21.不安
「いやぁ、一時は本当に駄目かと思いましたねぇ」
マルチノは夜明けの太陽の光を浴びながら、晴々しい顔でそう言った。
大嶽丸を倒した後、私たちはいつの間にか最初に入った茂みの外にいた。
大嶽丸の城の中での時間はこちらの世界と流れが違うのか、既に一晩が経過していたところであった。
「ふふふ、驚かせちゃってごめんなさいね。敵を倒すにはまず味方から……あなたたちに本気で驚いて貰わないと、あの男も騙せなかったでしょうね。」
「それで私たちにも隠して拘束したと……あ、でも私たちを差し出しても、大嶽丸は疑ってましたよね? それで二の矢として、お姉様迫真の演技に移ったって訳ですね。一体、2人はいつそんな策を話し合ってたんですかぁ?」
「それは女同士の秘密よ……ねえ?」
鈴鹿御前に同意を求められたマンショは、少しバツが悪そうな顔をして応えなかった。
たぶん、昨晩私が離れから去った後に話をしていたのであろう。
同じ男を好きになった者同士、通じるものがあったという感じかもしれない。
変わり身の術や火遁の術は、あの本智という忍者から教えてもらったとの事だった。
手負いの自分は足手まといになってしまうので行けないが、憎き鬼を必ず倒してくれと言っていたらしい。
それともう一つ、マンショは三明の剣の一つ、小通連を鈴鹿御前からそのまま貰っていた。
「私はこっちの大通連を頂戴しておくわね。お揃いね」
(とか、話をしていたっけ……)
◆
私たちが教会に戻ったのは、お昼を過ぎた頃だった。
「ミナサン、本当に、本当に無事でよかったデス!」
ヴァリニャーノ先生がホッとした様子で私たちを出迎えてくれた。
「モチロン、アナタもデス……」
先生の言葉に、鈴鹿御前は無言で微笑んだ。
「しかしまあ色々あったけど、これでまた次の目的地まで船を出せますね! よかった、よかった」
私は笑顔でそう言ったが、ヴァリニャーノ先生もメスキータ先生も、なぜか浮かない顔をしていた。
「先生、何かありましたか……?」
そうジュリアンが聞くと、先生2人は何かを小声で話した後、メスキータ先生が口を開いた。
「ノブナガが……討たれマシタ」
この発言に、私はもちろん、他の3人も全員が絶句した。
(あの信長が……死んだってこと?)
「誰に、討たれたのですか……?」
普段は顔色を滅多に変えないジュリアンが、激しく動揺しながら聞いた。
「ナンデモ、明智光秀が裏切って、夜襲にあったヨウデス」
(明智……あの時、信長の側にいた青色桔梗の紋の男だ……!)
ふと気付くと、マンショとマルチノが私の様子を伺っているのが分かった。
(あ……!?)
「ら、蘭丸さまは?」
「詳しい事は分かりませんが、オソラクは、彼も討たれたでショウ……常にノブナガの側にいる役職だった訳ですカラ……」
(そんな……嘘だ! あんなに強かった蘭丸が、そう簡単に殺られてしまう訳がない……!)
私の手は小刻みに戦慄いていた。
「まだ続きがアリマス。その明智も、中国の毛利と戦ってイタ織田方の将、羽柴秀吉に討たれたソウデス。今天下の情勢は、この秀吉という男に傾いてイマス」
「なっ……!?」
余りにも話の展開が早すぎて、頭の整理が追いついていかなかった。
「ワタシたちも、今や日本から遠く離れているノデ、正確なトコロは不明デス。タダ言えるコトは、ワタシたちの旅の目的は変わりまセン。このまま、ローマを目指していくだけデス」
ヴァリニャーノ先生が話を引き取って言った。
私は蘭丸がくれた小刀を握りしめ、神に祈る事しか出来なかった……
今回で、第4部 マカオ編は終了です。
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