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第30話 命を懸けて


 戦いは苦戦を強いられた────


 ヴォーリスの魔法的に昇華された強靭な身体には、そうそう攻撃が通らない。

 また、その身体から放たれる物理攻撃の一つ一つは、当たれば即死級の威力。

 ソフィリアはまだ大丈夫だが、レイは肉体強度を高めていてもなお、その攻撃を喰らうと骨の一、二本は覚悟しないといけないだろう。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「レイ、息が上がっていますよ……?」


 ソフィリアは、肩で呼吸をしているレイに挑発的な笑みを浮かべるが、その顔にも余裕はなさそうだ。


「人間、確かに貴様は強かろう。だが、それはあくまで矮小な人間という種族の中での話だ。ソフィリアがついているとはいえ、ここまで我と渡り合っただけでも称賛に値する……さあ、潔く死ね」


「──ッ!?」


 ヴォーリスがソニックブームを発生させるほどの勢いで飛んでくる。

 レイはすぐに回避行動に移ろうとするが、ヴォーリスのスピードがそれを上回る。


 咄嗟に受けの体勢に入るレイ。

 だが、ヴォーリスの右脚はレイの構えた左腕をへし折り、さらに押し込まれる。


「ぐぅ……ッ!?」


 レイは脇腹に激しい痛みを感じながら、なすすべなく大きく吹っ飛ばされる。

 地面を転がり、砂煙の中に倒れ伏す。


「レイッ!?」


 ソフィリアの悲痛の叫び。

 それを聞いて、レイは呻き声を漏らしながらも、小鹿のように震える脚に力を入れて何とか立ち上がる。


「大丈夫……何とか生きてる……」


(大丈夫じゃねぇえええッ!? 痛い、痛すぎるッ!? 左腕折れてる折れてる! 肋骨(ろっこつ)も二、三本いったわ……)


 と、実際は全くもって大丈夫ではないが、ここで戦いを諦めたら死ぬだけ。

 どうせ死ぬなら────


「あ…………」


 レイの脳裏に、一つの希望が浮かび上がった。


(出来るかわからん……でも、これしか方法はないだろ。このままでもどうせ死ぬんだ……それなら──)


「ソフィー!」


「はい?」


 吹っ飛ばされたレイの傍まで飛んできたソフィリア。

 レイはヴォーリスの動きに油断のない視線を向けながら、思い付いた最善の策を行うための準備をソフィリアに告げる。


「ソフィー、魔法の支配は全然完璧じゃなくて良い。だから、自分に出せる最大火力の『電気』系黒魔法をぶっぱなしてくれ」


「も、もちろん出来ますが……使ったあと、戦闘を続行できる体力が残っているかどうかわかりません。それに、魔法の支配が甘いということは、狙いが正確に定まりませんし……果たして当たるかどうか……」


