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48.決着

「くっ!」


 私は邪童丸の体当たりを紙一重のところで回避する。

 しかし、続けざまに


「があぁぁぁっ!!!」


 と叫んで邪童丸が黄色の腕を振るったかと思うと、その指先から真っ黄色の液体が飛沫となって周囲に飛び散った。

 向かってくる水滴を鬼丸で薙ぎ払い、細かく分かれた液体が腕についた次の瞬間、私の皮膚が強烈に焼けついた。


「ぐっ!? こ、これ何? あ、熱い?」

「まだだぁぁ!!! 死ねぇーーーーっ!!!!!」


 邪童丸がさらに黄色の液体を四方八方に振るう。


「グモォォォォーーーー!!」

「キョエエエエッーーーーーー!!!!」


 周辺に飛んだ液体をもろに喰らった鬼や悪魔たちが、次々にシュウシュウと音を立てて焼きついていった。


「メスキータ先生! 蘭丸さま! こっちです!!」


 物陰に隠れているマンショが叫び、2人もそれに呼応してマンショたちの場所へと退避した。


「ふははは! 俺のこの黄色の腕からは、どんな生き物も殺す猛毒が噴き出るんだ! そしてこっちは……」


 そう言って白色の腕を振るうと、ビキビキと音を立てながらいくつもの氷塊が出現し、ものすごい勢いでこちらに飛んできた。


「まずいっ!」


 私は必死に回避行動を取り、繰り出される氷の弾丸をかわし続けた。


「どうだ、俺様の氷の威力は!?」

「だあああぁぁ!」


 防戦一方になるのを避けるため、私は煉矢(れんし)を続けざまに2本放った。


「ははは! 効かねぇんだよっ!!」


 そう言って邪童丸が青色の腕を振るうと、今度は大量の水が腕から噴き出し、煉矢を一瞬にして蒸発させてしまった。


「き、効かない……?」

「うひゃひゃはぁ! いい加減、あきらめるんだな……」

「まだまだっ!」


(もう飛び道具は通用しない……それならっ…………!)


「だっぁあぁーーーーーーーー!!」


 私は邪童丸の首をめがけて飛びかかり、渾身の力を込めて一閃を振るった。

 だが、


「えぇ!?」


 私の刀は確実に邪童丸の首をとらえたはずであったが、なぜか鬼丸は虚しく空を斬ってしまった。


「ミゲ姉! 今のは幻です! 邪童丸の黒い腕から霧のようなものが出てて、それが幻を作ってます!!」

「ま、幻ですって……!?」

「ちっ……またあのメガネか……」


 私はハッとしてその声がした方向を見ると、黒いモヤがかかったあたりに、何か大きな巨体が隠れているのが分かった。


「そこに隠れてたのねっ!」

「ははははっ! これが俺の黒い腕の能力、幻霧(げんむ)だ。見事に騙されやがったなぁ」

「仕掛けが分かればもう引っかからないわよ!」

「果たしてそうかなぁ?」


 ニヤリと下卑た笑みを浮かべたかと思うと、邪童丸は黒い腕を滑らかに上下させた。

 その途端、私の視界がゆらりと歪み、見る見る間に邪童丸の姿が無数に分裂して見えた。


「あっ!? また幻術ねっ!」

「ひゃーっはっは! お前にこれが見破れるかぁぁぁーーーー!?」


 いくつもの邪童丸が灼熱の火炎や黄色の毒液、氷の矢に濁流のような大量の水柱を繰り出してくる。

 私は必死に避けていたが、その攻撃はもはや敵味方関係なく無差別に放たれており、周囲の鬼や悪魔は次々と邪童丸の毒牙にかかって死んでいった。


「あひゃひゃヒャヒャぁぁぁーーーー!!!!!!」


(く、狂ってる……!)


 今や邪童丸は自制を失っており、見るもの触れるもの全てを殺戮する破壊神と化していた。


(このままじゃ、いつかやられる……反撃しないと……!)


 そう考えたが、邪童丸の攻撃はさらに激しさを増して来ており、防戦するのも精一杯な状況に追い込まれていった。


「はっ!?」


 回避行動に気を取られていたその時、突如として目の前に邪童丸の巨体が出現した。


「もらっタァっぁぁっぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 邪童丸の4本の腕が上下左右から私を取り囲み、捕まえようと迫った。


(やられたっ!)


