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20.続・対決

「まさか、貴様のような小娘が変わり身の術を使うとはな……だがこんな目眩(めくらま)しは一時凌ぎに過ぎぬ。すぐに貴様を八つ裂きにして……んんっ!? 御前よ。お前、そこで何をしておる?」


 大嶽丸が驚くのも無理はなかった。


 マンショの影になって見えなかったが、その後からヌッと鈴鹿御前が姿を現したのだ。

 その手には、今までは持っていなかった一本の刀が握られていた。


「嫌だねぇ、まだ分からないのかい。変わり身の術なんて、そう簡単に出来るもんじゃないだろう? 初めからこの子の身代わりを作っておいて、それをアンタに投げただけだってば」

「何!? お前が仕掛けた小細工か! 一体何の為にこんな真似を!!」

「えぇ? 嫌だよ、本当にまだ気付かないのかい。アンタって鬼は、昔から頭が鈍いんだからねぇ……ああ、本当に嫌だ!!」


 そう吐き捨てると、鈴鹿御前は手にした刀をまじまじと見つめた。


「これが大通連(だいとうれん)で……この子が持ってるのが小通連(しょうとうれん)と。ああ、本当にいい剣だねぇ。あんたみたいな間抜けには勿体無いから、アタシたちが頂くよ」

「あっ!? 貴様なぜそれを!!」


 大嶽丸は自分の腰に手を回すが、そこにあった筈の二本の刀は見事に鈴鹿御前の手に奪われていた。


(そういうことね……!)


 大嶽丸の視界を火遁(かとん)の術で奪っている隙に、鈴鹿御前が腰から刀を掠め取っていたのだ。


「この刀はアンタの力の源だろう? これが無くっちゃ、無敵の大嶽丸も形無しさね」

「おのれーーーっ!! お、お前は、一度ならず二度までもぉぉぉ!!!」


 怒りにかられた大嶽丸はその巨体をさらに巨大化させ、身の丈十尺(じゅっしゃく)にもなろうかという姿に変化した。


「覚えておきなっ! 女ってのは、一度冷めたら二度と惚れ直すなんて事は無いんだよっ!!」


 大嶽丸と鈴鹿御前は空中で激しくぶつかり合った。


「ミゲル、マルチノ、周りを……!」


 ジュリアンの言葉で、いつの間にか私たち3人の周りが役鬼や羅刹、赤鬼に青鬼といった無数の鬼たちに取り囲まれている事に気付いた。

 パチンッ! と鈴鹿御前が指を鳴らすと、私たちに絡みついていた糸がスルスルと解けた。


「ミゲルたちは手下の鬼をお願い! 大嶽丸はこの三明の剣でしか倒せないって事だから、私は鈴鹿御前さんに協力します!!」


 そう言って、マンショも大嶽丸に飛び掛かっていった。


「うん、分かったわ! こっちは任せ……わわっ!?」


 マンショの言葉に応える間も無く、無数の役鬼や青鬼たちが私たちに襲いかかって来た。


「偉大なる神の御心(みこころ)に逆らう者は……皆斬る!」


 ジュリアンはその一言を言い放つと、十数にものぼる鬼の手や金棒を刀で薙ぎ払い、敵の強襲を一蹴した。


「キエエエエエエーーーーッ!!」


 続いて、甲高い雄叫びを上げ、怪鳥にも似た5体の羅刹が空中から飛びかかって来る。


「刀舞!」


 マルチノは、先のリマ号で使った刀を鎖鎌(くさりがま)のように振り回す技を繰り出し、羅刹の体をズタズタに切り裂いた。

 マカオに着いた後、2本の鎧通しを繋ぐ紐は、鉄線や鎖、弾力性がある蔓、さらには髪の毛を束ねて作った強靭なものに強化されていた。

 髪の毛を織り込んだのは、女性の髪の毛で()った紐には大きな象でも切ることができないという伝承に(ちな)んでのことらしいが、いずれにしろ相当な強さになったのは間違いないようだった。


「いやぁ、二人ともやるじゃない……私も負けてらんないわね、っと!!」


 背後から忍び寄って来ていた鬼の気配に気付いた私は、振り向き様に抜刀して2体の鬼を葬った。

 この調子なら、こっちはしばらくは(しのげ)そうであった。


 マンショたちの様子を見ると、その戦いは次元を超えていた。


 超大型の鬼となった大嶽丸は、今や釣鐘(つりがね)ほどの太さがある腕を振り回し、飛び交うマンショや鈴鹿御前を叩き落とそうとしていた。

 しかし、2人とも素早い身の動きで攻撃をかわすと、隙を見つけては大嶽丸の体を少しずつ切り刻んでいった。


「ぬううううぅぅ、いつまでもちょこまかと! これで……どうだっ!!!」


 そう言うと、大嶽丸は大きく右腕を掲げた。

 その手の先は暗い闇の中に溶け込んでいたが、ゴゴゴゴゴという音が響いたかと思うと、そこから巨大な刀が引き出されてくるのが見えた。


「ふはははははっ! これぞ、三明の剣の最後の一本、顕命連(けんみょうれん)よ!! 万が一の為に、時空の果てに隠しておいたのが役に立ったわ」

「あら。付き合ってた当初からどこにあるのかと思ってたけど、そんな所に隠してたのねぇ」

「これで儂の勝ちは決まりだなっ!!」

「は? 私たちが持っているのは、全部三明の剣でしょ。2本対1本で、アンタの負けじゃない。そんな単純な計算も出来なくなるほど我を失うなんて……もうアンタの負けは決まったようなものねぇ。さっさと降参なさいな」

「だ、誰が降参などするものかっ! 死ねぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!!!」


 怒り狂った大嶽丸が大刀を押し出し、鈴鹿御前目掛けて突進する。


「昔のよしみで、最後の情けをかけてやったのに。どこまでも馬鹿な男……マンショさん、行きますよ!」

「はいっ!」


 マンショと鈴鹿御前は左右に分かれ、大嶽丸を挟み込む形で両脇付近へと飛んだ。


「2人まとめて死ねぇぇーーーーっ!!!!!!!」


 大嶽丸が脇を締め、木こりが大木を斧で打つかの如くその大刀を奮った。

 しかし、2人はまるで天女が空中を舞うが如くヒラリと大嶽丸の一撃をかわしたかと思うと、両脇から両肩、両首筋までを一気に駆け上がった。


二撃(にげき)の陣!!」


 2人の剣が左右からそれぞれ反対方向へと薙ぎ払われ、漢字の二の字を書くかのように大嶽丸の首をえぐる。


「ぐぼおおおぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!!!」


 大嶽丸は大量の血を喉に詰まらせながら断末魔を上げ、その巨体ごと仰向けに倒れ、絶命した。


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