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26.ジュリアンの日記 ⑤・告発

 ジュリアンの日記


 ⚪︎月◎日


 とうとう真実が分かった。


 昨日は、日中はマンショたちと一緒に聞き込みに回り、何の手がかりも掴めないまま床に着いた。

 深夜、私は静かにみんなが寝ている部屋から抜け出すと、窓越しに教会長の部屋の中が見通せる廊下に陣取った。


 人攫いはいつも夜遅くに行われている。

 もし教会長が犯人だったら、部屋から抜け出すところが見れるかもしれない。


 教会長の部屋からは、蝋燭の灯りが漏れていた。

 まだ起きているのだろうか……


 見張りを続けて四半刻(しはんとき)ほど過ぎた時、蝋燭の灯りがゆらりと動くのが見えた。

 しばらくすると、黒くて長い外衣(がいい)に身を包んだ教会長と思わしき人物が蝋燭を手に庭に出てきた。

 彼は、庭の木になっているザクロの実をもぎ取ると、ガブリと一口噛んでそのまま外出した。


 私は距離を取りながらその後を追いかけた。


 ◆




 夜の闇の中、蝋燭でぼんやりと照らし出されたその背中は、まるで地を這う甲虫(こうちゅう)のようであったが、不意にその姿が一つの民家の中に消えていった。


 中の様子を伺わないと……

 そう思った刹那、民家から子供が叫ぶ声が轟いた。


 しまった!


 私は刀を抜いて民家に飛び込んだが、声が聞こえた子供部屋と思われる室内はすでに荒らされており、布団が無造作に切り裂かれていた。

 散らかった床の上には、食べかけのザクロが落ちているのが分かった。


「ど、どうしたんだーーっ!?」


 心配した親の声であろうか、バタバタとこちらに駆けてくる音が聞こえた。

 攫われた子供を追うため、また変に疑われてはいけないと思った私はとっさに部屋を抜け出し、周辺の様子を伺った。

 だが、人攫いの姿はどこにも見つけ出すことは出来ず、私は教会に戻るしかなかった。


 ◆




 翌朝、つまり今朝になるが、日が昇るとすぐに、私はヴァリニャーノ先生やマンショたちを引き連れて教会長の部屋に乗り込んだ。


「な、なんだお前たちは!?」


 教会長は夜着(よぎ)姿ではあったが、すでに起床していた。


「申し訳ございマセン、ドミニコ教会長。私もマダ詳しく聞いていないのデスガ、ジュリアンがどうしてもお話ししたい事がアルとのいうノデ……」


 私は怒りで興奮していた。


 昨晩教会に戻った後、教会長の部屋を確認すると、すでに教会長は帰っている事が分かった。

 その場で叩き起こそうかとも思ったが、何とか自分を抑え、朝になってから先生たちと一緒に追求する事に決めた。

 当然、布団に入っても一睡も出来なかった。


「(ねえジュリアン、ちゃんと説明してよ。まさか……あんた、まだ教会長を疑ってるの?)」


 ミゲルは私の耳元で、小声でそう囁いた。


 私は、夜が白みはじめると同時に先生たちを起こし、特に説明もせずにこの場まで連れてきた。

 一つ一つ説明する間も惜しく感じられたのだ。


「教会長、単刀直入にお聞きいたします。昨晩はこの部屋を抜け出して、どちらにお出になっていたのですか?」

「何? なぜ、そんな事を貴様に言わねばならんのだ!」

「お答えになれないのですか?」

「一体貴様は何を言いたいのだ? こんな無礼なことをされて質問に答えるのも癪だが、儂はずっと寝ておったわ!」


 いけしゃあしゃあと、よく言う……

 私の怒りは、この時頂点に達していた。


「それは嘘です! 私はこの目で、教会長が部屋を出て、子供を攫いに行くのを見ました!!」


 この発言で、その場は完全に凍りついた。


 ヴァリニャーノ先生やマンショたちは驚愕の表情を浮かべ、教会長を見ていた。

 一方、教会長はポカンと口を開き、唖然としながら私を見つめていた。


「……本当に、貴様は何を言っているのだ?」


 教会長が声を絞り出して言った。


「図星を突かれたようですね……そう、私は見たのです。ドミニコ教会長が深夜に部屋を出た後、近くの家に入って行ったのを。そして、そのすぐ後に子供が攫われたんです!」


 私はこの時、もう一つの証拠を思い出した。


「それともう一つ。そこの庭に生えている木。あれはザクロの木ですね? 私たちが見た犯行現場には、必ず食べかけのザクロが落ちていました。昨晩もそうでした。教会長がこの部屋を出た時、そこの実を取って食べていたのを私は見ました。もう言い逃れは出来ませんよ!!」


