
ウルギルとマートン。そう呼ばれた男達。
大団長は同じ騎士団の甲冑を着ている仲間に問う。
聞いてはいるものの、既に答えは理解していた。
何かの間違いであってほしいという大団長の僅かな思いか―。
無情にもその思いは一瞬で消え去る事となる……。
「大団長……」
「な~んだ……。その顔、もう分かっていたな?いつから気付いた」
赤い紋章の団長ウルギルは、大団長の表情と言いぐさから自分達の行動がバレていたと理解した。
「騎士団の中で不穏な動きがあると耳にしていてな……。少し前からお前達が何か企んでいる事が分かった。
だがまさか今日この食事会後を狙うとは……。何が目的だ」
「王家への復讐」
ヒッヒッヒッと笑いながら言うウルギル。
二人は何やら王家への恨みがる様だ。
「復讐だと……?王家への襲撃など、如何なる理由があろうと只では済まされんぞ」
「知ったこっちゃねぇな!邪魔するならアンタも始末してやるよ……大団長!」
ウルギルが更に魔力を高めた。
団長クラスとなるとその実力もかなりのもの。ハンターランクで言えば確実にAランクはあるだろう。
ウルギルは召喚魔法の使い手。
高めた魔力で新たな魔法陣を刻み始めた。
それを見た大団長は背中に差してある大剣を抜き、地面を力強く踏み込むと一直線にウルギル目掛けて攻撃を仕掛けた。
――ガキィィィンッ……!!!
素早いスピードで一気に間合いを詰めた大団長とウルギルの間に割って入るマートン。
移動魔法を巧みに使い、瞬時に大団長の攻撃を自身の槍で防いだ。
マートンは魔法で繰り出したその槍で防ぐや否や、ガタイのいい体から生まれるパワーでそのまま大団長を振り払った。
「マートン……。お前まで何か王家に恨みがあるのか」
「人の事情は人にしか分からないものだ」
今度はマートンが大団長に攻撃を繰り出す。
二撃、三撃、四撃……長く重い槍を自在に操る。
大団長もその大剣の見た目からは想像できない程の速さで、マートンの攻撃を難なく防いでいた。
「準備OK……下がってろマートン!」
ウルギルがそう声を出すと、マートンは指示通り大団長と一旦距離を置いた。
「召喚魔法……出てこいッ!“死の番犬”!!」
これまでよりも強力な魔力で放たれた召喚魔法は、大きな魔法陣と眩い光と共に、その広い部屋を覆いつくす程巨大な一頭のケルベロスが召喚された―。
首には大きな鉄の首輪が付いており頭は三つ。
「ヴヴァッッーーー!!!」
城が揺れる程の雄たけび。
その巨大な体にはこの大きな部屋もさぞ狭かったのか、雄たけびを上げ終わると同時に三つの大きな口が、鋭い牙むき出しで大団長に食い掛かった―。
――ズドォォォンッッ!!!!
突撃したケルベロスは大団長ごと城の壁を粉砕した。
「――大団長様ッ!!」
離れた所にいたリエンナは何とか攻撃を避けることが出来た。
崩れた大きな瓦礫と辺り一面に舞う砂塵。
リエンナが大声で大団長を呼ぶも声は返ってこず、視界が悪くて姿も確認出来ない。
壁を破壊したケルベロスはそのまますぐ横の中庭まで行っていた。
良くも悪くも壁が破壊されたことにより、外の風が曇った視界をクリアにしていく。
「――何だあの化け物はッ!!」
リエンナの頭上から声が聞こえ、上へと視線を移すとそこにはレイ達の姿が―。
「レイさん!……皆さん来てくれたんですね!」
空からリエンナのいる地上へと降り立つレイ達。
ずっと心配していたローラがリエンナに飛びついた。
「リエンナ大丈夫だった⁉」
「ええ。危ない所を大団長様に助けて頂いて……そ、そうでした!今大団長様があの大きなモンスターにッ……「―ご心配には及びませんよお嬢様」
リエンナの声を遮る様に、どこからともなく大団長の声が聞こえる。
ガラガラッ……!と大きな瓦礫の下から現れた大団長。
これだけの攻撃に巻き込まれるも、大団長はかすり傷一つ付いていなかった。
「まぁ今のじゃ流石にやられねぇよな、大団長さんよ」
大団長の実力を知っているウルギルとマートンは少しも警戒を怠ってはいなかった。
むしろいつでも次の攻撃に備えられる様構えている。
「何か友達が増えていますね。さぁ……ここは危険ですから、子供達は早く非難するように!」
大団長がリエンナとレイ達皆に言った。
「あのガキ……また後付けてきやがったか」
「えらく好かれたもんだな」
ウルギルとマートンもレイ達が来た事に気付いた。
他の騎士団員達が集まってきたら状況が不利になる……。
そう考えているウルギル達は更にギアを上げ一気に畳みかける方法に出た。
「さっさとコイツ片づけて、王家の人間殺しに行くぞッ!」
「邪魔する者は皆排除だ」
魔力を上げたウルギルとマートンは同時に大団長へと攻撃を仕掛けた―。




