43 リエンナの推測
有力な情報を得たリエンナは、騎士団員にお礼を言うとその場を後にした。
「お答え頂き誠に有難うございます。とても参考になりました。ご勝手ながらそろそろ失礼させて頂きます」
「いえいえ。とんでもございません。また何かありましたらいつでもお声かけ下さい」
一礼し、リエンナはその騎士団の男達を探すべく動き出したー。
「―こちらリエンナ。皆さん聞こえました?レイさん達が探しておられる騎士団が、このお城内にいる確率が高いです。その騎士団の方々の顔や特徴などは分かりますか?」
リエンナの問いに、レイ達は頭の中で騎士団の男達を思い描く。
その男達は騎士団であるから、当然甲冑の被り物もしていた為しっかりと確認は出来なかったが、一人はガタイが良く少し色黒で、口髭を生やしていた。
もう一人はこれといった特徴が思い浮かばなかった……。
これだけの情報でよく探そうとしていたものだと改めて自分達の愚かさに気付くレイ達。
少ない情報ながらも、ローラは男達の甲冑に刻まれている王国の紋章の色がそれぞれ違った事を思い出した。
一人は黒。一人は赤。
それを聞いたランベルは「それは貴重な情報だ」と言い、その理由を皆に話した。
何でも、騎士団の紋章の色は普通の団員が黒色の紋章で、“団長”が赤色だという。
そしてランベルが目指す大団長になると、紋章の色が金色になるのだと―。
後もう一つ、森でのレイとの戦闘で、もしかしたらダメージを負っているかも知れないと思ったローラが、ケガをしている騎士団員も探してみてほしいと言った。
「――分かりました。探してみますね」
話を聞いたリエンナが、その情報を頼りに探し始める―。
ラッキーな事に、今回の食事会は参加している王家や関係者がいつもより多かった。
一階の大きな広い部屋から、外の中庭まで会場として扱われていた。
これだけ広く多くの人が行きかっていれば、余程の事をしない限り目につくことはないだろう。
それでもなるべく目立たない様に自然と中庭まで出たリエンナは、外にに広がる光景を見て皆に伝えた。
「―こちらリエンナ。さっきの騎士団員の方の言う通り……いましたよ。庭と城を囲む様に護衛する多くの騎士団員達が」
広い中庭を埋め尽くす人やテーブル。
話し声や笑い声で賑わい、軽やかな音楽が流れる中、踊りを楽しんでいる者達もいた。
そんな中庭の更に一番外側を囲む様に大勢の騎士団員が並んでいた。
流石に一人一人確認できるような人数でも状況でもない為、何か手は無いかと辺りを見渡すリエンナ。
「―こちらレイ。どうだ?それだけ多いと探すに探せなそうだけど……」
「ええ。思ったより騎士団員の方々が多く、それも中庭から数メートル距離を取っていまして……近付くとかなり非自然かと……」
何とか目的の人物を探し出したいが、少ない特徴に加え皆が暗闇で甲冑を纏っている為、最早見ただけでは判断が不可能であった。
残る手掛かりは紋章と負っているかもしれない怪我―。
仮に怪我を負っていたとしても、動いてもらわなければ到底確かめることも出来ない。
後は団長の証でもあるという赤色の紋章。
リエンナの予想では、恐らく大勢並んでいるのは普通の騎士団員。
団長クラスはもっと城内を護衛していると踏んだ。
何故なら……さっき話していた国王のすぐ側にいた騎士団員の紋章が“金色”―。
水の王国の騎士団、大団長であったからだ。
大団長の他にも、城内には甲冑を纏っている騎士団員が数人いた。
ランベルが言うには騎士団はいくつもの団に分かれており、それぞれのリーダーとして団長が存在すると。
ふと近くにいた一人の騎士団員をいると、やはり紋章の色が赤色だった―。
可能性が高まったと判断したリエンナは、城内を動き回り一先ず団長達の人数と顔を確認した。
レイ達もしっかりと顔を確認出来ていなかった為、外見で判断するのは不可能に近い。
僅かに残された怪我の具合を確かめたいリエンナだが、大団長以外は動き回らずに、護衛として厳重に配置していた。
何時でも動ける様、仁王立ちで頭だけを動かし周囲の安全を確かめている。
もし怪我を負っていれば歩き方や動きに変化がある筈。
どうにかそれを確認したいが難しそうな状況である。
「―こちらリエンナ。確認した範囲では、団長さんは全部で六人。皆それぞれ配置の場所から動く気配がなく、判断が難しいですね……」
「ありがとうリエンナ。ここまで絞り込めてるのに決定打に欠けるな」
「顔かせめて動きだけでも分かれば儲けものなんだけどね……」
「でも確か、水の王国の団長は全部で十三人……大団長と今いる六人を除いてまだ六人残ってるぞ」
今のランベルの言葉でレイが何かを思い出した様子。
「そういえば……これだけの規模の食事会なら時間も掛かるよな……もしかして、どっかのタイミングで都合よく護衛が交代したりしないかな?
俺も昔同じような食事会に出た時、騎士団員の人達が確か交代で護衛してた気がするぞ」
王家のレイにしか分からない情報。
しかしそれが絶対ではない為何とも言えないが、今はただ様子を伺うしかなかった。
――が、早くもその“変化”の時が訪れた。




