45 団長の企み
数秒の沈黙―。
グッと堪えたリエンナが再び口を開く。
「―こちらリエンナ。お見苦しい所を聞かせてしまってすいません。引き続きさっきの団長さんを追いますね!」
明るい口調で言うリエンナ。
気を遣わせたくないという思いを察し、レイは「おう」と何もなかった様に一言だけ返した。
悩みや事情など人それぞれ。
レイ達にはレイ達の事情があり今に至る。
それはまたリエンナも然り。
何とかしてあげたいと思う人間は多いのかもしれないが、それだけでは解決できないことが殆どだ―。
引っ掛かる気持ちを抑え、レイ達はリエンナの目と鼻の先にいる団長に集中した。
中庭の警護と交代していた犯人と思われる団長。
確かな証拠がない為、どうにか方法を探すリエンナとレイ達だが、まさか単刀直入に聞く訳にもいかず手をこまねいている。
「……どうする?」
「ここからじゃ確かめようがないわね」
「大団長に告げ口でもするか?」
「手っ取り早いけど証拠がないからな……それに、あの二人だけなのかまだ他にいるのかも分からないし、無暗に動くのは危ない」
「そうね。向こうは私達をしっかり見ている筈だから、中に入れれば一番話が早いんだけどね……」
「レイ。王家の力でどうにかこうにかならないもんか?」
「無理だろ。ってゆうか、出来たとしてもそれだけは絶対に嫌だ」
色々考えてはみるもののどれも決定打に欠ける案ばかり。
頭を目一杯働かせ「う~ん……」と皆で唸っていると、これまた思いがけない所から突破口が開かれた―。
<――ソイツで合っているぞ。森で出くわしたのは>
「「「――⁉⁉」」」
急に会話に入ってきたのはドーラン。
それもどういう訳か犯人を特定している。
「ドーラン!何でお前そんな事分かるんだよ」
<“魔力”が同じだ。人間は魔力の感知も出来ぬのか>
魔力を持つ者ならば皆当然のように魔力を感じられる。
だがそれは漠然とした、目の前にいる相手が自分より魔力が強いか弱いか……高いか低いかぐらいが分かる程度の話である。
ハンターランクが高い者の中には、この魔力感知能力に長けている者もいるが、感知したい対象が自身から離れれば離れる程その精度は落ちてしまう。
魔力感知が得意なSランクハンターでさえ、その範囲は自身を中心に最大でも半径百メートル未満が限度。
それに対し、今レイ達とその団長とではゆうに一キロ以上離れていた―。
「魔力感知ってゆうレベル超えてるわよそれ……」
「すげぇなドラゴンの力」
「へぇ~魔力感知なんて事が出来るのかぁ……って、おい!そんな事出来るならもっと早くやってくれよ!」
<自分でやらなければ意味がない。ちなみに、ちゃんと我の能力を扱えておれば水の王国に入った時点で居場所は分かっていたぞ>
「何ッ⁉ ドーランお前よぉ~……」
いくらでも文句を言う点はあったが、そもそもレイが力を扱えればというドーランの意見に一理あったし、そのおかげと言っていいのか分からないが、結果水の王国を観光出来たしリエンナとも出会えた。
トータルで見れば結果オーライだなと、レイは一人で頷き納得していた。
話を戻し、いとも簡単に犯人を見つけたレイ達はリエンナと話し合い、もうすぐお開きになる食事会の後で再度奴を追おうと決めた。
それから暫く経ち、予定通り食事会が終了―。
招かれた王家や関係者達も次々に城を後にし、お城では使用人や家来の者達が後片付けをしている。
護衛をしていた騎士団の者達も皆本日の任務を終え、大団長の命令でそれぞれ帰路についた。
夜遅くまで続いた食事会に、レイ達もいつの間にか寝てしまっていた。
リエンナの声で目を覚ましたローラがレイとランベルを起こし、城を出た団長の後を尾行する。
「私も行きたい」と言ったリエンナだが、元々今日お城に泊っていき明日帰る予定だったのだが、日中の事もあり部屋を抜け出すのが難しそうだとレイ達に伝えた。
空はもう真っ暗となり、月の灯りと道に灯る火だけがその暗闇を照らしている。
目的の団長も、最初は五、六人で帰っていたが、進むごとに他の騎士団員達もそれぞれ自分の家の方へと向かって別れていき、家に着く少し前には団長も一人になっていた。
数分歩くと、団長がある家の前で止まる。
数十メートル離れて尾行していたレイ達も建物の陰に隠れ一旦止まった。
「あそこがアイツの家か」
「そうみたい。ドーランの力で魔力感知も出来るし、これで居所も分かったわね。
もう遅いから明日改めて奴を調べッ……「――いるんだろ?」
「「「――⁉⁉」」」
団長の男が突如そう言った。
レイ達は驚き、建物の陰にいたが更に隠れる様にその場にしゃがみ込む。
周りには誰も人がいない。
無意識に呼吸が止まり、いつも以上に心臓の音が大きく聞こえる。
(やべ……バレたか……)
その場に流れる緊張。
団長が口を開いた数秒後、暗闇の中から一人の男が現れた。
「――こっちは問題なく進んだ。そっちはどうだ?」
「ああ。こっちも大丈夫だ」
そこに現れたのは、ポロン村にいたもう一人の男。
紋章は黒色だが、二人共やはり同じ甲冑を着ていた。
尾行がバレたのではないと分かり、一瞬安堵したのも束の間。
あの男達はまた何かを企んでいる様子であった。
人通りもなく、ましてや夜遅い時間帯ともあって、無駄な雑音が無く離れているレイ達にも会話が聞こえた。
「城内には王家の奴らが結構泊っていってるらしい」
「あれだけの人数を招けばな。遠方から来ている王家も多いだろ」
「ヒッヒッヒッ!城内にいきなりモンスターが“召喚”されたらビビるだろうな!」
笑いながら話す団長ともう一人の団員。
まさかと思いながらも、今の会話からすると男達は城にいる王家を襲う気らしい。
「――本気かッ……⁉ アイツらまさかこの間の魔法陣で王家を⁉」
「いや、アイツらならやりかねないわ……城が危ない。リエンナに直ぐ伝えなくちゃ……!」
「城に先回りしよう……って、レイがいねぇじゃん!まさか……」
ランベルの予感は的中。
一体いつの間に動いたのか分からないが、一緒に隠れていた筈のレイが奴らに向かって歩いていた。
「――救いようのねぇクソだったかやっぱ……」
「「――⁉⁉」」