「いや、それで良い。俺を信じろ」


 レイはヴォーリスから視線を逸らさない。

 しかし、その真剣な横顔を見て、ソフィリアは「わかりました」と頷く。


「作戦会議は済んだか? なら、それが無駄な抵抗であると教えてやろう……愚か者どもよ」


「はっ……その油断が命取りになるんだぞ?」


「これは油断ではなく──」


 フッとヴォーリスの姿が霞み動いた。

 そして、瞬く間にレイとソフィリアの頭上を取ると、持ち上げていた(かかと)を振り下ろす。


「──余裕と言うんだ」


 直ちにレイとソフィリアは散会する。


 すると、振り下ろされたヴォーリスの踵が地面を抉り、亀裂を刻み、クレーターを作り上げる。

 少しでも回避が遅かったら、今ごろレイは粉微塵になっている。


 そして、ここからレイは、ソフィリアが魔法の準備を整える間の時間を稼がなくてはならない。


「来いよムキムキ天使! 人間様の強さを見せてやるよッ!」


「ほざくな」


 そこからは、ヴォーリスのパンチとキックの猛烈なラッシュを、レイがひたすら回避し続ける。

 捌ききれなかった打撃を受ければ、大きく吹っ飛ばされる。

 皮膚を掠れば、肉が削れて血が滲む。


 それでもレイは、ソフィリアが魔法を放つまでの僅かな時間を稼ぐために、命を賭ける。


 そして────


「いきます……ッ!!」


 一体どんな神聖語を紡いで、どれほどのマナを集めたらそんな魔法が完成するのか……。

 ソフィリアの掲げた右手の上には、不気味に青白く輝く巨大なプラズマが鎮座していた。


 耳をつんざく高周音。弾けて火の粉を散らすスパーク。

 その圧倒的電気エネルギーの集合体が────


「はぁあああああああああああ──ッ!!」


 ────放たれた。


 進む道を焼き焦がし、地面を砕きながら、みるみるヴォーリスに迫る。

 しかし…………


「何だこの粗雑な魔法は……」


 そのヴォーリスの言葉通りだ。

 威力だけに全霊を込めた魔法。狙いは定まっていないし、エネルギーを集束しきれておらず、進みながら原型が崩れていっている。


「いや、それで良いんだよ。ここからは、俺の仕事なんだからなッ!」


 レイはそう言って、ヴォーリスから大きく逸れたソフィリアの魔法の前に立つ。

 そして、自分の周囲のマナの支配を今まで以上に完璧に……マナを完全に掌握し、従える。

 今、レイを中心とした約半径十メートル内のマナは、完全にレイのモノ。


 レイは飛んできた電撃の塊に、まだ折れていない右手を向け────


「【魔法略奪マジック・インターセプト】ッ!」


「……レイ、まさかッ!? だ、ダメです! その規模の魔法は人間に扱えるモノじゃないです! 死んじゃう……ッ!?」


 そう、レイにはヴォーリスを討つほど高火力の魔法は生み出せない。なら、それはソフィリアにやってもらう。

 そして、威力に重点を置くことでおろそかになった魔法の支配はレイがやる。


 レイのマナとの親和性は異常なまでに高い。

 それも、相手の魔法の支配権を奪い、改変出来るほどに。


「うおぉおおおおおおおおおおおッ!?」


 レイは必死にこの魔法の支配を試みる。

 明らかに人間の扱える魔法の規模を越えている──その負荷は多大で、レイの頭からは血が出てきて、横顔を伝う。

 押さえ込んでいる右手には無数の切り傷や火傷ができ、口からは血が吐き出される。


「だ、ダメ……レイ……レイぃいいいいいッ!?」


 そんなソフィリアの泣き叫ぶ声を聞いて、レイはフッと笑う。


(ソフィー……何か俺、お前のためなら……命なんて簡単に懸けられるっぽいわ……)


 レイはそう心の中で呟いて、力一杯右手を頭上に掲げる。

 すると、形などなかった電撃の塊が、レイの上に一本の槍を形成して浮かんでいた。

 非常に安定している──完璧に魔法が支配されている証拠だ。


 その光景に、ヴォーリスは目を剥いた。

 人間では……いや、それどころか自分ですら到底成し得ないことを、目の前の人間がやってのけたのだ。

 魔法を奪う……それだけでも驚愕に値するうえ、その魔法は人間には扱え切れないはずの規模。


「人間……いや、貴様は……一体何者だっ……!?」


 ヴォーリスは思わず一歩後退りしながら、喉から声を絞り出す。


「俺はレイ……ただのレイ。そして──」


 レイは力強く地面を踏み込み、身体の捻りを最大限利用して右手の上に浮かんだ電撃の槍を投擲。


「ソフィーの家族だぁあああああああああああッ!?!?」


 大気が唸りを上げる。大地が裂ける。

 投擲された槍は、圧倒的な電気エネルギーの極太集束レーザーとなって、レイからヴォーリスまでの最短直線距離を迸った。


「ぐおぉおおおおおおおおおおおッ!?」


 ヴォーリスは全身全霊をもって、迫ってきた魔法を受け止めようとするが、その圧倒的なまでの力になすすべなく呑み込まれる。


 ヴォーリスの身体を粉塵さえ残さず消し飛ばした魔法は、遠くの地面に着弾し、深く深く大地を抉り、融解させた。


 大気を震撼させる轟音が鳴りやみ、対照的なまでの静寂が訪れる。


 レイはさっきまでヴォーリスの立っていた場所を呆然と眺め──いや、既に意識はここになかった。

 全てをやり尽くしたレイは、力を失った人形のような身体をその場に倒す。


「レ、イ……? そんな……ウソだと言ってください……」


 ソフィリアはおぼつかない足取りでレイの傍まで来て座り込む。

 倒れたレイの身体を自信の膝の上に乗せ、その顔を覗き込む。


 戦いは、終わった────

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