 瞬時にそう悟り、体中が硬直した次の瞬間、


「させぬっ!」


 そう声がしたかと思うと、私を掴むはずの4本の手が、数間(すうけん)先で止まったのが見えた。


「ぐぬぅぅぅぅ! なんなんだよぉぉっお前らはぁぁっぁーーーーーーーー!!?」


 邪童丸が激しく叫ぶ。


「ミゲルはやらせないわよぉぉ!!」

「ミゲ姉にぃ、触るなぁぁーーーー!!」

「ワ、ワ、ワタシの大事な生徒は、傷つけさせマセンッッ!!」


 ハッとして見ると、巨大な邪童丸の4本の腕を、蘭丸、マンショ、ミゲル、メスキータ先生が、それぞれ体当たりで食い止めてくれているのがわかった。


「みんなっ!?」

「ミゲル! 今のうちに早く!」


 蘭丸の叫ぶ声が飛ぶ。


「邪魔だぁぁっぁーーーー! 離れろってんだよぉぉぉーーーーーーーー!!!!」


 邪童丸は無我夢中で腕を動かし、蘭丸たちを振り落とそうとするが、4人も必死にしがみついて離れない。


「ミゲル! やるのよっ!!」


 マンショの声に深く頷いた私は、鬼丸を力強く握りしめ、邪童丸の頭上めがけて高く跳躍した。


「邪童丸! 今度こそ覚悟しなさいっ!!」

「てめえらぁぁっ!! 人間風情がなまいきなんだよっォォォォーーーー!!!!」

「これで終わりよ! 天降石(てんこうせき)!!」


 持ちうる最大限の霊力を巨大な火炎に変え、燃え盛る巨大な流星と化した私は、そのまま邪童丸の頭部に降り注いだ。


「ブフフフフゥァーーーーーーーー!!!!!!」


 今や頭部以外に動かすことが出来ない邪童丸は、しかし灼熱の炎、それも先ほどの炎とは比較にならないほどの激しい火柱をその口から吐き出した。


「ぐううううぅぅぅーーーーーーーーっ!!!」

「ブオッ! ブオオオオォォォーーーーーーーー!!!!」


 大きな火の塊が2つ、お互い一歩も引かずに空中で激しくぶつかりあう。


「あ、あんたもしつこいわねぇぇぇーーーーっ!!」

「グ、グダバリヤガレェェーーーー!!!!」


 ゴオオオーーーーーーーーーーーーーッ!! という音が、周囲を焼き尽くさんばかりの熱気とともに、大聖堂中に鳴り響く。


「ぐっ、ぐっ……どりゃぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!」


 私は最後の力を込めて鬼丸を押し込み、邪童丸の吐き出す火炎を押しのけた。


「やった!」


 マンショがそう叫び、私の刀が邪童丸の頭に数寸(すうすん)近くまで届いた時だった。


「ブルォァァァ!!!!」


 邪童丸が激しく腕を振るうと、マンショたち4人が腕から振り落とされた。

 その勢いのまま、4本の腕が、火球となった私の攻撃を防ぐ。


「なっ!?」


 邪童丸の腕が、ジュウジュウと音を立てながらも私の攻撃を押し返そうとしている。


「ふはっ!? フハハハハはははははっ!! こ、この火球ごと、お、お前を握りつぶしてくれるわっ!!」

「ぐうううぅぅーーーーっ!!!」


 4本の腕によって上下左右からグイグイと火球が締め上げられ、中にいる私も圧力で押しつぶされそうになる。


「お前は、よ、よく頑張ったがなぁ、こ、これでお終いだぜぜぜぇ、し、し、死ねええええええぇぇぇーーーーーーーー!!!!!!!」


 邪童丸の腕が、火球を力強く握り潰す。


「あーーーーっはっはっは! とらえたぞっ!! とらえたっ、とらえたっっ!! ……ガガッ!? なっ、何っ!?」


 邪童丸が握り潰した手を開く。

 そこには、シュウシュウと煙を吹く鬼丸のみが残されており、私の姿はどこにも存在しなかった。


「死ぬのはあんたよっ! だああああぁぁぁーーーー!!」


 鬼丸を囮にして火球からすんでのところで飛び出した私は、かつて蘭丸から貰った小刀にロザリオを巻きつけると、邪童丸の眉間にその小刀を叩き込んだ。


「……さようなら、邪童丸……爆針(ばくしん)!!!!」


 私は霊力を小刀の切先に集中させると、一気にその極小の一点で霊力を開放し、火炎を爆発させた。

 眉間の中で小刀ごと(はじ)けた火炎は、ドカアアァァァァン!!!!! という轟音とともに、邪童丸の頭部を丸ごと破壊した。


 後に残ったその体は、なおも4本の腕と両翼とが不規則に動いていたが、ビクンッ! と全身が痙攣したかと思うとその動きを止め、大聖堂の石畳に落下して動かなくなった。


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