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37.再戦

 キンッ!


「き、斬れた!」

「私もいけたわ!」

「わわ、私も斬れました!」

「できた……」


 私たちは一晩かけて、巨石が斬れるまでに剣の腕を上達させることができた。


「ゲッツ翁直伝の体捌(たいさば)き、今まで習った剣術とは全然違いましたね! あの人すごいです!」

「私は、さんざん腰やお尻をさわれてムカついたけどね……あの(じじ)ぃ100歳超えてんのに、まだ性欲旺盛なんじゃないの?」

「ミゲル、失礼よ!」

「……」

「ミ、ミナサン、静かにナサイ……ゲッツ翁。御助力、ホントウにアリガトウございマシタ」

「うむ、儂もまさか4人全員が斬れるようになるとは思っておらなんだがな。大したもんじゃ」

「私たちの刀に祝福もしてもらったことだし、これでメスキータ先生を助けに行けるわね!」

「でも敵も相当の数がいるし……強くなれたとはいえ、私たち4人で本当に勝てるのかしら……」


 マンショが不安げにつぶやく。


「たしかに相手はあのヴァンパイア……残忍で悪知恵も働く、油断ならない相手じゃ。そこで……」


 ゲッツ翁はあたりをキョロキョロと見回した後、顔を私たちの耳に近づけて、小声で何かを囁いた。


 ◆




 ユステ修道院を後にした私たちは全速力で馬車を()り、その日の夜のうちに、なんとか娼館に舞い戻ることができた。


 娼館は石化が解かれて、再び元の姿に戻っている。

 ただ、一昨日初めて来た時とはだいぶ様子が違っているのが分かった。


「ん? この前は娼館の外に馬車があったり男たちがいっぱいいたのに、今晩は全然いないわね?」

「あ、ミゲ姉! 表の扉に『本日休館』って看板が掛けられてますよ」

「中が、もぬけの空ってことはないわよね……」


 マンショがそうつぶやいた時、不意に、ギイッという音を立てて木製の扉が開いた。


「あらマンショ……今夜は、わざわざ貸切にしてくれてたみたいよ……」


 私はゴクリと唾を飲んだ。


「ロドリゲス神父は、万が一に備えて外で待っていてください」


 マンショの言葉に、神父がコクリとうなずく。

 私たち4人は少し冷や汗をかきながら、静かに館内に足を踏み入れた。 


 館内には、先日の戦いの跡がそのまま残されていた。

 壊れた酒場の机や椅子が散乱しており、地下墓地(カタコンベ)を構成するたくさんの頭蓋骨には、大量の血の痕がベッタリとくっついている。


「メスキータ先生、どこにもいないですねぇ……」

「結局、助けに来るまで丸二日もかかっちゃったからね。先生の結界も、長くはもたなかったんじゃないかしら」


 私たちが先生の身を案じていたその時、1匹のコウモリがヒラヒラと目の前に現れた。

 コウモリは近くの頭蓋骨の一つに止まったかと思うと黒い霧に変化し、さらにその霧は、一瞬であの女主人へと変化した。


「ふふふふふ……待っていたぞ……考え直して、仲間になる気になったのかい?」


 女主人はニヤニヤと笑いながらそう言った。


「んな訳ないでしょうがっ! さっさと先生を返しなさいよっ、このド変態女!!」

「みんな、行くわよっ!」


 マンショの言葉を受け、全員が刀に手をかける。


「あーーっはっはっは! ホント威勢がいいこと……だけどその前に、これを見るがいいわ!!」


 その言葉とともに、酒場の舞台上にある天井から垂れ下がっていたボロボロの幕が取り払われた。

 舞台の上には、朽ちた木材にくくり付けられたメスキータ先生の姿があった。


「せ、先生!」


 メスキータ先生の周りには無数のコウモリが飛び交っており、その足下には、薄汚れた毛に覆われた狼たちが徘徊していた。


「ムグ、ムググググ……」


 先生の口には猿ぐつわがはめられており、言葉が出せない状態だ。


「先生を人質にしようっての? やり方が汚いのよ、淫乱メス豚野郎!」

「そうですよっ! この……えっと、あの……し、素人処女!」

「お、お前たち、かわいい顔して意外に口汚いな……ソレはそうと、その刀……神の祝福を受けてきたのであろう?」

「なぜそれを知っている……」


 ジュリアンが女主人を睨みつけながら聞いた。


「ヴァンパイアはね、さっきみたいに、コウモリにだったり狼にも化けられるの……お前たちがここから出た時も、そのあとをずっと付けさせてもらったわ。ユステでのことも、ぜーんぶ化けた姿で見ていたのよ……」


 クククッと女主人が笑ったその時、館の外からロドリゲス神父の叫ぶ声が聞こえてきた。


「なっ!?」

「お仲間の神父も私たちの手に落ちたようね。これでもう誰も助けに来れない……さあ、その刀を全部床に置くんだっ!」


 私たちはお互いを見合ってうなずくと、渋々と持っている刀を地面に置いた。

 その途端、先生の周りにいたコウモリや狼がたちまち数十体のヴァンパイアに姿を変え、牙をむき出してこちらを威嚇してきた。


「オマエタチ、マルゴシ……」

「ソノクビゴト、カミキッテヤル……!」


 女主人がサッと手を振ると、体中の皮膚が剥がれ、腐肉がむき出しとなった4体の女ヴァンパイアが飛びかかってきた。


「くっ!」


 とっさに右手で防御体制を取った私たちを目掛けて、吸血鬼の牙が突き立てられる。


「くたばるがいい!!」


 女主人の叫声が娼館中に響き渡った。


 しかし……


 ガチンッ!

 ヴァンパイアが噛み付いた右手からは、血肉を引き裂く音の代わりに、鈍い金属音だけが鳴り響いた。


「何っ!?」


 女主人は、目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 大きく開かれたヴァンパイアたちの口は、私たちが装着していた()()()()()に阻まれており、その顎はだらしなく外れていたのだった。


「さっさと離れなさいっ、この上下全開御開帳女(ごかいちょうおんな)!!」


 私は義手を思い切り振り回して、ヴァンパイアを振りほどいた。


「うりゃーーーーっ!!」


 続けて、今度はその醜い顔に鋼鉄の拳を叩き込む。


「グフッ!!」


 ブヨブヨとして水疱だらけの顔から、緑の血が噴き出した。


「ちいっ! そ、それはゲッツの義手か!?」

「へへへへ……だまされたでしょ? ゲッツ翁直伝の奇術よ。昔はよく、この奇術じみたやり方で決闘に勝ってたらしいわ。あの爺さんらしいわね」


 私は義手に付着した血を拭いながらそう言った。


()っ!」


 マンショたちも、それぞれ借りた義手を使った打撃技でヴァンパイアたちを(ほふ)っている。


「さすが歴戦の猛者、ゲッツ翁お手製の鋼鉄拳ね。柔らかいヴァンパイアの頭なんて、一撃で粉砕できるわ!」


 マンショの右手には、ベットリとした緑の血とヴァンパイアの頭蓋骨らしき骨の欠片がこびり付いていた。


「そんな事で私をだましたつもりか! まだメスキータはこちらの手の中にあるんだ! 他に助ける者もいないお前たちには、手も足も出まい!!」

「あら……そうかしらぁ〜?」


 私がそう言い放った時、バリンッ! という音とともに2階の窓が割れ、青白い輝きを放つ人影が酒場へと舞い降りてきた。


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