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34.祝福

「サタンの子らヨ、神の栄光の前に(ひざまず)くがヨイ! 我らの言葉は天のコトバ! 灰は灰に、塵は塵に、闇の者は闇に還りなサイ!!」

「こ、これって……悪魔祓いの祈祷!?」


 2人の詠唱が終わると同時にロザリオが黄金色(こがねいろ)に輝き出し、その突き刺すような光を前にして、周囲のヴァンパイアたちは目を塞ぎはじめた。


「グギギギギギ……」

「ク、クルシイ!」

「オノレ、クソシンプガ!!」


 ヴァンパイアたちが一様に苦しみ始めたのが分かった。


「ロドリゲス、いまデス!」

「ミナサン、私の後についてキナサイ!!」


 そう言うと、ロドリゲス神父はロザリオを前方にかざし、私たち4人を背中に引き連れてヴァンパイアたちの中に突進した。

 ロザリオの光に怯んだヴァンパイアをかき分けながら、どうにか酒場の入り口まで走り抜けると、その重い扉に体をガンガンと押し当てていく。


「待って! メスキータ先生がまだ!」


 見ると、先生はロザリオを片手にヴァンパイアの群れと必死に戦っていた。


「メスキータが食いとめているウチに行くのデス!」


 木製の扉がメリメリと音を立て、ついに私たちは酒場の外に転げ出ることができた。




 外は、すでに夜が白み始めていた。

 朝日が苦手なのか、ヴァンパイアたちは扉の内側から出ようとはせず、酒場の中からこちらを睨みつけているだけだった。


「私が連れ戻してくる……!」


 フィエルボアの剣を手にしたジュリアンが再び中に入ろうとした時、不意に扉のあった場所が石で覆われてしまい、娼館全体も石化してしまった。


「な、な、なんですか、これ!?」

「オソラク、朝になったのデ、一時的に異界に戻ったのでショウ。ヴァンパイアは、太陽の光がニガテですからネ」

「メスキータ先生を助け出さないと!!」

「落ち着きなサイ、マンショ。館から抜け出す前に、メスキータとは話をシマシタ。彼はアナタたちを逃したアト、中で結界を張っているはずデス。しばらくは、ヴァンパイアたちも手出しができないデショウ」

「結界って……それ、ロザリオを持って、ただジッとしてるってことでしょ? それじゃあ一人で抜け出せないじゃない!?」

「ミゲルの言う通りデス。夜になって娼館が再び現れタラ、彼を助けに行かないとイケマセン」

「だ、だけど……日本刀があいつらに通用しないんじゃ、また返り討ちにあっちゃうんじゃないですかねぇ?」

「今のママではそうデス。だから、ワタシたちはこれから、アル場所に行きマス」

「ある場所?」


 皆が、怪訝な表情を浮かべてロドリゲス神父を見た。


「その場所で、アナタたちの刀に、精霊の力を授けマス。ソウ……『神に祝福された刀(ロザリオソード)』にするのデス……」


 ◆




 ロドリゲス神父のいう場所とは、エヴォラの町からさらに80里ほど先に進んだユステ修道院という場所だった。

 娼館から抜け出した後、私たちはエヴォラの町で馬車を調達し、休む間もなくその修道院へと急いだ。


「チョット揺れますケド、コノ馬車の速さナラ、夕方には着けそうデスネ」

「……ロドリゲス神父。私たちって、もともと西洋に逃げた鬼を退治するだけじゃなくて、悪魔とか、あと、鬼と悪魔の融合体とかと戦うためにキリシタン剣士に育てられたんでしょ? それなら、あのヴァンパイアにも私たちの力が通用するかと思ってたんだけど……」

「タシカニ、アナタたちには、コッチの悪魔にも対抗できるだけの霊力が宿ってイマス……タダ刀を使う以上、まずは神の祝福を刀に授けなくてはナリマセン。ソウしないと、持っている霊力を刀の上に発現デキナイので、悪魔には打撃を与えられないのデス」

「そっか……私たちが日本の神社で、刀に鬼祓(おにばら)いの力を授ける儀式をやっていたのと同じってわけね」

「エヴォラの町にも立派な教会はありましたけど、その修道院まで行かないと祝福は受けられないのですか?」


 マンショが、手元の小通連を握り締めながらそう言った。


「祝福自体は、ドコの教会でも授けることがデキマス。ただユステには、アナタたちの力にナッテくれる人がいるのデス。チョット気むずかしい男ですケドネ……」


 ◆




 ユステ修道院は、小さな丘にある、低木に囲まれたレンガ造りの建物だった。


 あたりはすでに夕日がさしており、数名の修道士たちが夜に向けて備え付けの松明に灯を灯しているのが見える。

 周辺には人家は無く、遠くの方からは狼の遠吠えが聞こえていた。


「サア、中に入りまショウ」


 私たちはよく手入れのされた中庭を抜けて、小さな祭壇のある礼拝堂の中に入った。


「んん……? 薄暗くてよく見えないわ……」

「大丈夫ですよ、ミゲル……ゲッツ(おう)、いらっしゃいマスカ?」


 蝋燭の火に照らされ薄ぼんやりとした礼拝堂の中にロドリゲス神父の声がこだましたが、答えはなかった。


「誰もいないですねぇ……」


 マルチノがそう呟いた時だった。

 チャリっと小さな金属音がしたと思うと、目にも見えぬ速さで教会の長椅子から銀色の影が飛び出し、ロドリゲス神父の首に短刀を押し当てた。


「なっ!?」


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