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19.対決

(しまった! やはり罠だったのねっ!!)


 刀を抜く間も無く、完全に身動きが封じられてしまった。


「何だ、この女たちは?」

「やだねぇ、この子たちはあなたが追いかけているキリシタンどもじゃないか」

「何っ!? この糞餓鬼どもが、酒呑の言う女剣士か!」

「そうさね。私が騙してここまで連れて来てやったんだから、感謝して欲しいね」


 鈴鹿御前から伸びる琴線(きんせん)が、更にきつく私たちを締め上げた。


「くっ……! やっぱり騙したわね、この糞女!!」

「一度は先生と結ばれた相手だから信じてたのに……酷いです!」


 私とマルチノが、交互に鈴鹿御前に罵声を浴びせる。


「うふふふふ、鬼は人を騙して食べちゃうから気をつけろって、小さい時に教わらなかったのかしら?」

「この悪魔めっ……!」

「あなたは……そう、ジュリアンだったかしら? あなたも大人になれば、裏切られた女の苦しみが分かる時が来るわ。まあ、あなたたちにそんな未来があればだけどね」


 鈴鹿御前はクスクスと笑いながらそう言い、大嶽丸の肩に手を回した。


「くっ……! こんな見え見えの罠に引っかかるなんて……!!」


 しかし当の大嶽丸を見ると、何か合点(がてん)がいかぬ様子であった。


「……御前よ。儂にこの女たちを渡して、その後どうする?」

「そりゃもう一度、あなたとやり直そうってんじゃないか。女の口からそんな事言わせないでおくれよ。酒呑から褒美をもらったら、それを使って仲良く一緒に遊んで暮らそうさね」

「ヴァリニャーノはどうする?」

「アイツは大事な娘たちを失って、さぞ悲しみに暮れる事だろうねぇ。あっさりと殺しちまうより、よほど地獄の苦しみを与えられるってもんよ」


 大嶽丸は、しかしまだ浮かぬ顔を見せていた。


「なぜ奴を殺さぬ? そんなに憎ければ、儂が直接殺してやろう。どうも儂にはお前の言う事が信用ならん。お前には、さんざんな目に遭わされているからな」


 その時であった。

 これまで沈黙を守って来たマンショが、体に絡みつく琴線を切り裂いて高く跳躍した。


「マンショ!?」


(でも……なぜこの琴が切れたの……?)


 マンショはクルリと後方に回って着地した。

 その手には、負傷した甲賀衆の手当ての時に使用した手術用のメスが握られていた。


「この鬼女め……やっぱり騙したわね!!」


 マンショはそう言いと、もう片方の手で刀を抜いた。


「あら……私ったら、鬼にも人間にも、誰にも信じてもらえないようねぇ」


 鈴鹿御前はそう言った刹那、袖から何本もの琴線を射出した。


「しゃらくさいっ!!」


 マンショの刀がそれらを次々と薙ぎ払い、徐々に鈴鹿御前に近づいていく。


「ふんっ!」


 鈴鹿御前が指を弾くと、弾丸のように琴爪ことづめが放たれた。

 (つぶて)となった琴爪が、マンショの緋袴を貫いていく。


「くっ……!」


 数発の琴爪を受けたマンショであったが、その傷も構わず、鈴鹿御前の直上高くに飛び上がった。


水車(みずぐるま)!」


 マンショは自ら刀ごとクルクルと水車のように回転しながら落下し、遠心力で何倍にもなった斬撃の威力を使って鈴鹿御前に斬りかかった。

 ガチンッ!! と音を立て、あともう少しの所で鈴鹿御前を捕らえ損ねたマンショの刀が、石でできた床を叩き割った。


「うーん、残念……惜しかったわねっ!!」


 着物をハラハラとはためかせ、マンショの攻撃をヒラリと交わした御前は、今度は着物の両袖から何十本もの琴線を放った。

 琴線は見る見る内にマンショの体を包み込み、さながら(かいこ)の繭のようになって、身動きを封じてしまった。


「ほら……受け取りなっ!!」


 鈴鹿御前は、琴線だらけの塊を大嶽丸の足下に投げ付けた。


「私とした事がつい油断して逃しちまったけど、これで元通り、4人揃って酒呑に差し出せるだろう?」

「ふはははははっ! よくやった御前よ! 鈴鹿山で朝廷の軍相手に暴れ回っていた時の強さ、まだ健在よのう。さっきは疑って済まなかったな。それにしても……」


 大嶽丸は、怒りの形相で足下の塊を睨みつけた。


「人間の分際で我ら鬼に逆らおうとは、糞生意気な小娘よ! 酒呑には、貴様の亡骸(なきがら)を送り付けてくれるわ! 死ねっ!!」


 そう言うと、大嶽丸はその黒光する足を高く持ち上げ、強く振り下ろした。


「マンショ!!」


 鈴鹿御前の琴線で身動きが取れない私たち3人は、大声を上げた。

 大嶽丸の足が、床に転がる繭を叩き割る。


 その時であった。

 大嶽丸によって砕かれた繭からは、バフンッ!! という火薬が破裂する音とともに、白煙があたり一面に撒き散らされた。


「なっ!?」


 爆心地にいた大嶽丸や近くにいた私たち3人も、モクモクと舞い上がる煙幕に視界を奪われてしまった。


「ゴホッ、ゴホッ!」


(い、一体何が起こったの……?)


 徐々に視界が開けてきたため、マンショの安否を確認する。


「ああっ!?」


 皆が一様に声を上げたが、それも無理はなかった。


 大嶽丸の脚により踏み潰された繭は粉々に砕けていたが、マンショの足と思っていた物体は、(わら)で作られた偽物であったのだ。

 藁を使って巧妙に作られた足の上から、緋袴が履かされていたに過ぎなかった。


「こ、これって甲賀衆が前に使った身代わりの術で、白煙は……か、火遁(かとん)の術では!?」


 マルチノが驚きのあまり叫んだ。


「ぬうぅ、ええいっ!! まだ目が染みるぞ、糞ったれめ!! あ、あの小娘はどこに逃げたっ!?」

「大嶽丸! 私ならここにいるわよっ!!」


 見ると、大嶽丸の後方に、刀を握ったマンショが凛とした姿をして立っていた。


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