 しばらく、沈黙が続いた。

 教会長はワナワナと震えながら、じっと押し黙っていた。


「も、もしそれが本当だとして、ですけど……」


 マルチノが口を開いた。


「教会長は、何で子供たちを攫ったんですか? 攫う必要性がどうも……」

「そうよ。それと、前から不思議だったんだけど、攫われた子供たちは一体どこにいるって言うの?」


 まだ信じきれていないのか、マンショも疑問を投げかけてきた。


「子供を攫ったのは、奴隷としてどこかの国に売り飛ばすためじゃないかしら? あと子供たちだけど……」


 私は教会長を睨みつけながら言った。


「彼らは教会長が作った孤児院にいるわ。孤児院には、誘拐された子供たちを探す貼り紙に描かれていた似顔絵とそっくりな子が何人もいたもの」


 私の発言を受け、教会長は天を仰いだ。


 やった!

 動かぬ証拠を突き付けられて、ようやく教会長も観念したのだ!!


 この時まで、私はそう思っていた……

 しかし、そんな考えは本当に浅はかだったと、今になって後悔している。


「一つ……いや、色々聞きたいのだが、貴様は昨晩遅くに私が部屋を出たのを見たと言っていたが、はっきり言って私は一歩も外には出ていない。貴様は夢でも見ていたのではないか?」

「夢? 夢なわけ無いわ! そもそも、近くの民家が襲われたのは事実です。調べればすぐに分かるはずです!」

「それは儂も知っておる。お前たちが部屋に入ってくる前、近くで事件があったから気をつけるようにと、儂の従者が朝早くに報告に来たわ。おおかた、貴様は寝ながらにでもその声を聞いていたのであろう」

「なんて卑怯な! あくまで、私の夢だった事にしたいのね!!」

「だから本当に儂は昨晩は寝ていたと言っているだろうが! 夢でないならば、貴様は幻でも見ていたのだ!」

「庭のザクロはどうなの!? 犯行現場には、必ずザクロが捨てられていたわ!」

「ザクロだと? 貴様は遠く極東の地から来たから知らないのだろうが、ザクロはこのインド発祥の果物だ! そんな木、どこにでも生えているわ!!」


 私はにわかに狼狽したが、すぐに気を取り戻して言った。


「私は、あなたの孤児院で似顔絵の子供たちを見たわ!」

「それだ! 儂にはそれが分からん。貴様が見たのは、儂とばったり会った時であろう? あの時は昼間だったし、さすがに夢を見ていたとは思えん」

「だから、全部夢なんかじゃないわ!」

「そこまで言うならいいだろう。これから一緒に孤児院に行って、その子供たちとやらを儂に見せてみるがいい! もし誘拐された子供が一人でもいれば、儂は貴様の言い分を全て認めてやろう」


 どこまで(しら)を切るつもりなのかしら……

 私は怒りに震えながらも、孤児院に行けば全てが明らかになると思って、教会長の申し出を受けた。


 ◆




 教会長は数人の従者を引き連れて、私たちと一緒に孤児院に向かった。

 道中、ヴァリニャーノ先生やマンショたちはひどく不安げな表情を浮かべていた。


 大丈夫。

 必ずあの子たちを見つけ出し、自分たちが誘拐されたという事をみんなに聞かせてみせる。


 この時、まだ私は自信に満ち溢れていた。


 しかし孤児院に着いた私は、絶望に突き落とされた。

 あの時に見た子供たちをいくら探しても、一向にその姿は見つからなかったのだ。


「おい、子供たちを全員この庭に集めてこい」


 教会長は、自ら率先して孤児院を運営する修道女に指示した。

 数十人の子供たちがまだ寝巻き姿のまま集められたが、その中に似顔絵の子供は一人もいなかった。


「こ、これで全員ですか? 他にも、ここに来ていない子たちがいるんじゃないですか!?」

「いいえ、この子たちが孤児院にいる全ての子になります」


 修道女が答えた。


「あ、そうだ! 昨日とか、もしくは一昨日の夜とかに、孤児院から出て行った子がいるんじゃないですか?」


 私は、ひょっとして一昨日、私と出会った教会長が慌てて誘拐された子供たちをどこかに移したり、奴隷船に売り飛ばしたりしたのではないかと思い、藁にもすがる思いで聞いた。


「何を言ってるんですか? そんな子は、一人もいませんよ」


 修道女は、怪訝な顔をして答えた。

 この女性が嘘をついているようには、とても思えなかった。


 本当に……私は、ずっと夢でも見ていたの……?

 絶望に打ちひしがれた私は、膝から崩れ落ちてしまった。


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