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00 王家追放

異世界「ソウルエンド」


この世界では人間以外にも動物やエルフ、ドワーフ、ゴブリン、ドラゴンまで多岐に渡る種族や生物が棲んでいる。


人類の中で最も歴史が古く千年以上も前から富と権力を手にし、中でも人類で最初に魔力を生み出した一族とも言われる彼らは実質この世のトップである王族の中の王族、『ロックロス家』


世界は彼らによって動かされていると言われる程この世界では圧倒的な地位と力を持つ存在である。

生けるもの全てに流れる魔力は、人類にとっても骨や血や肉と同じ絶対に欠かせない重要なものになっていた。


そんな歴史を持つ彼らロックロス家に一族最大の事態が起きたのは十六年前のお話―。


現在のソウルエンドの王である【キャバル・ロックロス】は生まれ持って性格の悪い男だった。

世界一の王族にて生まれ育てば当たり前なのか幼少の頃から態度や素行が悪かった。

使用人や家来達をゴミの様に扱い、王族以外の人間は家畜同等だと見下して生きていた彼は、人にどんなに理不尽な事をしようと誰も文句を言う者はいない。


いや、言えなかった……。


同じ王族でもそのトップに立つロックロス家には誰も逆らえなかったのだ―。


その環境をいい事に生まれてから結婚をした三十歳まで何も変わらずやりたい放題やってきた。だが彼は一ミリも悪いと思っていない。


何故かって……?


彼には“それ”がごくごく普通の事だからである。何が悪いのかさえ本当に分かっていないからだ。


彼の両親も当然王と王妃である。だが、キャバルの両親はとてもいい人達で、国を…そして世界をより良くしたいと日々活動していた。その忙しさで城を空ける事が多かったのだ。


こうして生まれ育ったキャバルは何不自由なく暮らし結婚をして子供を一人設けたが、これが全ての始まりであった―。


「………オギャー!オギャー!」


まだ日が昇らない午前二時過ぎ―。

城の一角では新たな命が生まれ、医者や助産師、使用人や家来達もとても喜び賑わっていた。


「――“エリザベス様”!元気な男の子ですよ!」


エリザベスと呼ばれた女性は今生まれた男の子の生みの親でありキャバルの妻である。

汗だくで意識が朦朧とする中でも、我が子を見るエリザベスの表情は何とも幸せそうだ。


元気よく泣く我が子を抱くエリザベス。名前は“レイ”と名付けられた。

少しして助産師が赤ちゃんの検査をしますと連れて行った。

エリザベスもゆっくり休む様お城の寝室に移動され痛みと疲労が残りながらも我が子が戻るのを待っている。


そして暫くして、医者達が赤ちゃんを抱いて戻ってきた。


「オギャー!オギャー!」


「エリザベス様。赤ちゃんに異常は見られませんでした。とても健康です」


「良かったわ。レイ……生まれてきてくれてありがと。」


気になって部屋の外で待っている使用人や家来達に「入ってきて」と優しく部屋へ招き入れるエリザベス。

その一言で更に明るい表情になった皆は、生まれた赤ちゃんを見てそれはそれは喜び癒されていた。


皆が賑わいをみせる傍らで医者がエリザベスに少し気がかりな事を言った。


「エリザベス様。特に気になる事ではないのですが……検査で魔力数値だけが“0”でした。

生まれたばかりの赤ちゃんは皆魔力が安定していないので、最初の検査の段階では0でも珍しくありません。生後ニケ月頃までには魔力数値も安定してくると思います。それ以外は全く問題なく健康です」


「分かったわ。先生ありがとう」


この時はまだ誰も気にしていなかった―。

医者の言う通り、魔力が安定していない赤ちゃんが数値0なのは全然珍しい事ではない。皆そのうち自然と当たり前の様に数値が安定する。


しかし―。


生まれて一年が経ってもレイに魔力反応は現れなかった。


この一年で何度か定期健診を行ったのだが全く異常は見られず母子ともに健康。ただ魔力数値だけがずっと“0”のままである。


エリザベスはも少し気にはなっていたが、レイが健康で育っている事もあり年々その不安は薄れていつの間にか当たり前へと変わっていた。


別に魔力がなくて死ぬわけでもなければ病気に掛かるわけでもない。


何よりレイが変わりなく育ってくれているという事だけでエリザベスは十分であった。


城の使用人や家来達もすくすく育つレイを我が子の様に可愛がっていたのだが、キャバルだけは違った―。


レイの十歳の誕生日。未だに魔力が0だった事に対し、キャバルは遂に痺れを切らした―。


人類で初めて魔力を生み出したと言われるロックロス家の跡取りが魔力0。


前代未聞の事態に王族の中でもキャバルは面子を潰されていた。それに耐えられなくなったキャバルは、レイの心配をするどころか散々侮辱した挙句、息子を庇ったエリザベスを反逆の罪で“二度と戻ってこられない”というロックロス家に伝わる“古魔法”でエリザベスを消した―。


突然の事にレイも理解が追いつかなかったが、気が付いたらキャバルに向かって殴りかかっていた。


しかし、当然その拳は届くことなくキャバルの魔法で床に押さえつけられ、実の父親に顔を踏まれながらレイはこう言われた。


「……やっぱり“養子”を手に入れて正解だったな。お前みたいなゴミはもう俺の息子ではない。勝手に生きろ」


その日を境にレイとキャバルは完全絶縁。

キャバルはレイの存在を無かったものとし、優秀な養子を我が子以上に可愛がった。


当時十歳だったレイに一人で生きていく力は無かった為、キャバルと絶対に会う事がない城の誰も使っていない倉庫のような部屋で暮らす事にした。


悔しいが、行く当てのないレイはここにいる事しか出来ない。

エリザベスを慕っていた使用人や家来達がキャバルに見つからない様レイに食事や洋服など必要なものを用意し献身的にサポートしながらレイは生きて行く事が出来た。


いつの日からか、その使用人や家来達の不審な動きに少し違和感を抱いたキャバルであったが、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに養子だけを可愛がった。


