表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/52

24.ジュリアンの日記 ③・疑惑

 ジュリアンの日記


 ○月▲日


 犯人探しの方は難航していた。


 私たちは引き続きゴア中を歩き回っていたが、どこも似たような話しか聞けず、手がかりは皆無と言ってよかった。

 他の3人には、強い疲労の色が見えていた。


 一方の私はと言えば、確かに体の方は疲れてはいた。

 というのも、教会に戻った後は毎晩ジャンヌ様に会いに行っており、睡眠不足であったためだ。

 ただ、ジャンヌ様とお話しすることは至上の喜びであった。


 私は普段、周りに対しては無口であり、正直この日記が話相手と言ってもいい……

 けれど、ジャンヌ様を前にすると言葉が溢れてきたし、そんな私の話を嫌な顔一つせずに聞いて下さった。


 ジャンヌ様は御自身が帯刀しているフィエルボアの剣も見せてくれた。

 十字架が5つ刻まれている刀身からは、凄みのようなものを感じた。


 そのような感じで毎晩が楽しい時間であったため、肉体的な疲れなど気にはならなかったのだ。

 そんな中、この事件の解決につながるかも知れないと思われる出来事があったので、この日記に記したいと思う。


 ◆




 被害者宅の聞き込みを終えてその家を出た時、マスカレーニャス副王の官邸の役人が息を切らせて私たちの所にやって来た。


「ハァハァ……皆様、こちらにいらっしゃいましたか」

「あなたは官邸の……どうかしましたか?」


 マンショが心配そうに聞いた。


「はい。昨晩また子供が攫われる事件が発生した、との報告がありました」

「えぇ!? それはどこで?」

「この近くの両替商の家になります。私が皆様をご案内いたします」


 私たちが犯人探しを開始してから、初めての事件であった。


 両替商の家に着くと、子供の両親が泣き崩れていた。


「ウウウゥ……こんな事になるなら、もっとあの子に優しくしておけばよかった……」


 悲しみに暮れる両親が落ち着いた頃を見計らい、子供部屋を見せてもらった。

 今回の事件現場は、特に荒らされた形跡はなかった。


「うーん……熟睡してて、人攫いが来ても子供は気づかなかったんですかね?」


 部屋の様子を観察しながら、マルチノが呟いた。


 その時であった。

 何やら外で騒がしい音がしたかと思うと、ズカズカとドミニコ教会長が部屋に入ってきた。


「お前たち、一体ここで何をしておるっ!?」

「私たちは、人攫いの犯人探しのため現場確認をしておりました。ドミニコ教会長は、こちらに何をしに……?」


 マンショが、やや(いぶか)しげに聞いた。


「この家の者は、私の遠縁の者なのだ! そんな事より、まだそんな警察まがいの事をしていたのか! お前たちには教皇さまをお助けするという大事な役目があるであろう! こんな所で時間を潰しているぐらいなら、少しでも剣の腕を磨いておくとか、色々できるのではないかっ!?」


 教会長は、烈火の如く怒って言った。


「し、しかし、私たちは副王より直接ご指示を頂きました!」

「お前たちはイエズス会のために働くのであって、副王の家臣ではない! 自分たちの役目を履き違えるな!!」


 その言葉に、私たちは何も言い返すことが出来なかった。


 教会長は帰り際、子供の両親に何かを話すと、私たちの方を振り向いて言った。


「ところで……今回の犯人について、何か分かりそうなのか?」

「残念ながら、今のところは何もございません」

「そうか……」

 そう言うと、教会長はツカツカと行ってしまった。


 ◆




「んもーっ! あのジジイ、一体何なのよ!!」


 両替商の家を出た後、怒り心頭のミゲルが叫んだ。


「私たちは、ゴアの人たちのためにこうして汗水流してるんじゃない! 幼い子供たちが攫われても、あいつは気にならないって言うのかしら!?」

「まあ、教会長のおっしゃることも分からなくはないですけど、ミゲ姉の言うとおり、あんなに怒らなくってもいいとは思いますよね」

「でも散々言った割には、最後はしっかりと私たちの捜査の事を聞いてきたわね。何か気になる事でもあるのかしら……?」


 マンショが腑に落ちないのには、私もうなずけた。


 ドミニコ教会長は、最初から私たちが動き回るのを頑なに反対していた。

 何か、事件のことを知っているのでは……?


 犯人探しが上手く行かないことや教会長の事でモヤモヤしていた私は、夜になってから聖堂を訪れて、今日あった事を話した。


 ジャンヌ様は、熱心に私の話に耳を傾けてくださった。

 私の話がひと段落ついた時、目をつぶって何かを思案された後、静かにこう述べられた。


「確かに、教会長の言動には気になるところがあるわね……あの人は教会以外にも、修道院や孤児院、学校運営までゴアで幅広く活動しているから、何か知っているのかもしれないわ」

「そうですよね? 何であんなに犯人探しの邪魔をしようとするのか、まるで事件を解決してほしくないみたいに感じてしまって……」


 肩を落としてため息を着くと、ジャンヌ様は微笑みを浮かべて口を開かれた。


「じゃあ、こういうのはどうかしら? ドミニコ教会長の様子をこっそり探ってみたら、何か手がかりが掴めるかもしれないわ」


 なるほど、と思った。


 正直、コソコソと人の事、ましてや教会長という立派な立場のある人の事を調べるというのは気が引ける。

 もしかしたら、本当に私たちの身を案じてくれているだけかも知れない……

 ああっ、もう頭が痛くなってくる!


 明日はみんなとは別々に動いて、教会長の事を調べてみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