30 オーガ戦②
ランベルは風を刀身に纏わせた―。
そしてオーガ目掛け斬りかかる……訳ではなく、地面に向かって斬撃を放った。
ズバンッ!と地面を抉ったランベルの一太刀。
その威力と纏われた風の突風により土埃を巻き起こしながら、土や石がオーガ目掛けて大量に飛び散っていく。
ランベルはそれを目くらましに使ったのだ―。
まるで自分が放った攻撃がそっくりそのまま返されているかのような錯覚になるオーガ。
視界が土埃で覆われる。土埃や石をガードするようにオーガは顔の前に両腕を出していた。
完全に見失ったランベルを必死に探すオーガ。
徐々に視界がはれていき、目の前に揺らめく土埃の奥で黒い影が動いたのに気付いたオーガは、この目くらましを利用し不意を突いてきたランベル目掛け渾身のパンチを放った―。
――ボゴォォンッ……!
オーガの攻撃は豪快にその影を捉えた。
「――⁉⁉」
しかし、その影はランベルではなくただの土の塊だった。
ランベルだと思い込んでいたオーガはすぐさま辺りを見回すが時すでに遅し―。
「……馬鹿力なだけでやっぱ単純だな」
オーガの背後から聞こえた声―。
反応し振り返ろうとした時には既に胴体が半分に斬られていた。
「“風魔一刀流……【天狗風】”」
キィン……。とランベルが剣を鞘に納めると同時に、斬られたオーガは崩れ落ち消滅していった―。
その洗練された動きに、見ていた村人は勿論レイとローラもランベルへ歓声を上げた。
騎士というよりは“侍”を連想させるランベルの戦闘。この世界では騎士が一般的で侍は少し珍しい為、再び興味を持ったローラが「調べさせてくれないかなぁ……」と呟いていたのをレイは聞こえないフリをし、ランベルの元へ駆け寄って行くのであった。
ランベルvsオーガ 戦闘終了―。
「お前強いんだなランベル!」
「将来の大団長だからな。これぐらい当然だぜ」
「ねぇランベル……その風魔法、ちょっと色々調べさせてくれな~い?」
変なスイッチが入ったローラをレイが必死に止める。
「何だコイツ⁉」とランベルも不審者を見る目でローラを見たが、レイが丁寧に説明し、危ない奴というローラへの疑惑を何とか晴らすことが出来た。
オーガを倒し、一安心した村の人達も徐々に落ち着きを取り戻していく。
<――⁉ レイ。森の奥から妙な魔力を感じるぞ>
収まりかけた事態にドーランの口から再び不穏が走る。
「何だ?妙な魔力って。まだゴブリン帝国ならぬオーガ帝国があるとか止めてくれよ……」
<オーガの魔力ではない。人間と“何か”の魔力だ……>
「何かって何だよ……そんな事言われたら気になるじゃねぇか。行ってみよう!」
レイはドーランが感じるという魔力の正体を確かめる為、森の方へ走り出した―。
「ちょっと!」とまた勝手な行動を始めたレイに怒りつつ取り敢えずローラもレイの後を追った。
また面倒な事起こりそう……と不安になるローラの後ろを今度はランベルも追いかけて行った―。
「―アイツどうしたんだ急に?」
「さぁ。私も分からない」
突然走り出したレイを追うローラとランベル。その少し先を颯爽と駆けていくレイ。
ドーランが察知している魔力を頼りにどんどん森の奥まで進んでいくと、突如ドーランがレイを止めた。
<――止まるんだレイ>
言われたレイはそこで足を止めた。すると視線の先に人影が見える……見た感じ人数は二人。どちらも男だ。
甲冑のような装いをし、腰には剣が差さっていた。
騎士団の様な格好をした二人の足元には“魔法陣”の様なマークが光り描かれている―。
怪しげな雰囲気……人気のないこんな森の奥地で一体何をしているんだ、とレイは少し離れた木の陰から様子を伺う事にした。
そうしていると後からローラとランベルも追いつき、レイは簡単に二人に事情を説明した。
「―あれは確かに魔法陣っぽいわね……何してるのかしら?それにあの甲冑……サン大陸の水の王国の騎士団じゃない?腕の紋章が確かそうよ」
「水の王国の騎士団が何してるんだこんな所で」
レイ達が騎士団の二人を見ていると、描かれた魔法陣が強く光り出した―。
するとその数秒後、魔法陣から二体のオーガが現れた。
「あれって召喚魔法……⁉⁉」
「ひょっとしてさっきのオーガもアイツらの仕業か?」
ローラとランベルは隠れて様子を伺っていたのだが気が付くとレイの姿がなかった。
「どこ行った?」ときょろきょろ辺りを見渡していると……“奴”をとんでもないところで見つけてしまったのはローラだった―。