ゴミが何をしていようと所詮ゴミ。


絶縁した日から六年―。


十六歳になったレイは、あれから一度も顔を合わせることがなかったキャバルの前に堂々と現れた―。


六年ぶりにレイの顔を見たキャバルは一瞬困惑した表情を見せたが、直ぐに“六年前と同じ”怒りの表情に変わった。

キャバルの横にいた養子の青年はいまいち状況が分かっていない。


「――貴様……。のうのうと良く俺の前に姿を現せたな。相変わらず魔力が感じられんがまさかまだ魔力0なのか!ハッハッハッ、笑わせてくれる!本当に落ちこぼれのゴミだな!

……このロックロス家からこんな奴が生まれるとは……!!貴様なんぞ一族の恥だ!忌々しい……二度と姿を現すな!出ていけッ!!」


こうして十六歳の誕生日の日、レイはロックロス家を去った―。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


~とある農場~


「……ああ~~~めちゃくちゃいい天気!やっと自由を手に入れたぜ俺は!」


清々しい表情で天を仰ぎながら解放感に浸る一人の青年。名は【レイ・ロックロス】


今しがた、父であるキャバル王から完全に王家を追放されたレイはこの上ない幸福感と自由を感じている。

軽い足取りでランランランとスキップしながら城を出たレイは、城の近くにある農場へと来ていた。


「レイ坊ちゃん。本当に城を出てきたのですか?」


「もうその坊ちゃんってのやめてよ。俺も十六だよ?城も本当に出てきた。これからは一人で生きていく!」


レイ坊ちゃんと呼ぶ年配の男、“ボルゴ”はこの農場の経営者。


王族専門の農場であり経営者も何十代に渡って引き継がれている。王族の農場でという事もあって、レイは小さい頃からよくエリザベスと来ていた。


レイにとって、自分の事を理解してくれる心安らげる場所であった。


「一人でって……行く当てはあるんですか?」


「ボルゴ……もう王家の人間じゃないんだ。敬語なんかやめて普通に話してよ」


一瞬困った顔を見せたボルゴだがレイの真っ直ぐな気持ちに答えることにした。


「……ふぅ~……。じゃあ、いいかい、レイ?もう一度聞くが当てはあるのか?魔力もない君が一人で生きていくのは簡単じゃないぞ?」


「それは分かってる。だからこの“六年”俺は城にある本を読み漁った!ありとあらゆる分野の知識を詰め込んだ。あとは実践あるのみ!大丈夫、何とかなるって!それに…“母さん”を見つけないと!」


「――!……手掛かりがあったのか?」


「うん。まぁ確実ではないけど、城にロックロス家の“古魔法”について書かれた書物もあったんだ……。

それによるとどうやらあの魔法は“別の異空間”へ飛ばす魔法らしい。使ったロックロス家ですら飛ばした“先”が分からないんだって」


「じゃあどうやってエリザベス様を……?」


「これも定かじゃないけど……その異空間を操れる魔法があるっぽいんだよね。

誰が使えるのかも本当にそんな魔法があるのかも分からないおとぎ話みたいなもんだけど、でも少しでも可能性があるなら俺はそれを探して母さんを見つけたい」


レイとエリザベスに起こった壮絶な出来事を全て知っているボルゴは、真剣に話すレイを見てもう何も言う事が無かった。


黙ってその場を離れたボルゴは、今朝農場で取れた新鮮な卵が入った籠とご飯をレイの前に出してあげた。


ここの卵かけご飯が大好物のレイは目の前にある炊き立てのご飯と、籠一杯に入った卵を一つ取り出し割ってご飯に掛けた。

濃厚な黄身と醤油とご飯が鮮やかに混ざり、食欲を掻き立てる美味しそうな匂いがレイの鼻を通り抜けていく。


旅立ちを決めたレイを後押しするかのように、ボルゴは黙ってレイの姿を見守っていた。


「―やっぱりここの卵かけご飯は最高にうめぇ~!!」


「当り前だ。誰が作ってると思ってんだ!」


勢いよく完食したレイはバチンッと手を合わせ「ごちそーさま!」と満足そうにお腹をさすっている。


――――ドクンッ…………!


「……ん?」


食べ終わったレイは何か体に違和感を感じた―。

体の奥底に“何か”があるような変な感覚…。これといって体調に変化もないし気分が悪いわけでもない。


でも確実に何かが違った―。


「どうしたんだレイ?」


自分の体をずっと見つめているレイにボルゴが声を掛ける。

しかし、レイはこの違和感が気になっているのかボルゴの言葉に反応を示さない。


すると次の瞬間―。どこからか“声”が聞こえてた。


<……我の力を…………宿し者よ……>


何処か遠くから呼びかけられた様なとても近くで話しているかの様な不思議な感覚の声。


一体何処から聞こえてくるのか、レイは辺りをキョロキョロと見渡した。

だが、レイとボルゴ以外に誰も姿は見えない。そんな事をしていると再び声が聞こえてきた。


<――何処を見ておる。我は主の体の中だ……>



レイは“ドラゴン”を体に宿した――。



「――はぁ⁉⁉⁉」


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