25.ジュリアンの日記 ④・調査
ジュリアンの日記
⚪︎月■日
今日は、マンショたちに少し調べたいことがあるからと言って、捜査活動から外してもらった。
教会長の様子を探るとはさすがに言えなかった。
もし私が教会長を疑っていると分かれば、全力で否定されることは目に見えているわ……
マンショたちが出かけた後、さっそく私は教会長の後をつける事にした。
朝のミサを終えた教会長は教会内の自室に戻った。
少し遠くの物陰から窓越しにその様子を見てみると、教会長は一人で書類か何かの整理をしているようだった。
「一体、私ったら何をやっているのかしら……」
お昼時になってもまだ淡々と整理をしている姿を見ながら、私は一人つぶやいた。
教会長ほどの立場に就任する人が、人攫いと何か関係があるかも知れないなどと考える方がおかしいのかも知れない。
そんな事を思っていた時、教会長がヒョイと立ち上がり、自室の外にある庭に出て行った。
教会長は背伸びをした後、おもむろに庭に植えられている木から何かの果物をもぎ取って、むしゃむしゃと食べ始めた。
私は目を凝らしてその様子を見た時、にわかに衝撃を受けた。
教会長が手を伸ばしていた木はザクロの木であった。
ザクロ……!?
これまで回った被害者の家でまだ荒らされた跡が残っていた部屋には、必ず潰れたり、食べかけのザクロが残されていた。
もちろん、それらのザクロが教会長の庭の木のものとは限らない。
ただ考えてみれば、現場に必ずザクロがあったのは何かの手がかりになるかも知れないと思う。
その後、教会長は自室に戻り身支度を整えると、お付きの者を従えて馬で外出した。
適度な距離を保ちつつ、私もその後を追った。
◆
半刻も経った頃、教会長たちは学校のような建物の前で止まり、大きな格子状の門を開けて中に入っていった。
「まだ出来たばかりの建物のようね……ここはどこなのかしら?」
そんな事を呟きつつ、少し間を置いてから、建物の入り口付近にいた修道女風の老女に話を聞いてみた。
「はい。こちらは、捨て子や親が亡くなった孤児などの恵まれない子供たちを集めた孤児院になります」
「孤児院ですか……教会が運営しているのですか?」
「そうです。ドミニコ教会長の肝煎りで作られたんですよ。あの方は、立派なお人ですねぇ」
教会長が作った孤児院……
「その子供たちは、どこから集められるのですか?」
「どこからって……そうですねぇ、ゴアの教会支部から送られてくることもありますけど、最近は教会長が自ら子供を連れてくる事が多いですかねぇ」
教会長が自分で連れてくる?
「あ……!?」
私はこの時、思わず声を上げてしまった。
以前マンショが言っていたように、攫われた子供がどこかに集められているとすれば嫌でも目立つはずだ。
だが孤児院であれば、子供がたくさんいても誰も気にしないのでは無いだろうか?
私は老女が去った後、周りを見回してから、そっと門から中に入った。
孤児院は広い前庭を有しており、その奥に校舎のような建物が並んでいた。
前庭には小さな噴水や東屋、薔薇が植えられた花壇などが配置されており、とてものどかな雰囲気だった。
建物の中に入ろうとした時、ふと、誰かに見られているような気配を感じた。
振り向くと、前庭のところに12、3人の子供たちが立っており、私の事をジッとと見ていた。
「こんにちわ。びっくりさせちゃって、ごめんなさいね。たまたま外を通りかかって、中が気になっちゃって……」
だがその子供たちは何も答えなかった。
この時、私は彼らをどこかで見たことがある気がした。
この子たちの顔は……マスカレーニャス副王の邸宅に行く時に見た、子供を探す貼り紙の似顔絵とそっくりではないか?
「ねえ君たち……!」
私が事情を聞こうとしたその時、建物の扉がバタンと開き、中から教会長が現れた。
「そうだったな……ん? あっ!? おい、貴様! たしかジュリアンとか言ったな? 一体ここで何をしている!? その子たちに、勝手に話しかけるんじゃない!」
教会長は額に青筋を立て、興奮して言った。
「お前たちも一体どこの班の子供だ? さっさと部屋に戻りなさい!!」
子供たちは、なおも私に何かを訴えかけるような目をしていたが、しぶしぶと建物の中に消えていった。
「許可も取らずに、ここの子供たちに話をするとは……まったく何を考えているんだ!? 貴様も、早くここから出ていけ!!」
私は教会長の従者に腕を掴まれ、孤児院から追い出されてしまった。
◆
教会長からはすぐにヴァリニヤーノ先生に苦情が入り、先生からとても怒られてしまった。
その話を聞いたマンショたちからも、なぜ孤児院に行ったのかを聞かれた。
マンショたちには私が教会長を疑っている事を素直に話したが、そんな馬鹿な、と相手にしてもらえなかった。
悲しみに沈んだ私を慰めてくれたのは、ジャンヌ様だった。
「みんな、信じてくれなかったのね……可哀想なジュリアン。でも、私はあなたの味方です。あなたの考えを信じますよ」
夜、教会を抜け出して聖堂に向かった私は、この言葉を聞いた時に涙が溢れそうになった。
ジャンヌ様は私の味方だ。
ジャンヌ様は私の話を聞いてくださる。
「教会長が怪しいのは確かなのだから、もう少し探ってみればはっきりするんじゃないかしら?」
ジャンヌ様はこう仰った。
正直、もう教会長を調べるのは止そうと思っていたところだったが、ジャンヌ様のこの一言を受けて再びやる気が湧いてきた。
真実を突き止めるまで決して諦めない事を誓い、今日は日記を閉じよう……




